第143回 平成20年9月21日
   昭雄
・ つくばひの水に影おく良夜かな
・ 聞香の炉のまはり来る良夜かな
★ 熟睡児の指ほどけゆく良夜かな

   良人
◎ 吹く風を畷の区切り花すすき
・ 落合える風先見せて花すすき
◎ たえまなき瀬音にゆらぐ尾花かな
・ 撓ひてもすぐに天向く尾花かな

   ミヨ
・ 秋蝉や日矢の昃りの貯木場
・ 獅子舞をささらで囃し月の下
◎ 那須の野を疎水つきぬけ豊の秋

   幸子
・ 峠茶屋過ぎて芒の風香る
◎ 日記書くちびた鉛筆夜長かな
・ 野の花を活けし大壷良夜かな

   信子
◎ 杉並木出でしばらくの芒原
・ 飯を炊く湯気立ち昇る良夜かな
   登美子
・ 砂利道に松のかげ生む良夜かな
・ 蜘蛛は囲を繕ひやめて良夜かな
・ 眼のかぎり車窓の芒つづきけり
・ 首ながき夢二の女夜の秋

   比呂
・ 四方の風野辺の芒のたふれぐせ
・ 毒茸色を尽くして育ちけり
・ 魚一尾烟るほど焼く十三夜

   永子
・ 沖をゆく灯りに汽笛良夜かな
・ すすき揺れ地蔵のつむり見え隠れ
・ 女坂越えて萩咲く神の杜

   一構
・ 芒原かつて棚田でありし垣
・ 指開き爪に絵を描く良夜かな
・ 擦り立ての酢味噌が美味し裂膾

   ともこ
・ 語り部の黙し細音の虫の声
・ 雑穀米入りの大盛り良夜かな
   敬子
・ 彼方此方の訛良夜の湯治宿
・ 温泉の湯気も巻き添へ山の霧

   芳子
・ 背丈越す棹を僥はせ毛虫焼く
・ 参道の四手の白さの良夜かな

  
・ 幸薄き妻の人生枯れ芒

  
・ 庭木立畳に映す良夜かな

   喜一
・ 読みさしの本の積まるる良夜かな

   利孟
  南洲忌薄が風を運び来て
  沢庵の墓石重たき九月かな
  重たげに鳴いて息つぎ秋の蝉
  籤を引くかに選る塔婆秋彼岸
  吾が影と脚を絡めて良夜かな