第235回 平成28年8月21日
兼題 帰省 柘榴


  利孟
 予備校の朝の行列夏休み
 逃る術無き魚を追ひ簗遊び
 実柘榴や時鐘間遠き古時計
 残暑なほ地獄の釜の蓋開いて
 三代が遊ぶ駄菓子屋盆帰省

  一構
☆帰省した娘と洗ふ箸茶碗
△帰省子の菓子をつまんで太き指
・欧州の子へ風鈴を土産とす
・地方紙の第一面に七変化
 帰省子や雑木林に家一軒

  比呂
☆奪衣婆の蓬髪紅き石榴の実
△棚経に声和し若き禅定尼
・大統領の折し折鶴広島忌
 かなかなのこだます水面船禅頂
 盆休み床屋刃物を研ぎ溜めて

  敬子
☆店蔵の奥は暗がり青瓢
・夏休み見知らぬお子に手を振られ
・実石榴や昼餉は猫に声かけて
 帰省子の語る異国の暮らし向き
 艶失せし形見の櫛や魂迎へ

  ミヨ
△祭礼やはや帰省子の氏子ぶり
・実ざくろや紺屋の空に晒す布
・背のまろき姉と二人で迎へ盆
・尾瀬口に民宿二軒流れ星
 涼しさやロープ伝ひに下りる渓

  木瓜
△秋声や銀メダル下げ五輪終ふ
 がちやがちやと一所懸命いつの世も
 やることはやりつくしたな秋の蝿
 ひやびやと初心震へる柘榴かな
 帰省子や靴先の浮く親離れ

  信子
・我が家と共に育ちし柘榴熟る
・子の帰省終り普段に戻りけり
・標高の高さが甘さたうもろこし
・葉隠れの軽き水音蓮の花
・蓮の華咲くや彼方の雲に触れ

  良人
・帰省の子迎へに待てる無人駅
・帰省子の戻る朝となりにけり
・空を背に登る石段柘榴熟る
・寺男空を仰ぎて石榴かむ
 実石榴や山路の崖に縋り居り

  健
・ふるさとは帰省ラッシュとともにあり
 バーカウンター隅に石榴を籠盛りに
 望郷に駆り立てられて帰省かな
 先祖の碑線香手向け帰省かな
 野趣あふれかぶりつきたる石榴かな

  輝子
・帰省子の幼な子を抱き女子会へ
・実石榴や廃家の荒れた冠木門
 帰省子の髪の白きに迷ひけり
 国訛り帰省列車に乗り込めば
 奥会津老婆の供する石榴かな

  昭雄
・帰省子のまづ向かひたるポンプ井戸
 帰省子の大の字に寝て奥座敷
 大津絵の鬼を酔はせて柘榴酒
 実柘榴の矜持家伝の矜持とす
 帰省子に燈す提灯濃紫