谷汲線CD

「サウンドファンタジー 名鉄谷汲線の夏」
のご案内

日本の「原風景」― 今や私たちが失いつつある貴重な音源が、
谷汲線には数多く残っています。
深い緑の中を走る赤い電車の懐かしい響きが、
踏切の鐘の音、蝉時雨、根尾川の水音、夕暮れの烏の鳴き声、
夏祭りの花火の音とともに郷愁を誘います。
このCDをお聞きになれば、
心のふるさとへの思いを呼び起こすことでしょう。
廃線を迎える2001年の夏―
豊かな自然と変化に富んだサウンドが、
あなたを谷汲線の旅へといざないます。  


■CDのあらまし

・ タイトル :
「サウンドファンタジー名鉄谷汲線の夏」

・ 録音/編集 :大島 一朗

・発行 :滑阜新聞社

・価格 :1,200円(税込み)

 

・概要
このCDは「谷汲線と自然との関わり」をメインテーマとし、四季を通じて最も谷汲線らしい「音」が表現出来る夏に取材を行いました。まるで交響曲のような7つのバラエティーに富んだ乗車音、通過音で構成されており、73年も昔の電車の懐かしい響きと踏切の「鐘」の音を、蝉時雨、川の水音、 夕暮れの烏の鳴き声、夏祭りの花火の音などと共にアレンジし、心のふるさとへの思いを 呼び起こす様な情緒的な内容に仕上げています。
お蔭様で、このCDは広い年齢層に受け入れられ、地元の方はもちろん現地を訪れた全国の方々や鉄道ファンから「臨場感がある」「情緒的」「癒される」とご好評を頂いております。
また、谷汲線に行ったことのない方からも「ヒーリング系の旅の音」としてご満足の声が多数届いております。
様々なメディアにもこのCDは紹介されました。鉄道関係の雑誌では 「鉄道ファン」「鉄道ピクトリアル」「RailMagazine」「鉄道ダイヤ情報」2002年1月号、「鉄道ジャーナル」2002年2月号にそれぞれ紹介記事が掲載されました。 また、カメラ雑誌「CAPA」2002年2月号にも大々的に紹介記事が載りました。地元の「岐阜新聞」や「岐阜放送」でも紹介され、去る10月9日、岐阜放送ラジオに私も出演致しました。

録音時間はトータル42分余です。詳しくは後の「解説」をご覧下さい。

1. 黒野駅 (発車音) …新旧の電車と蝉時雨、遠雷
2. 黒野北口駅―谷汲駅(乗車音) …蝉時雨、踏切の鐘の音―レトロな電車の夏の旅
3. 黒野北口駅―豊木駅(通過音) …蝉時雨、朝のお経、そして駆け抜けるたった1両の電車
4. 北野畑駅―赤石駅 (通過音) …川の水音 ゆっくり走る電車の優しい音
5. 長瀬駅 (着発音) …夕暮れのお寺の鐘、烏、こだまする電車の音
6. 長瀬駅―谷汲駅 (通過音) …ひぐらしに囲まれて電車は走る
7. 黒野北口駅―黒野駅(通過音) …夏祭りの花火の音とともに

谷汲線はあいにく2001年9月末限りで廃線となり、もう同様の音は日本では二度と聞けな くなってしまいました。一人でも多くの方にこの貴重な音を聞いて頂きたいと思いますので、ぜひこの機会にご購入下さい。

 

■ご購入について

2002年1月9日現在、次のルートでご購入頂けます。

・岐阜
自由書房主要店、岐阜新聞販売店、谷汲村(旧谷汲駅横「谷汲村昆虫館」売店)、名古屋鉄道関係

・東京
書泉グランデ、書泉ブックタワー、栄松堂書店東京駅店

・名古屋
三省堂書店名古屋テルミナ店・高島屋店、白樺書房

・大阪
旭屋書店本店

・その他の地域
お手数をお掛けしますが、

岐阜新聞情報センター(出版室)
Eメール: hon@gifu-np.co.jp
Fax : 058-264-8301

に直接ご注文下さい。
代金は後払い。CD同封の郵便振替用紙でお願いします。尚、送料は180円です。
午前中に申し込まれると当日発送して頂けるとのことです。

■CD解説(CDの解説文+Ichiroのコメント

1.名鉄谷汲線とは
この鉄道は、岐阜県岐阜市の西北に位置し、「西国三十三霊場」の最終札所、谷汲山華厳寺の巡礼客の輸送を目的に、大正15年(1926年)、「谷汲鉄道」によって開設された。以後名古屋鉄道に吸収され、現在に至っている。全長は11.2キロ、岐阜県揖斐郡大野町の中心黒野(くろの)から、同谷汲村の谷汲(たにぐみ)まで所要わずか23分の小さなローカル線で、昭和3年(1928年)製のモ750形という古い電車が日中は1時間に1本、たった1両で行ったり来たりという運転形態が原則となっている。また、沿線には、豊かな自然が残っており、川あり山ありと典型的な日本の「原風景」が楽しめる。
しかし、近年過疎化やモータリゼーションの影響で利用客が激減し、惜しくもこの2001年10月に廃止されることになってしまった。

