*****《地域の教育力》*****

【5.まとめ】


 家庭・学校・地域の教育力はどれが欠けても成り立ちません。特に今は家庭の教育力の低下が指摘されていますが,それは親の責任だけではありません。地域のつながりが失われてしまったことが,家庭を弱体化したと言うことも出来ます。地域が地域として機能を果たすようになれば,家庭も家庭としての機能を取り戻すことが出来るでしょう。その地域を活性化するためには

(1) 地域性:知り合いの確保
地域活動の中で最も疎かにされている領域です。最大の努力を傾けるべきです。

(2) 共同性:助け合いの定着
「迷惑をかけないように!」と考え過ぎて閉じこもらないように,そして地域の中では「迷惑はお互い様!」という人間関係が相応しいものです。

(3) 継続性:学び合いの実践
地域に住む人の経験と知恵を埋めてしまわないように,地域の皆に分かちあえるように,人間開係を整備することが大切です。経験を抜きにした学びは所詮頭の中だけにしまわれてしまうものです。その点地域に蓄えられるカルチャーは保証付きであり,地域に住む人に取っては最適のものと言えます。

 この三つの機能を上手にブレンドすることが,地域に関わっている人に求められることです。どのような事業であっても,この三つの機能は必ずその成分として含まれています。大事なことはそのことを見逃さないことです。例えばあいさつ運動を考えてみますと,人と人とのつながりを深めることは明らかですし,朝の気持の良いあいさつはその日一日を爽やかにしてくれ(助け合い),また年輩者・大人からあいさつの声をかけることはマナーを教えることになります。何をするにしてもこのようにバランス感覚を持って対処すれば,内容が豊かになって来るはずです。
 いつまでも長生きし,いつまでも美しく,いつまでも豊かでありたいなら,その方法は一つ,「人を好きになること」です。


《結び》
 地域が活性化することとは,地域に生活があることです。そのことは子どもにとって必要なことであると同時に,すぺての人にとって大切なことでもあります。今地域の大人が子どもたちにどんな地域を残してやれるかという問いを,自らに問いかけるときです。もしも大人が現状のまま無為に過ごせば,地域は消滅に向かって行くでしょう。地域というものの味を多少は知っている今の大人の責任は,これからの地域として相応しい新しい地域を創り出すことです。
 先人たちは自分が会うことのない子孫のために山に木を植えてくれました。今の大人にそれが出来ないという理由はないはずですが,生きているうちに金に出来るものはなんでも金にしてしまっているような感じを拭えません。今生きている人は死んでいった人と生まれて来る人に対して責任を負っているという覚悟が忘れられています。これもまた地域での生活が失われたためなのでしょう。
 社会の成熟を迎えて創造性を求める声が高まってきていますが,地域づくりにおいても創造性が求められる時代になりました。創造性とは,実践の試行錯誤からしか得られないものです。したがって創造性を発揮するためには,まず行動すること,そして計画は後で整理のためにすれば良いという位の気持でいた方が上手く行くでしょう。プログラム無しで行動できることが,人間とコンピューターの違いです。通常は計画を立てて,それに従って現状を合わせようとすることが活動のやり方です。そうすれば活動の準備から成果までを確実に把渥できます。しかし同時に思いもしない成果は得られませんし,また管理の弊害をもたらすことにもなります。現在の組織活動が停滞しているのも,計画倒れであると言えます。なぜなら民益よりも組織益が優先してしまうからです。何かをやろうとすると,「金がない,暇がない,人手がない」という理由で潰されてしまいます。金と暇と人手がないからこそ地域が必要であり,逆に地域ではそんなものが必要ではないと言えます。では何があるのでしょうか。

 地域には色々な大人たちが住んでいます。その大人の生き方を見てみましょう。
  @血縁関係:家庭で家庭人
  A利害関係:職場で職業人
  B人間関係:社会(地域)で社会人
 今,人は家庭と職場で,家庭人・職業人としてしか生きていないのではないでしょうか。家庭と職場以外のところで,どんな生活をしているでしょうか。通勤途中,あるいは休日はボヤッと過ごしてはいないでしょうか。家庭と職場以外にも生活の場があることを見落しています。すなわち「社会人」であることを忘れています。生の人間になれば,その時,社会人が誕生するでしょう。