<春(三)>
はるのうみ
「春の海ひねもすのたりのたりかな」蕉村
はるのくさ
「春草は足の短き犬に萌ゆ」中村草田男
はるのくも
「田に人のゐるやすらぎに春の雲」宇佐美魚目
はるのくれ
「鈴に入る玉こそよけれ春のくれ」三橋敏雄
はるのそら
「春空に身一つ容るゝだけの塔」中村草田男
はるのつち
「鉛筆を落とせば立ちぬ春の土」高浜虚子
はるのの
「吾も春の野に下り立てば紫に」星野立子
はるのひ
「春の日やポストのペンキ地まで塗る」山口誓子
はるのみず
「春の水わが歩みよりややはやし」谷野予志
はるのやま
「春の山うしろから煙が出だした」尾崎放哉
はるのよ
「いづこから来たるいのちと春夜ねむる」細見綾子
はるはやて
「春疾風屍は敢て出でゆくも」石田波郷
はるふかし
「春深し鳩またくゝと、くゝと啼き」久保田万太郎
はるめく
「春めきてものの果てなる空の色」飯田蛇笏
ひがん
「毎年よ彼岸の入に寒いのは」正岡子規
ひきがも
「引鴨に一夜の雪や前白根」藤田湘子
ひなが
「永き日に富士のふくれる思ひあり」正岡子規
ひなまつり
「箱を出て初雛のまゝ照りたまふ」渡辺水巴
ひばり
「山かげの夜明けをのぼる雲雀かな」几董
ふうせん
「風船を売りて食ふだけかせぎけり」加藤覚範
ふじ
「藤の花まゆげほどなり垂れそむる」軽部烏頭子
ぶっしょうえ
「仏生会くぬぎは花を懸けつらね」石田波郷
ぶらんこ
「鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし」三橋鷹女
へんろ
「天明は遍路のわらぢ結ふに足る」佐野まもる
まめのはな
「そら豆の花の黒き芽数知れず」中村草田男
みくさおう
「生ひいでてきのふけふなる水草かな」水原秋桜子
みずぬるむ
「しなやかな子の蒙古痣水温む」佐藤鬼房
ももちどり
「百千鳥とおもふ瞼を閉ぢしまま」川崎展宏
もものはな
「桃の花活くるうすべり敷きにけり」皆吉爽雨
やなぎ
「夕汐や柳がくれに魚わかつ」白雄
やまぶき
「枝かはすところ山吹花かさね」皆吉爽雨
やまやき
「雨ふるやうすうす焼くる山のなり」芥川龍之助
ゆきしろ
「雪しろの逆白浪や祭くる」きくちつねこ
ゆきどけ
「にぎはしき雪解雫の伽藍かな」阿波野青畝
ゆきのはて
「雪の果泣くだけ泣きし女帰す」大野林火
ゆくはる
「ゆく春やおもたき琵琶の抱ごゝろ」蕉村
よかん
「鎌倉を驚かしたる余寒あり」高浜虚子
よもぎ
「蓬摘む生れかはりし童かな」松村蒼石
りっしゅん
「立春の日の輪月の輪雲の中」中川宋淵
りゅうじょ
「吹くからに柳絮の天となりにけり」軽部烏頭子
りゅうひょう
「流氷や宗谷の門波荒れやまず」山口誓子
わかあゆ
「若鮎の二手になりて上りけり」正岡子規
わかくさ
「若草や水の滴る蜆篭」夏目漱石
わかごま
「若駒の親にすがれる大き眼よ」原石鼎
わかみどり
「浜道や砂から松の若みどり」蝶夢
わかめ
「みちのくの淋代の浜若布寄す」山口青邨
わすれじも
「別れ霜庭はく男老にけり」正岡子規
わらび
「金色の仏ぞおはす蕨かな」水原秋桜子
<前  次>
例句目次