2.作品解説
谷汲線には、70年以上前の古い電車、懐かしい「鐘」(アコースティック)式の踏切など、21世紀の今日ではもうほとんど味わえない貴重な「音」が数多く残っている。
この作品では、谷汲線の特徴を最大限引き出すために夏に焦点を当てて取材を行った。全編にわたって、蝉時雨や烏、そして虫の声などの自然の音が溢れている。また、お寺の鐘や、夏の風物詩−花火の音も一緒に入っている。
また、谷汲線の電車では冷房も扇風機もないので、夏は開放感のある音が収録出来る。「乗車音」では、昔懐かしい唸るような電車の響きに加えて、窓から蝉時雨やアコースティック式の踏切の音がふんだんに飛び込んで来て楽しい。
こうした豊かな自然と変化に富んだ音を通じて、谷汲線の夏、いや我々がどこかに置き忘れて来た、古き良き日本の旅の光景がよみがえることだろう。

それでは、作品順に内容を説明させて頂こう。

@ 黒野駅 発車音('01.08.15収録)
夏の夕方の黒野駅。後ろの神社では蝉が鳴いている。3つのホームには新旧とりまぜた電車が止まっている。
17時45分、まず2番線からインバーターの独特な音を響かせて、最新鋭のモ780形が岐阜に向け
て発車。1分後、正面の1番線から揖斐線本揖斐行モ750形が唸るようなギア音を上げて出て行く。
そして、更にその1分後、谷汲線谷汲行モ750形が3番線から相次いで発車して行く。
「雨降ってた」乗務員同士の会話も間に入る。駅員の「発車!」という合図が頼もしい。
谷汲線の発車と同時に、飛行機の爆音に続いて聞こえる遠雷。ちょっと不気味な雰囲気だ。

Ichiroのコメント

1分ごとに3つの電車が発車するのは、ほとんどこの時間帯だけ。時刻表を見て「狙い撃ち」したものです。電車のタイミングが合わなかったり、「鉄ちゃん」の声が入ってボツになったりもあったけど、この音は割とすんなり録音出来ました。新しいインバータ制御の電車の「ヒューン、ヒューン…」という未来的?な音と、「ウイーーーーン」と地の底からうなる様な古い電車の懐かしい音とが対照的です。最後に遠雷の「ゴロゴロ」音が聞こえてきた時、思わずやった!と思いました。


A 黒野北口→谷汲 乗車音('01.08.11収録)
黒野北口(くろのきたぐち)駅には大きな桜の木があり、夏は蝉時雨が楽しい。また、近辺には
直線区間に短い間隔で踏切が並び、しかも大半がアコースティック式なのが嬉しく、ここには
何度も足を運んだ。本編でも、遠くから近づいてくる「カランカラン…」の音が楽しめる。
15時45分、モ750形が近づき、乗車。この日は新人?運転士の他に指導の職員も添乗している。
豊木(とよき)、稲富(いなとみ)あたりまでは平地を勢い良く走る。短いレールのせわしない音が
独特だ。
蝉時雨の聞こえる更地(さらぢ)を過ぎると、今度は上り坂。モータ音が頼りなく聞こえて来る。
子供が何かしゃべっている。
間もなく小さな峠を越え、ガタガタと勢いづいて坂を下る。「ジャーッ」と蝉の声が聞こえて来る。
北野畑(きたのばた)。ここはこの線で唯一の行き違い可能な駅で、臨時電車が運転される時は
タブレット(通票)交換も行われる。この日は「併合」と言ってここでの行き違いはなかったが、
指導の職員はタブレットの形を確認させていた。小さな声が聞こえる。
北野畑を発車、ポイントをガタガタと渡る。電車が大きく揺れ、吊革が網棚に当たって 「チャン
チャン」と鳴った。ミンミンゼミの声も聞こえている。
電車はここからS字型に流れる根尾川に沿ってカーブを切り、のんびり走る。鮎の友釣りやバーベ
キュー、そして川で泳ぐ人が見えている。が、こちらは車輪のきしみや車体の揺れが激しい。
やがて赤石(あかいし)。横で踏切の鐘が鳴っている。電車は再び山と川に挟まれたカーブに挑む。列車無線の16時の時報が聞こえる頃、ごうごうと根尾川の支流、管瀬川の鉄橋を渡り長瀬
(ながせ)に到着。
ここからは、一転して山道に入る。しばらく走った後、電車のテンポが急に軽くなる。いよいよ山裾
へのアプローチに掛ったのだ。やがて勾配も急になり、林の中に入る。このあたりは、昼なお暗く
カーブも急で、 運転士はたびたび警笛を鳴らす。車輪もきしんでいる。蝉時雨が聞こえ、やがて
16時6分、終着駅谷汲に着く。

