第二点.原判決には、つぎのとおり民法709条に定める因果関係の解釈を誤
    った違法があり、判決に影響を及ぼすこと明らかである。


一、原判決が認定した事実は以下のとおりである。



 被上告人桐〇の過失について

 1. 被上告人桐〇は、昭和62年6月24日、まゆみの定期健康診断の結
   果につき、血液検査等の結果を合わせて総合判定を行った。
   この時点で、右レントゲン写真の読影担当医師としては、被検者につき
   精密検査を受けさせるべきであって、右異常陰影の存在に気づきながら
   も、この点について精密検査を不要とした被上告人桐〇の判断は誤って
   いるものと認められる。
    したがって被上告人桐〇が、この時点でまゆみに対し、精密検査を指
   示しなかったことには過失があったものと認められる。

 2. まゆみは同年7月14日、被上告人〇〇ビル診療所において糖負荷検
   査を受け、被上告人桐〇の診察も受けた。・・診療の際の前記まゆみの
   訴えと総合しても・・・やはり右下肺野の異常陰影に気づいて、肺癌、
   結核、肺炎等を考慮にいれた精密検査が行われるべきであることが認め
   られる。

    そうするとこの時点で、診察を行った医師としては患者につき精密検
   査を受けさせるべきであって、上気道炎を第一に考え、セキ・タンに対
   する消炎剤、去タン剤を処方し、経過観察とした被上告人桐〇の判断は
   誤っていたとものと認められる。
    したがって被上告人桐〇が、この時点でまゆみに対し、精密検査を指
   示しなかったことには過失があったものと認められる。

 被上告人桐〇の過失とまゆみの死亡との因果関係

 1. 鑑定の結果によれば、昭和62年6月ないし7月の時点でのまゆみの
   肺癌は病期ステージVa以上に該当するものと推定され、手術が可能で
   あったとしても30パーセント以下の5年生存率となり、リンパ節の転
   移によっては、更に延命は困難であり、手術不能の場合、最高の治療を
   行ったとしても50パーセント生存期間を1年まで延命することは困難
   であること。遠隔転移が認められればW期症状となり、それ以上に延命
   は困難であることが認められる。

 2. 昭和62年6月ないし7月の時点で、まゆみの肺癌がリンパ節に転移
   しなかったと断定できず、同年8月4日に日大病院に転医した時点では
   すでに手術不能の状態であったもので、たとえ6月ないし7月の時点で
   肺癌の疑いが認められたにしても、まゆみの予後には大差がなかったで
   あろうことが窺われ、その時点で適切な処置をしていれば、現実の転帰
   に比べて相当期間の延命利益をもたらしたであろうと推認できる事情は
   見あたらない。


 3. そうすると被上告人の前記過失による適切な処置がとられなかったた
   めに、まゆみの死亡時期を延ばすことができなかったとの意味で、右過
   失と延命利益の喪失との間に相当因果関係があるとは認められない。


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