第121回 平成18年11月3日
     幸子
☆ 惚けたる婆の手覚え毛糸編む
◎ 刈る程に背を丸くして蕎麦刈り女
・ 旗振りて車を捌く毛糸帽
  切干の香り楽しむ猫のゐて
  草種の色失へり神無月

     比呂
☆ 竈守る神は置き去り神無月
  逆光に身透けゆく秋入日
  虚栗戸籍に残る字小字
  桟橋の影が魚釣る秋の暮
  切り干しや会ふも別るも交はす盃

     永子
◎ 看板のなくて殻積む牡蠣の宿
・ 謂れ説く禰宜のそびらに照るもみじ
・ 神無月賽銭軽き音たてて
  潮風に切干広げ干物棚
  黙々とゆく秘湯への落葉道
     芳子
◎ 切干の陽を貯へて縮みけり
・ 大銀杏の黄葉に埋まる石畳
・ 竹林の修行の窟や石蕗の花
  溝萩や角の欠けたる道祖神
  旅馴れて手荷物軽き神無月

     ともこ
・ 切干の煮汁に含む陽の甘み
・ 冬ぬくし疋田の柄の駄菓子箱
・ 冬日向時の停まりし母の部屋
・ 綿虫や会津より来るラーメン屋
  小春日や等間隔に止まる鳥

     信子
・ 向き揃へ相寄る鯉や神無月
・ 早や暮るる気配の流れ冬紅葉
・ 豆を炒る十一月の炎をあやし
・ 熱湯に解く切干の日の香かな
  夜の部はダンスの集ひ文化祭
     昭雄
◎ 神の旅けもの径にも道標
・ 笛吹きの清き眦秋祭り
  社家の庭切干乾せる一筵
  切干やまはりは誰も里訛り
  閂の朽ちし山門神の留守

     清子
・ 空稲架の足の力の抜けてをり
・ 犬吠ゆや籾殻山が火を噴きて
・ 神の留守名のある神もなき神も
  月明り届く敷居に荷を下す
  日を追ひて切干しの茣蓙廻しけり

     聖子
・ 賜はりし固き酢橘の香の青し
・ 水澄むや梢けがれなき高野槙
・ 切干を煮上げ小店の灯を灯す
  棟上を少し遅らす神無月
  旅の宿つるべ落しに山消えて
     登美子
・ 観覧車光る芒を見に登る
・ 切干をほろほろと煮る米寿かな
・ 樅の木にリボンかざられ神の留守
  切干やあるだけの笊持ち出して
  返り花おちよぼ口して朝日吸ふ

     良人
・ 遠山の間近かに見えて神無月
・ 金色に切干煮あげ寺の宿
・ 味噌汁に浮く切干の白さかな
  もみぢ山暮れ漆黒のあるばかり
  大河の堤うららか神無月

     美代
・ 山国や打ち手の見えて走り蕎麦
・ 石蕗の花水のあふるる石の升
  溝蕎麦や水音幽かに谷地の窪
  秋耕や踊りだしたる田の御神
  切干や日向を占めてまよひ猫
     敬子
・ 絵馬堂に犇く願ひ神無月
  切干の出来を褒められ来客に
  長者屋敷鯉嫋かに秋の水
  売り声に産地の訛リンゴ買ふ
  霧の中十字架の許妹眠る

     鴻
・ 紅の夕陽と競ひ烏瓜
  お稲荷の赤き鳥居や神無月
  清流に大根洗ふ農婦かな
  白き穂は風に飛ばされ枯れ芒
  亡き母の切干の味作る店

     利孟
  監房に施錠のランプ神の留守
  首傾げ受ける警策鹿威
  小夜時雨付箋おきてはまた読みて
  冬近し音に膨らむカフェラッテ
  日の色を解き切干の戻し水

       




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