***** 《中学生を持つ親のための12章》 *****

【結の章 あなたのお子さんは,生き生きしていますか?】

《中学生になると》

 身体的に成熟の段階に入り始めます。生命活動が活発で,幼さから若さへと転換していく時期に当たります。弾けるようなと形容されるように,内から外に溢れ出るエネルギーに満ちています。このエネルギーが順調に発散できているとき,生き生きと輝いて見えます。ひたむきに打ち込むものを持つことが,生き生きしているための条件です。その対象はスポーツや勉学,趣味や遊び,あるいは異性への淡い関心などであったりするでしょう。
 ところで,何に打ち込んでよいのか分からない状態では,若さのエネルギーは出口がなくて鬱積し,やがて制御不能に陥ります。また,したいことがあってもできない状況にあるときには,押さえ込むために余計なエネルギーを必要としますので,かえって辛いことになります。いずれも生き生きとした状態にはなれません。
 生き生きとした表情は生きる喜びから現れてきます。若さは生きようとする衝動です。中学生にとっては若さを存分に発揮し,生きることを楽しむことが,何にもまして大切な育ちの課題です。ところが,豊かな時代に過保護気味に育てられ要求が常に充足され過ぎています。そのために生きる上での必要な待つとか我慢することが苦手です。親類や近所の人などとの少しばかり気を使う接触の機会を与え,よりよく生きる経験を与えるべきです。
 生きているとすべてが思い通りになるわけではありません。特に中学生は卒業後の進路という難題を避けられません。そのことを考えると不安や焦りに追い込まれてしまうことがあるでしょう。このように受け身になると生きることが辛くなります。破れて悔いなしという言葉があるように,悔いを残さないように今日を精一杯前向きに生きていれば不安や焦りは消え,かえって良い結果が期待できるでしょう。そのためには,どんなことでもいいから思い通りにできたという日常体験の積み重ねが必要です。そこから自分への自信が育ちます。卒業後のために生きるのでは,あまり生き生きとはできないでしょう。
 中学生の時期は幼い生の発散から洗練された生の発揮に変換する転換点です。したいことをすべてストレートに出すことはできませんが,そのことによって周りに仲間として受け入れられるようになります。自分だけの世界から仲間と一緒に生きる世界に広がっていきます。さらにその世界は大人社会に重なるようになります。このような世界の広がりは中学生にさまざまな戸惑いを与えます。あるときは後込みし,あるときは反発します。表面的な行動だけを見ているとうまく適応できていないように思われますが,それは準備行動として大切な体験だと言えます。内面の葛藤から自分を生かすにはどうしたらよいのかという方向と対応を探しています。この時期を乗り越えたとき,一段と成長した生き生きした姿を現すことでしょう。

《調査結果から》

 生きる力に溢れている中学生は,人生の中で最も健康であると言えるでしょう。ところが栄養剤や胃薬を飲んでいるものが30%ほどいます。このことは今どきの中学生がひ弱になったということで済ませることではありません。元気は出すものですから,出せないような環境に置かれれば,ひ弱にならざるを得ません。暮らしの中でごく自然に身体を動かしバランスの良い食事をとって,新陳代謝を活発にしていれば,薬物の助けは要らなくなるはずです。栄養剤などを求めるときは,暮らしのどこかがおかしくなっていると考える必要があります。
 性的成熟を迎え,子どもから大人への質的な変化に直面させられます。男性あるいは女性ということを明確に自覚するようになります。調査によると,例えば性について半数の中学生が関心を持ち,学年が進むにつれて割合は増加し,また女性の方が関心は高いようです。この関心の高さの陰には,性の問題についての不安があります。大っぴらに話せないために,自分の性についての認識が正常なのかどうかを判断できないからです。友だちなどの話は多分にオーバーな点がありますが,それが見抜けるほどの知識がないために,劣等感や異常感に悩んでしまうことも起こります。また異性への関心は,全体的,学年毎および男女間のいずれについても,性への関心の割合より1割増しであり,特徴は性への関心についてとよく似ています。
 親の方も男の子と女の子で対応を変えることがあります。例えば,性の指導をする母親は男の子には38%,女の子には57%となっているのは自然でしょう。しかし,手伝いの回数は女の子が多く,さらに両親揃って男の子には勉強を,女の子には後始末などの生活習慣を強くしつけている傾向については一考する必要がありそうです。母親については女の子だからという注意が特に強く,さらに小学生よりも中学生に対する方が増えています。中学生にとって父親と母親は最も身近な男性女性のモデルです。親も生き生きとした男女の姿を見せてやることが,何よりのしつけになるはずです。
 中学生時期の子どもは強い力で急激な成長をします。したがって特に母親は対応に苦慮し,父親の出番ですという声があがります。子ども成長にあわせた養育行動をとるためには,親もそれなりの学習を迫られます。本やテレビあるいは講演会などから養育情報を得ている親は,父親が19%,母親が55%に過ぎません。ところで,しつけに自信があるという親は父親母親ともに61%でした。決して多くはありません。このことは必要な情報を使って子どもの成長を見届けようとしていないために,子どもとの間にすれ違いがあるのではないかという不安を拭いきれないためでしょう。親が中学生世代の特徴を広く理解し中学生を包み込むように大きく懐を広げれば,中学生も生き生きと育ち,親も生き生き育てることができるようになるでしょう。

《親子関係の中で》

 子どもが生き生きしていれば,親は黙って見守っていればいいでしょう。でも,もしも生き生きしていないようでしたら,やはり親として放っておくわけにはいきません。子どもが生き生きできないのは,不満や不安という重い荷物を抱え込んでいるからです。ところで不満と不安はどこが違うのでしょうか。不満とは現状が思い通りにならないことで,そのストレスを反発や乱暴な行為として表現します。不安とは将来という先行きが見通せないことで,逃避し自暴自棄になったりします。どちらも生きているとついてまわるもので,完全に無くすことはできません。しかし,それらを多少は軽減してやったり,あるいは不満や不安にとらわれないようにしてやることはできるはずです。つまり,子どもを勇気づけるものを与えて相殺してしまうことです。
 例えば,親が気持ちを分かってくれないという不満なら,親は話しかけるよりまず聞くことに専念して不満のガス抜きをし,一方で愛情豊かな笑顔を与えてやることです。不満の中には他愛のないものもあります。何か欲しいものを買ってくれないという不満などです。そのようなときには,親は子どもの不満を性急に解消する必要はないでしょう。不満は欲望を抑える心を鍛える種でもあるので,無理しない程度に残しておくべきです。最近の過保護な傾向の中では,特に親が気をつけなければならないことです。
 また小学校から中学校に進学するときには,同級生と一緒とはいっても未経験な世界に入る不安があります。不安を軽減してくれるのは,知り合いの先輩がいるといった後ろ盾があることです。もちろん親は最大の後ろ盾でなければなりません。その上さらに中学生になったらこんないいことがあるという将来の楽しみを持たせ,不安を乗り越える力を与えることも大切です。ただ頑張れと言うだけでは不安はかえって募るばかりです。心構えとして一言で言えば,親がいつでもついていると思わせることです。子どもは生き生きとするために,親心というすねもかじっているのです。
 子どもが生き生きしていないのは,身体的に無理をしているというサインである場合もあります。夜更かしをして寝不足であるとか,十分な休養が取れずに疲れが溜まっているとか,あるいは初期の疾患や栄養のアンバランスがあるといったことです。いくら元気に満ちた世代であるとはいえ,個人差や体調の波もあるでしょう。生き生きしていなかったら,まず健康に細やかな注意をすることは言うまでもないことです。