第71回原宿句会
平成7年7月25日

   
兼題 落し文 棕櫚の花 朝曇
席題 乳房


            東 人
避難所の洗濯ロープ朝曇
はまなすや牛の乳房の絞り皺
棕櫚の花吹いて呼吸するごとくなり
胸騒ぎ一つづつ消し落し文

            美 子
棕櫚の花饒舌の舌持ち歩く
心病む子へ持ち帰る落し文
夏痩せの乳房と膝を抱え座す
転勤の荷のまた増えし朝曇

            希 覯 子
癩院の処女棟跡や落し文
棕櫚の花母子二代の和裁塾
朝曇実習船の解繿す
羅や乳房を隠す布見せる

            法 弘
泡浮いて汐さす川や朝ぐもり
走り根の肌の踏み艶落し文
日の射して雨ふる街や棕櫚の花
梅雨暗し犬の乳房を犬が舐め

            利 孟
落とし文朱塗りの神籖販売器
笹飴の薄き甘さや棕櫚の花
草原の空らのリフトや朝曇り
朝曇り室の八島に死せる鯉

            健 次
西日浴び走る女生徒乳房跳ね
取り壊す家を見下ろす棕櫚の花
朝曇り合宿ありと飛び出す子
丘削るブルに押される落し文

            白 美
朝曇り音を合はせる鼓笛隊
てのひらを母の乳房に腹当子
門前に自転車の群棕櫚の花
轟音の去りし道の辺落とし文

            千 恵 子
顔知らぬ先祖の位牌棕櫚の花
短夜や嬰の手に乳房眠られず
初夏や騎馬の少女の遠目つき
朝曇ミニ菜園のミニハウス

            萩 宏
砂塗れ乳房にシャワー海の家
棺を出す朱門の陰に棕櫚の花
液晶に故意に残した落し文
朝曇り素早く洗濯済ませけり

            義 紀
廃校後幾星霜を棕櫚の花
羅や乳房の形に皺の現れ
恋仲やベンチの下に落し文
朝曇ロードワークの息荒く

            京 子
道連れの声のみ著し朝曇り
育くみのほどやゆかしき落し文
濡れそぼつ房重たげに棕櫚の花