米国への殴り込みを決意した海原イレブン!
しかし、11番目の男、細田則幸は命を取りとめたとはいえ未だ安静の病床にあった。
10人で行くのか?いや、セオリー無視の海原軍団とは言え、それはまずかろう。
そのとき、自ら助っ人を申し出るものがあった。
アメリカンフットボールを密かに敵視するオーストラリアンフットボール協会から派遣された刺客、ヴィクター・ライオネルである。
ラフプレイから正統派までこなす彼の入団を、しかし花井京太郎は拒否するのであった。
花井が指名した男、それは、ヴィクターの通訳として来ていた日系人、ジャッキー河内だった!?
激動の、第2部スタート!!
ヴィクター激怒。
「こんな、通訳程度しか使えない半端モノと俺様を比較するとは何事だッッ!!」
と、忠実に翻訳するジャッキー河内。
「ふふふ、今の俺達に必要なのは、その、虐げられてきた半端モノの雑草魂だってことなのよ!」
という花井の言葉を忠実に英語に訳し、殴り倒される河内。文句も言わず、スクッと立ちあがる。
「フットボール後進のアジアの高校生、話にならん。俺たちが、真のフットというものを教えてやろうか?」
と、河内が言うのと同時に、漆黒のジャージに身をつつんだ10人のオージーボーラーが大地を割って登場した!
オージーボールでは、ほとんどのラフプレイが認められてしまう!!
その、超弩級の肉体がスピードを乗せて迫る!
ココで、唯一オージーボールを経験しているジャッキー河内の実力が発揮されるのか!?
!
津軽犀象のぶちかましが、一撃でオージー達を吹き飛ばした。
「オージーと言えど、たかが高校生。朝飯前の茶の一杯にもならん」
高校生とは思えぬ魁偉な顔つきの犀象が嘲笑った。
こうして、予定通り次の日の飛行機で日本を発った海原イレブン。
飛田の胸にただ一つの疑問を残して・・・
「花井の指名を受けるほどの、ナニがジャッキーにはあるのだろうか・・・?」
いよいよ、次回から驚天動地のアメリカ編!乞ご期待。
砂嵐吹き荒れる真昼のJFK記念空港に降り立った、我らが海原イレヴン!!
どんな体勢からも的確に矢のようなパスを通す究極のアメフトプレーヤー!
パニックと絶望を知らぬ鋼鉄の意志。クォーターバック、花井京太郎
火の中でも、地雷原でも、力の限りより遠くへ飛び込む熱血ロングジャンパー!
地獄の底から立ちあがることができる不屈の闘志。ランニングバック、飛田鷹虎
ぶちかましだけで高校相撲界を制した肉製タンカー!
無限大の懐を持つ超親分肌。センター、津軽犀像
巨体に似合わぬスピードが、電光石火の投げ技を可能とする!
寡黙だが、律儀で頼りになる男。オフェンスタックル(右)、南部豪
左上手しか勝ち方を知らぬ、愚直で不器用な3年先のための稽古がうなる!
一見軽いが友情に殉じる純なヤツ。オフェンスタックル(左)、陸奥六介
視界に捉えた時には、もう駆け抜けている、迅雷疾風のスプリンター!
義に篤く、命に代えても恩は忘れない。テイルバック、遅井浩二
スタンドと内野以外に飛んだ球は、全部俺の守備範囲。ザ・センターフィルダー!
チーム一の明るさが、最後の奇跡を呼び込む。フランカー、市楽馨
逃げて、避けて、逃げまくる。鬼ごっこだったら無敵のカバティア!
捉えどころのない飄々が敵にも不気味だ。スプリットエンド、妻鹿憶也
どこからだっていい。ひと蹴りでゴールに叩き込む。走れぬサッカーマン!
サッカーが俺を捨てても、俺はサッカーを捨てない。オフェンスガード兼キッカー、吉岡元
存在そのものが変幻自在。これぞニンジャ!
イザと言う時、こんなに頼りになる奴はいない。タイトエンド、須之内巌流
オーストラリアから来たオージーボーラー。
全てが謎。オフェンスガード、ジャッキー河内
11人の勇者が降り立ったそのとき、滑走路は数百人の警官隊に包囲されていた。
「ホールドアップだ、ジャパニーズボーイズ」
数百の銃口が11人をロックオンした!
到着早々、海原イレブン、至上最大の大ピンチ!!
アルカトラズ監獄島。
サンフランシスコ沖に浮かぶ難攻不落の刑務所である。アル・カポネなど凶悪犯の収監で知られるこの施設は、看守による過剰な囚人虐待を問題とされ、1963年に閉鎖された。
・・・ハズであったが、しかし、今、我らが海原イレブンはココにいた。
アメリカの魂の拠り所であるNFLを制覇すると明言してアメリカに上陸した海原イレブンを、アメリカ連邦政府が黙って許しておく訳がなかったのだ!
