1232年 (寛喜4年、4月2日 改元 貞永元年 壬辰)
 
 

閏9月1日 戊申
  畿内・西海並びに近国相論の事、共に以て国領たらば、国司の成敗たるべし。庄園に
  於いては、本家・領家の沙汰たるべきの由定めらると。
 

閏9月4日 辛亥 霽
  寅の刻彗星乙方に見ゆ。庚方を指し、長二尺・広八寸・色白赤。この変白気・白虹・
  彗星未だこれを決せず。本星分明ならざるに依ってなり。和以降本星無き彗星出現の
  例、度々に及ぶと。
 

閏9月5日 壬子 晴
  周防の前司親實奉行として、司天の輩を召し聚め、昨夜の天変を治定せしむ。何の変
  たるやの由尋ね仰せらるるに依ってなり。晴賢、晴継、晴幸、宣賢等御厩の侍の上に
  着座す。将軍家簾中に御坐まし、これを聞こし食さるるか。面々の申す詞区々にてな
  お一決せず。
 

閏9月6日 癸丑 晴、夜雨降る
  後藤大夫判官基綱の奉行として、変気の御祈祷を行わるべきの由、その沙汰有りと。
 

閏9月8日 乙卯
  この両三日或いは陰或いは雨降る。今暁適々青天を見る。彗星猶出現す。光芒気を増
  す。長二丈・広一尺余、同方を指す。逆行一許丈、南行四尺、東山を去ること五尺ば
  かりなり。今日相州・武州御所に参り給う。摂津の守・駿河の前司・隠岐入道等祇候
  す。変気の事関東に於いて相論有り。未決の旨面々の申す詞を注し、京都に尋ねらる
  べきの旨評議に及ぶ。齋藤兵衛入道浄圓の奉行として陰陽師を召さる。各々参進す。
  親職・晴継・晴幸等白虹の由を申す。晴賢白気の旨を申す。泰貞・晴茂彗星の由を申
  す。宣賢蚩尤籏の由を申す。互いに相論の旨有りと雖も、分明ならざるの間、京都に
  尋ねらるる事暫く閣かると。次いで後藤大夫判官の奉行として、御祈祷を行わるべき
  の旨議定しをはんぬ。正忠・季氏執筆す。僧・陰陽師等の名字を注すと。

[百錬抄]
  彗星東方に見ゆ。長二丈余。
 

閏9月9日 丙辰 晴
  天変日来の如し。色白く光長し。
 

閏9月10日 丁巳 霽
  変気の御祈りを始行せらると。
   修法
  八字文殊(信乃法印) 雑掌(和泉の守)
  一字金輪(松殿法印) 雑掌(出羽の前司)
  尊星王(宰相法印)  雑掌(佐原五郎左衛門の尉)
  北斗(松殿法印)   雑掌(城の太郎)
  薬師(丹後僧都)   雑掌(駿河入道)
  愛染王(加賀律師)  雑掌(土屋左衛門入道)
  御当年
   一壇(助法印)   雑掌(陸奥の五郎)
   一壇(越後法橋)  雑掌(隠岐入道)
  鶴岡宮
   仁王会御神楽(政所沙汰と)
  御祭
   三万六千神(晴賢) 雑掌(武州)
   天地災変(親職)  雑掌(相州)
   属星(晴幸)    雑掌(宇都宮修理の亮)
   天冑地府(宣賢)  雑掌(大和左衛門の尉)
   泰山府君(経昌)  雑掌(足立の三郎)
   七瀬御祭(晴茂・重宗・晴秀・清貞・泰宗・道氏・文親)
 

閏9月11日 戊午 雨降る
  御供料等急速の沙汰を致すべきの由、武州別してこれを触れ廻さると。属星祭晴幸こ
  れを奉仕す。周防の前司奉行たり。将軍家その庭に出御す。
 

閏9月15日 壬戌 晴
  彗星微薄芒気見えず。遂に以て軸星無し。行度有りて数日出現すること先例無し。希
  代の変災たるの由、天文道等これを申す。
 

閏9月17日 甲子
  鏡社の住人高麗に渡り夜討ちを企つ。数多の珍宝を盗み取り帰朝するの間、守護人子
  細を尋ね問わんが為、彼の犯科人等を召し取らんと欲するの処、預所守護の沙汰に交
  ゆべからざるの由を称し張行するの旨、注し申すに就いて、今日沙汰有り。預所抑留
  すべきに非ず。交名に任せ、早く守護所に召し渡すべし。乗船並びに賊物の事、同じ
  く沙汰せしむべきの由、隠岐左衛門入道に仰せらると。
 

閏9月18日 乙丑
  法勝寺九重の塔修理の事、将軍家御助成有り。瓦葺焼料は西海の御家人に充てらると。
 

閏9月20日 丁卯 晴
  変災の御祈りに依って鶴岡に於いて臨時の神楽有り。将軍家御参宮。相州・武州・石
  山侍従(教定)・陸奥式部大夫・民部少輔・周防の前司・左近大夫将監(佐房)・駿
  河の前司・上野の介・和泉の守・駿河判官・土屋左衛門の尉・嶋津三郎左衛門の尉以
  下供奉す。
 

閏9月21日 戊辰 晴
  去る四日の変彗星たるの由、京都密奏の輩勘文を進す。今日到来す。泰貞最前の申状
  符合するの間、その子細を載せ御書を泰貞に下さる。周防の前司親實奉行す。
 

閏9月26日 癸酉 晴
  今日御台所の御祈り等これを行わる。また鶴岡宮寺に於いて、百口の僧を屈し仁王会
  を行わる。云うにこれ彗星の御祈りなり。
  彼の呪願文に云く、
   牟尼釈範 仁王妙文 一部金乗 両軸寶偈 通二諦道 開五忍尽 佛界庠蔵
   法門枢健 極聖目足 大士肝心 実智挙燈 慧輝瑩鏡 一四天下 三千界中
   褊日月明 破国土暗 排般若蔵 解露一封 捧摩尼輪 降雨万寶 天上妙薬
   甘露染唇 海中寶珠 法水潤色 吉海舟楫 飛化度帆 護国劔刃 磨勝利刀
   満足悉地 早於龍蹄 被膽諸天 扣得麟角 彼佛本誓 方便無量 斯経大慈
   効験利□ 感応之至 得而難称 霊威之通 仰而取信 従初三晩 迄弟九晨
   白気聳東 蒼穹驚下 司天所告 懇地不閑 称星称蛇 数丈数尺 変異縁底
   畏途覆水 恐懼多端 休門相泥 何況閏月 加干暮秋 愉慎紫霄 漸送素律
   又是年厄 太一定分 因茲日来 無貳方寸 仰佛天応 丹祈翹誠 呪幽明霊
   請微運志 新本吉日 就八幡宮 敬屈臥雲 展百講席 非仮佛力 誰競天災
   非浴神恩 爭禳時妖 白法不妄 金言無私 縦雖彗星 蓋鎖法雨 玉燭照洞
   表壽星祥 香烟薫空 彰慶雲瑞 宮闕月朗 狎葉縣烏 羽林風和 戯華表鶴
   正室翠帳 伴岩松栄 将軍華亭 譲石椿算 家門千輩 華夷兆民 楽有道邦
   誇無為世
     貞永元年閏九月二十六日