サマースクール旅日記 (August.1999)
   
  10日(火)自分の体力に感心する

昨晩はせっかく11時に寝たというのに、腰が痛くて夜中の2時に目が覚め、4時まで寝られなかった。鳥の声がしてきた頃、やっとうとうとしだしたので、いまいち寝覚めが悪い。相変わらず腰は痛い。今年は先生についてはラッキーだったけれど、部屋については柔らかいベットにあたってしまってアンラッキー。バランスがとれているなぁと苦笑する。昨日までは疲れてどこでも寝れる状態だったけど、体が復帰して敏感になってきた、ということだろうか。
頭をすっきりさせようと窓を開けてみると、はぁーっと吐いた息が白くなる。日一日と寒くなって、季節が逆戻りして行くみたい。

朝一番のダンステクニックVが一番寒い。長袖のTシャツはなぜか黒ばっかり持ってきてしまったので着られないし(筋肉の動きが見えにくいので、MMMではレッスン中に黒は着てはいけないことになっている。)、デニムのシャツはごわついて動きにくい。
結局半袖のTシャツで震えながら受けたが、マークス&スペンサーのあの8ポンドのカーディガンを買っておくんだった、と後悔しきり。トレーナーで暖かそうにしている皆が羨ましい。それでもレッスンの最後には、じんわり汗ばんでくるのが救いだ。

風邪っぽいのも軽減して、今日はなんだか頑張れそうだ。起き抜けの腰痛もすっかり治っている。
モーブのゼネラル、ダンスクラス(マリーが先生、でも先日のクリエイティブの方が面白かった)と受けた後、今日からはランチの前の空き時間にルビー(オーストラリア人)のダンスに誘われていて、その練習が入る。
彼女は元女優で、ドラマチックなダンス・ドラマが得意。ジム先生が、「彼女のダンスでは、最後に誰かが必ず死ぬことになっている。」というとおり、すごく怖くて同時におかしい。ダンスリサイタルには欠かせない存在だ。
今年も期待たがわず、古式の宗教儀式で村人の中から選ばれた生贄が、後ろから髪をつかまれ胸を剣でぐさりと刺されて終わる「Ritual Sacrifice」というダンス。
最初の練習なのでなかなか動きが決まらず(集まったメンバーの顔ぶれを見て、決まる部分も多いから)予定の30分を過ぎ、ランチに出遅れる。案の定、人気のバナナはなくなっていて、がっかりした(私には大問題)。明日は誰かに頼んでおこう。

インテンシブ、ミックスのゼネラルと受け、ティータイムにはバナナのかわりに日本から持ってきた「黒糖くるみ(くるみに黒砂糖をまぶしてある)」を食べて、元気回復。今日のダンステクニックT&Uはナディアなので、絶対受けようと決心する。

ナディアは人気があるので、広いシアターも一杯だ。ダンステクニック自体は基本通りだが、組み合わせてのコンビネーションが彼女独特。普段余り使われない横にスライドしての体重移動や、ハーフターンが随所に出てくる。
このクラスはカラーに関係なく誰でも受けていいのだが、やはり初級中級には難しかったらしく、途中で半数くらいが脱落。壁際までステップを踏み終わって振り返ると、ずらりと並んで見学していた。昔は私もあちら側にいたのになぁ、と感慨深い。

さてさて、次はクリエイティブだ。今朝掲示板を見ていると、ローズが後ろからのぞきこんで「今日のクリエイティブは絶対おすすめ。タルボット先生は、マーガレット・モリスが生きていた頃のレッスンを見せてくれるわよ。私は絶対行くわ。setsuもどう?」と半ば強制するように誘ったレッスン。
うん、と返事した以上行かねばなるまい。ちょっと疲れていたけれど、そこまで言われれば興味もあるし…

参加してみると、本当に良かった。マーガレット・モリスの著作「CREATION IN DANCE AND LIFE」の中の、「即興の章」の挿絵を見ているような感じ。今まで写真や図式を見ながら想像していたものが、こうして音と動きを伴って目の前で表現され、自分もその一部になって動くというのは、ちょっとした感動だ。
それにしてもタルボット先生の変わり様に驚く。モーブの朝のクラスでは、椅子に座って休んでばかりの「おばあ様」と言う感じなのに、ここではどうだろう! シャッキっと背を伸ばして鋭い指示を出し、一度も休んだりすることがない。すっくと立った姿には威厳が漂い、声には張りがあって的確なカウントを刻む。まるで別人だ。
この頃は80歳を越えた大御所達の姿がめっきり見られなって残念だったが、この姿を見て、86歳まで現役で教えていたクレア先生やつい最近なくなったキャサリン・マーシャル先生のことを思い出して胸が熱くなった。こんな年になっても、思わず尊敬してしまうようなレッスンが出来るなんて、同じMMMのメンバーとして、本当に誇らしい。
最近は世代交代が進んで、ナディアやマリリンのレッスンに人気があるけれど、これこそMMMの醍醐味だと思う。私も80歳になっても現役で教えられるようなティーチャーになりたい、と初めてサマースクールに来たときに思ったことを、改めて思い出した。ローズ、このクラスを薦めてくれてありがとう。

夕食を食べながら、今日はそう言えば全部クラスに出たんだったと気づく。昼食前のリサイタルの練習を入れると、8時間半!
はじめの頃は一日に3時間しか受けられなくて、寝てばかりいた私には想像もつかなかったことだ。
(もともとMMMには、仕事で壊してしまった体を何とか丈夫にしようと思って入った。神経性胃炎に加え、腰痛・肩こり・頭痛・食欲不振など等、今の私を知っている人は「うそだぁ」と言うけれど、500メートルも歩けない時期もあった。
辛かったあの頃に比べ、今のなんと元気なこと! 普通のダンサーには8時間の練習など大した事じゃないかもしれないが、私にとっては大躍進。自分で自分を誉めてあげたい。)
今年に入って教室が増え、知らないうちに体力がついてきたんだなぁ。時には教えるのがしんどいと思うことがあるけれど、こんな風にサマースクールをフルに楽しめるようになるのなら、今度からは自分のためだ、と張りきって頑張らなくっちゃ。

夕食後はビンゴ&バザー。Eriさんはお土産用に、実に目ざとくいい物を見つけていた。みんな張りきって目がきらきらしているのが可笑しい。
Kenny GのCDを2ポンドで買ったあと、さすがに疲れて先に帰った。