第102回 平成17年2月13日

     聖子
☆ 妖精の息吹のごとく風花す
  冬ざれや皆身じろがず露天風呂
  綿入れの母の形見の江戸小紋
  読めぬ字を飛ばし読みする余寒かな

     美代子
☆ 朝市の勘定遅々と余寒かな
  大鍋に煮込む大根風つのる
  初午の旗にからまる神の風
  空堀へ届かぬ光霜柱

     比呂
☆ 追儺ふや納屋の闇には闇の鬼
  堂裏に捨てある神籤余寒なほ

     昭雄
  雪日和三椏晒す大漢
  初午や赤い舌出す陶狐
  救急車の音遠ざかる余寒かな
  初午や石の狐を刻む音

     登美子
  初午やなす事をなし退職す
  理髪灯ねじれ直らぬ余寒かな
  寒晴れや円錐形の男体山
  鳩時計鳴き誘ひだす室の花

     良人
  目覚ましの響き音増す余寒かな
  細枝の影から逃げて日向ぼこ
  綿菓子の匂ひ漂ふ福参り
  丼の骨酒まはす余寒かな


     植竹
  どんど焼き親子の影の炎に焼かる
  この家の味の継がれてしもつかれ
  街灯の中銀色の残り雪
  竹林の一日騒めく余寒かな

    敬子
  白足袋の爪先固き余寒かな
  築山の稲荷に大き飾り馬
  見張り鴨葦の揺れれば身を起こす
  惜しみなく滾らす茶釜寒椿

     一構
  降る雪や受勲誇らぬ師の逝けり
  一打ちの太鼓で果てる寒稽古
  東京に残る望楼寒北斗


     清子
  春の月モスクの塔の陰に入る
  初午や日溜まりに買ふ火除け凧
  ピラミッド背に日の落ちる余寒かな

     ともこ
  初午や牙にも似たる鬼下し
  真空パック開けて歪みのきりたんぽ
  老犬の揃はぬ毛並み余寒なほ

     信子
  初午の願を手書きの幟旗
  仕込みたる酒の眠れる余寒かな
  手水舎に揺らぐ光や蝋梅花

     芳子
  朝市の大湯気を立てのつぺ汁
  漆黒の柱梁余寒かな
  初午や嫁に指南のしもつかれ

     憲巳
  父の座の占領されて雛飾り
  芹摘むや風が足から胸へ抜け

     鴻
  子ら遊ぶ残る寒さの中にかな
  初午の参道埋めて赤き旗


     石田
  下野の語尾の勢いや春固し

     利孟
  雪晴れの暮れて兎の丸む月
  初午や歴代帝を諳んじて
  折れ口の筆先を舐め紀元節