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【「社会教育とは?」と問われて・・・】
ある町の町長に地区研修会開催の件で面談した時のことです。雑談の中で町長から「社会教育とは何ですか?」と唐突に問いかけられました。同行した副会長である他町の社会教育委員会のベテラン会長が即座に答えていました。しばらくして,町長は「多くの人に尋ねるがまともな返事が返ってきた試しがない」とこぼしていました。副会長の返答がご満足いただけたのかどうかは,残念ながらはっきりとしませんでした。
さすがに長を張っている人は抑え所を心得ています。「社会教育とは何か」が即座に明晰に説明できなければ,社会教育の指導はできません。指導者としての器を試された面談でした。おそらく社会教育委員の中で,この問いかけに即答できる自信があるという委員は少ないことでしょう。
社会教育を論じれば多大な言葉が必要になるでしょう。とても一筋縄ではいきません。それでも即答する必要性があります。それは事業者として優先順位の把握が不可欠だからです。目の前の状況に対して今最も必要な社会教育上の案件は何かという目標設定ができていなければならないからです。言い換えれば自らの仕事の核を常に意識できているかどうかに関わることです。総論は学者に任せておけばいいのです。現場で必要なのは優先順位を付けられた具体的な各論なのです。
指導者には,その仕事を一言で表現できる力が求められます。全部を言い尽くすことは必要ではなく,核心を掴んでおけばいいのです。そうすればすべてはそこから解きほぐしコントロールできるからです。もちろん闇雲に一点を選ぶのではなく,全体の動きを把握した上でのポイント選びが肝要であり,波及効果への的確な見通しを持っていなくてはなりません。
社会教育とは「人と人をつなぐこと」と考えてみます。全体としてのイメージは次のようになります。人はそれぞれ知恵を蓄えています。人がつながればその知恵が伝搬します。そこで社会の力が増進されるようになります。このプロセスが社会教育による「まちづくり」の骨格であり,生涯学習社会へのアプローチなのです。他方,事業推進の面で見れば,分散された各種の事業活動を整理統合することによって,効果的な配置(日程や区域など)に並べ替え,省力化と効率化を図ることが可能になります。
社会教育委員の会は,従来教育委員会の諮問機関という位置づけがなされてきました。おそらく教育という言葉に引きずられて,教育委員会にくっついた形になっているのでしょう。しかし,時代の動きの中で期待される役割は大きく変わってきています。人と人を結ぶことを実行しようとすると,事業主体である行政組織の縦割りが邪魔になってきます。事業の重なりが見られたり,マンネリ化に見舞われたりしています。その壁を通り抜けないかぎり,事態の進展は望めません。
一つの切り口は「生涯学習社会」というキーワードでしょう。この新しい言葉は従来の縦割り行政組織の全体にかぶせることができます。すべての人をこの指止まれと結びつけるに相応しい合い言葉になり得ます。このことに気付いた自治体では生涯学習推進を首長部局に取り込み,成果を上げています。波に乗り遅れまいという程度の取り組みで,社会教育の看板を生涯学習に掛け替えただけの自治体では,組織不全を起こしつつあります。具体的には,生涯学習という広範な取り組みが従来の一部局である社会教育分野にのしかかって来ています。
組織の改編は社会教育委員の領分を超える問題です。与えられた職務の中で効果を出さなければなりません。時代の風を感じ取ってそれを追い風にする舵取りが必要です。今の風は情報化です。IT革命というキーワードを武器にすることを考えましょう。情報化はまさに「人と人を結びつけること」そのものだからです。情報化の推進という名の下に適切な計画を立案すれば,社会教育の推進も同時進行することが可能です。学習情報の提供という生涯学習への下地づくりも達成できます。組織の体質を改善するには,組織の血液である情報の共有化が最も本質的なことでもあります。共有化という新しい情報縁づくりの始まりです。
(2001年07月26日)
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