3月2日 癸未
去る月二十二日の除目の聞書到着す。将軍家従四位下に叙せしめ給う。前の大膳大夫
これを持参す。
3月3日 甲申
鶴岡宮に於いて一切経会を行わる。将軍家廻廊に御参り。御家人等廟庭の座に着す。
加藤判官光員楼門の砌に候す。
3月4日 乙酉
将軍家鶴岡宮に於いて奉幣せしめ給う。
3月12日 癸巳
桜井の五郎(信濃の国の住人)殊なる鷹飼いなり。而るに今日将軍の御前に於いて、
鷹飼いの口伝・故実等これを申し、頗る自讃に及ぶ。しかのみならず、鵙を以て鷹の
如くして鳥を取らしむべしと。その證を覧玉うべきの由、直に仰せらると雖も、当座
に於いては治め難く、後日たるべきの由これを辞し申す。
3月13日 甲午
相州召しに依って御前に参り給う。数刻御雑談に及ぶ。将軍家仰せて云く、桜井の五
郎と云う者有り。鵙を以て鳥を取らしむべきの由これを申す。慥にその実を見んと欲
す。これ嬰児の戯れに似たり。詮無き事かと。相州申されて云く、齋頼この術を専ら
にすと。末代に於いては希有の事なり。縡もし虚誕たらば、彼の為に不便なり。猶以
て内々尋ね仰せらるべしてえり。この御詞未だ訖わらざるに、桜井の五郎参入す。紺
直垂を着し、餌袋を右腰に付け、鵙一羽を左手に居ゆ。相州簾中よりこれを見て、頗
る入興す。この上は早く御覧有るべしと。仍って御簾を上げらる。この時に及び、大
官令・問注所入道已上群参す。桜井庭上に候す。黄雀草中に在り。鵙を三たび寄せ合
わせ三翼を取りをはんぬ。上下の感嘆甚だし。桜井申して云く、小鳥は尋常の事なり。
雉と雖も更に相違有るべからずと。即ち御前の簀子に召され御劔を賜う。相州これを
伝え給うと。