サマースクール旅日記 (August.1999)
 
     
  11日(水)日食を体験

ジム先生の予言通り、今日は晴れて少し暖かい。シアターのすぐ前の大木に住んでいるリスも、今日は朝から忙しそうだ。昨日までは雨続きでずっと曇っていたというのに、日食の日に天気が良くなるなんて、なんてついているんだろう。
部分日食は、地学部に所属していた高校の頃、観察したことがあるが、今度のようなほとんど皆既日食というのは始めて。どのくらいあたりが暗くなるのか等、興味深い。

予定時間はちょうど午前のコーヒータイム。みんなカップを持って、食堂の前の芝生に集まってくる。
子供たちは、ジム先生の「長く見つめると危険だから、夢中になりやすい子供たちには間接的に観察させるように」という忠告通り、建物の中の陽の当たるテーブルの上で、観察用グッズ(円形の穴をあけたボール紙)を広げて待っている。大人が外で騒いでいても、ちゃんと言うことを聞いて中で待っているあたり、日本の子供と違っていて感心だ。
スイスやフランスの人たちは、ニュースでも伝えていたように、日食観察用のサングラスをちゃんと用意している。
10分ぐらいお茶を飲みながら皆が「わぁ」とか「おぉ」言っている様子を楽しんでから、私もサングラスを貸してもらって見てみた。
(実際の輪郭は、フレアーが掛かってゆらゆら揺らめいている。
時間はおおよそ11時15分。最大値の時間に近い。約10分後に貸してもらうと、右側のように反対側に変わっていた。)

太陽はほぼ隠れているというのに、あたりは想像していたよりも明るく、曇りという程度。意外だ。しかしその曇り方が普通とは違う。うまく表現できないけれど、「何か不吉な物が近づいて来ている」ような、何とも形容しがたい不気味な薄暗さなのだ。
鳥たちはお喋りを止め、騒いでいるのは人間ばかり。驚いたことに、急に風が吹いてきて、にわかに気温が下がり始めた。襟元をかきあわせて、普段当たり前と思っていた太陽の力のありがたみを感じる。あたりは異様な静けさに包まれている。その何とも言えない不自然な感じは、阪神淡路大震災を経験した私に、あの時の翌朝の静まり返った町の様子を思い起こさせた。
やがて段々と暖かくなり、明るさも戻って、安心したような鳥のさえずりも聞こえだした。科学的な知識もない彼らにとっては、息を殺して過ごした数十分だったことだろう。昔の人が日食を恐れていた理由が理解できた、エキサイティングな経験だった。

日食観察の途中でリリアがダンスクラスのために体育館に向かっているのが見えたが、後ろめたさを感じつつその時間はパス。きっと日食のせいで参加人数は少なかったと思う。罪滅ぼしに午後のダンステクニックは一番前で頑張り、リリアから珍しく「Thank you, Setsuko!」と声をかけられて嬉しかった。

夜のイベントはアドバンスド・デモンストレーション。中級から一番上級のカラーまでエクササイズを見せてくれるサマースクールの華だが、今年は常連のマジェンタ組が少なく、また1週目ということで調子が出ないのか、ちょっと迫力不足。来週に期待しよう。