Ichiroのコメント

最後まで一番苦労した「乗車音」。蝉時雨など、自然に囲まれた谷汲線らしさを表現するのに夏を選んだ訳ですが、20分以上問題なく収録出来たのはほんのわずかでした。
谷汲線沿線はどうも「風の道」にでもなっているのか、とにかく風には参りました。「今度こそは!」と黒野北口のホームに立っても、電車が見えて来た瞬間、風でボツ! うまく電車に乗れても全開の窓のあちこちから風が吹いて来てNG!特に根尾川の見える北野畑〜赤石あたりは風が強く、気をもんだものです。
あとは、乗客の声。私は自然な会話を入れるのが好きなタイプなのですが、業界のヒトと間違えられ「TVクルー」「世界の車窓からやで」とかチャチャをよく入れられました。おばさんの井戸端会議をうまく録音した時もありましたが、中身が「病気自慢」でこれもボツ。
あと頭を悩ませたのは、谷汲線の廃線が発表されてから急に増えた「鉄ちゃん」。不自然な電車話はもちろんダメ。。
それやこれやで納得出来ず、結局100回近くテープを回し続けることになりました。。

苦労話はともかく、この蝉時雨や踏切の音、そして何より「ダダダン、ダダダン…」 短尺レールを走る電車の独特なリズムに思わず体を動かさせる方も少なくないでしょう。
もう二度と味わえない谷汲線の旅を思いきり楽しんで下さい。

尚、録音のスタートを始発駅の黒野にしていないのは、黒野北口の蝉時雨が谷汲線随一だったことと、上の解説にもありますように「鐘」式の踏切が連続していて面白い音が収録出来ることが理由です。


B 黒野北口→豊木 通過音('00.08.20収録)
7時11分、黒野北口駅近くの光明寺。朝の読経の声が聞こえている。前には大きな楠。
蝉が波打つ様に鳴いている。今日も暑くなりそうだ。
その横を谷汲行の電車が通過して行く。読経の声は淡々と続く。

Ichiroのコメント

早起きは三文の得と言いますが、これに関しては正にその通り! 泊りがけ取材の朝、沿線をうろうろしていて偶然このお寺の読経の声に出会いました。またここの蝉の音がすごかった! これを聞くたびにあの暑い夏の日を思い出します。


C 北野畑→赤石 通過音('01.08.23収録)
21時40分、根尾川の河原。「ザーッ」と涼しげに聞こえる川面に沿って、谷汲行がキイキイと車輪を鳴らしながらのんびりとやって来た。電車の音は、すぐ流れにかき消されて行く。

Ichiroのコメント

いよいよこの谷汲線を「作品」として仕上げ始めた時、何か音が足らないのに気が付きました。「そうや、川の音があらへん」と最後に録音したのがここの通過音です。地図も当たり、S字にうねる川の暗い河原で粘ること3時間! 星がきれいな夜でした。


D 長瀬駅 着発音('01.08.16収録)
18時過ぎ、山のお寺で鐘が鳴っている。そして蝉と烏の声。今日も日暮れが近い。近くではもう
コウロギが鳴いている。
遠くの踏切が鳴り、ごうごうと管瀬川の鉄橋を渡ってゆっくりと電車が近づいて来た。
続いて鳴るアコースティックな踏切の音。レールがカタカタと響き、谷汲行が駅に停車する。
18時5分、モータの唸りを上げて電車は山の懐に向かって発車して行く。いつまでも聞こえるレールのきざみ。ちょうど対岸を走る樽見鉄道のレールバスの音もしばらく交じる。
「コトンコトン…」谷汲線の音はまだ断片的ながら聞こえている。烏が鳴く。

