*******  2 1 世 紀 に 語 る 夢  *******

〜 人 を 幸 せ に す る 衣 は 文 化 〜

【1】 21世紀へのトンネル
 20世紀初頭の万国博で描かれた世界が,世紀末には普通の世界になりました。例えば電気の世界,旅の世界,生活の世界は絵空事がまさに実現しています。近くはマンガで垣間見た夢いっぱいのブロンディの生活が手中にあります。夢は叶ったのです。しかしここまでに辿らなければならなかった道は紆余曲折でした。時代の風が巻き起こす悲劇と苦難の道でもあったことを忘れられません。
 システムをシュミレーションするとき,よい結果が出る前にはシステムはいったん悪い状態に入ることがあるそうです。必ずしも順風満帆のプロセスではないのです。つまり良い状態と悪い状態を併せ持つからこそ,そのバランスは確固とした安定性を生み出すもののようです。トンネルを抜ける勇気があってこそ,目の前に輝かしい風景が現れます。
 20世紀は文明主導の時代でした。豊かさが実現されたと語るとき,それは文明の繁栄世界の話です。それなのに豊かさが一向に実感できないという直感は何を意味しているのでしょうか。さらに次世代である子どもたちの不可解さが社会に対して牙を剥いてきました。文明の豊かさに逆風が吹いています。こんなはずではなかったと風の気まぐれを恨みたくなります。このトンネルを何とか抜けなければなりません。
 長寿を実現した医術世界では臓器移植が珍しくなくなりつつあります。その中で脳死という新しい概念が創出されて,戸惑いという波紋が広がっています。死という概念の細分化が行われようとしています。つまり死にもいろいろな段階があるというわけです。これは文明を担ってきた科学技術の世界が事象を分けることで分かってきたことの宿命です。細かく定義付けをすることで理論体系を組み上げ技術化してきました。人の死という精神世界の根元に矛先が突きつけられています。ここにもトンネルが開かれました。
 文明は力を備えています。高い文明世界は低い文明地域を吸収してきました。豊かさという即物的な力による開化を迫ってきました。20世紀末は地球規模で文明開化が終了しつつあると見なすことができます。文明の力が向かっている開拓先はどこでしょうか?