Ichiroのコメント

「夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺で鐘が鳴る…」 童謡そのものの世界を「音」で表現しようとしたのがこの長瀬の音です。お寺の鐘と烏の声、そして遠くでかすかに聞こえる電車の響きがとても面白いと思っています。
樽見鉄道の音はタイミングが合わないこともありましたが、この時はぴったりでした。
じっくり聞いて頂きたい「音」ですね。


E 長瀬→谷汲 通過音('00.08.14収録)
杉がうっそうと茂る結城神社。16時過ぎ、木漏れ日を浴びて今日もヒグラシが「カナカナ…」と鳴いている。
参道にある踏切。谷汲行が最後の上り坂に挑む。電車の音は谷汲近くまで響いていた。

Ichiroのコメント

ここのヒグラシの声は秀逸?です。時々入る烏の声も楽しく、電車の音とも違和感がありません。谷汲線の沿線は本当に自然に恵まれていたんだな、と改めてお分かり頂けると思います。


F 黒野北口→黒野 通過音('01.08.11収録)
黒野北口駅横の八幡神社。正面の家並みの間から、根尾川の花火が見え隠れしている。
建物や山に幾重にもこだまする花火の響き。
やがて目の前で鳴る踏切の音。左右にアコースティックな音も混じっている。20時24分、黒野行が
すぐ横の黒野北口に停車、花火に負けない音を上げて出て行った。
「カタンカタン…」レールの音を残して、電車は終着駅黒野へと戻る。
花火はなお続く。最後は景気良く「ドドン!!」
そろそろフィナーレも間近だ。

Ichiroのコメント

電車と花火、ユニークな取り合わせで最後を締めてみたのがこの音です。花火は年に1回だけのチャンス。ロケーションに悩み、黒野近辺をうろうろしましたが、この日は風もあったので八幡神社の鳥居の下で電車を待つことにしました。
腹にずしりと来る花火の音。出来れば大きなステレオで聞いてみて下さい。
この音を収録し終わった時、「CDを出そう」と決心しました。

 

3.構成について
電車を中心とした「音」だけで起承転結を創るのは、難しい。この作品では@でスタート、Aはそれを受けて実際に旅した感じを、BCEはその補足、Dで雰囲気を変えて「転」に、そして最後のFで花火のようにぱっと散らせてオシマイ、という構成になっている。
Aはちょっと長く、退屈するかもしれない。しかし、日本一優雅なローカル線の旅、これで居眠りしてしまっても大いに結構。これ以上贅沢な「癒し」も中々なかろうと思われる。
収録に当たって特に配慮したのが「残響」。AV全盛の今日、私があえて「音」にこだわっているのは、特定の画像に縛られたくないことと、残響が「画」では表現出来ないことが主な理由である。谷汲線の場合、幸い山があちこちにあるので、ある程度この効果も出せたものと思っている。


4.楽屋話
夏の取材には苦労が付きまとう。今年は特に暑く、汗まみれになりメルトダウン寸前だったのはともかく、沿線は風が強い日が多く、何度も「風吹かれ」でNGの連続! 特にAの「乗車音」では黒野北口のホームだけでなく、車中でもあちこちから襲って来る突風にさんざん痛めつけられたものである。
また、「通過音」の録音では蚊や毛虫に悩まされた。本番中では蚊にさされても、毛虫が腕に落ちて来てもひたすらガマン…。
虫と言えば、コオロギが夏に鳴くとは知らなかった。
こうした自然の要因以外に、最も頭を悩ましたのは「ケータイ」だった。いくらいい音が入っている時でも、これが鳴れば全てブチコワシ。谷汲線に来てまで…と思うが、これにも神経をすり減らしたものである。
ロケーションの選定についても、沿線は意外に道路が多く、収録のポイント選びに難儀した。これは、と言った場所の近くには大抵道路や踏切がある。このため「通過音」「着発音」では、どうしても車や踏切の音が避けられなかったことをご理解頂きたく思う。
しかし、踏切に関して言えば、谷汲線では今や全国的にも貴重なアコースティック式のものが数多く見られるのが特色で、この点で出来るだけバリエーションを持たせたつもりである。遠く、近く、あるいは場所によって音色も異なる踏切の調べも楽しんで頂ければ幸いである。

5.最後に
この作品は、作者本人にとって正に冷汗三斗ではあるものの、20世紀の日本に多く存在した自然に包まれたローカル私鉄の「音」を伝えるため、あえて世に送り出すことにしました。
最後に、この作品の収録や発行に当たって多大なご支援・ご協力を頂いた、名古屋鉄道、岐阜新聞社、及び沿線の方々に厚く御礼申し上げます。

大島 一朗
2001.9.15
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