連邦司法長官ジョナサン“ハンマー”ハーグラーが軍のヘリで島に降り立った。
「君たちには、NFLの引きたて役になってもらう!!3日後、NFLの落ちこぼれ軍団レッド・インパルスと闘い、惨めに負けることのみが、諸君が生きてアメリカを出る唯一の道なのだ!!」
レッド・インパルスのクォーターバック、アフメッド・カリはNFLでも一線級の一人としてプレーしていた。
しかし、湾岸戦争のあと、彼のパスをワイドレシーバーが取り落とすことが増え、その天性のチャンスメイク能力は発揮されなくなってしまったのだ。
洗礼名からも判るとおりアフメッドはイスラム教徒である。本当にチーム内で陰湿ないじめが行われたのか、それとも微妙な信頼感のほつれがプレーに影響したのか。その真相は誰にも判らない。
しかし、アフメッドはそのままズルズルと心身のバランスを崩して今や、おちこぼれ軍団まで身を落しているのだ。
腐っても鯛。初めて本場のパスプレイを経験した海原イレブンはざるのようにいいように点を取られていた。
攻撃力はひけを取らない海原イレブンだが、しかしディフェンスは才能と努力と根性だけでは身につかない。一流の攻撃を受けとめたことのないものには、一流の攻めにどう対処するのか、考えることすらもできないのだ。
経験。これだけが、海原の持たないたった1つの要素であった。
「フフフフフ・・・脅すまでもなかったか。やはりフット後進国。実力でもまるで話にならん」
連邦司法長官ジョナサン“ハンマー”ハーグラーが悦に浸るその横で、しかしアルカトラズ獄長ジェームス・ドスルクの顔は青ざめていた。
入獄翌日、ドスルクが看守の報告を受けた時、海原イレブンはフットボールを使って練習をしていた。
絶海の孤島で人の出入りもなく、入獄の時に厳重な身体検査をしている。半径10キロ以内にボールなどある筈もないのに、だ。
翌日、ボールを没収され、拘束衣を着せられていたはずのイレブンは、ドスルクが報告を受けた時、津軽、南部、陸奥を除く全員がプロテクターをつけて練習をしていたのだ!!
3日目、監獄の中庭にゴールポストが立っているのを発見したドスルクはノイローゼとなり、海原に関わることをやめたのだった。
『長官・・・違うのです。こいつらはどこかが違うのです・・・・』
恐怖に潰されかけているアルカトラズ獄長の眼下で、運命の第3クォーターが始まろうとしていた。
第3クォーターは海原のキックオフで始まる。
もちろん、キッカーは哀愁のサッカーマン、吉岡元。
「この一球に、俺たちの意思を込めたいと思う。・・・異論のあるやつ、いるか?」
花井の言葉に、しかし、異を唱えるものなどいようはずがない。既に!心は1つ!なのだ。
11人の意志が吉岡の脚に宿った。
これが・・・・・・これが俺たちの答だッッ!
うなりをあげたボールが、大きく弧を描き、客席ど真ん中に吸い込まれていった。
司法長官ジョナサン“ハンマー”ハーグラー失神。
これが、我らが海原イレヴンが、アメリカ合衆国に対して行った宣戦布告の替わりであることを、客席を埋め尽くす5万7千観衆は未だ知らずにいたのだった。
トーマス・ハグラー、失神!
普段感情を表に出さない冷静な吉岡元が、歯を剥き出した表情で、人差し指を遠く離れたハグラーに向かって突き立てた!
狙ったぞ!ピンポイントで、俺は当てて見せたぞ!
口には出さないが、しかしその人差し指が吉岡の、否、海原イレブンの覚悟の程を語っていた・・・・
殺気立つスタジアム。アメリカ人お得意のブーイングもすでに出ないほどに、客席は熱く冷え込んでいた。
勝たねば袋叩き。
勝てばリンチで皆殺し。
そんな雰囲気にすら、憶さず瞳の奥に勝利への熱望を絶やさぬ仲間たち、だが、
ディフェンス力の絶対的な劣勢はちっとも好転したわけではない。
その時!
「面白いぞ、海原!その死中に“喝”を求める心意気、俺が買った!!」
客席のフェンスを飛び越えて登場したその男、轟渡るのは確かに日本語。しかし、その身長は150センチそこそこ。
とてもフットの戦力には見えない。
「俺が勝たせてやる、安心しろ。こう見えても、俺は8段なんだ」
段?段とは?この男は達人なのか?それ以前に果たして敵か味方か?そしてその意図は?
以下、次回。
敵か!?味方か!?突然助力を申し出た謎の男の正体に思いを巡らせる海原イレヴン・・・・・・・いや、花井京太郎には既にその迷いはなかった。
「ようこそ!海原13人目の戦士よ!」
2人はしっかりと右手を握り合った。
しかし、・・・・13人目とは?男を仲間として認めたとしても、イレヴンの次は12人目ではないのか?
いいや、違う!日本の病院にいる細田則幸のことを忘れる花井京太郎では、ない!
だからこそ、みんながついて来るのだ。
「もう、ポジションは空いてねーぜ」
何故か反抗的な飛田に、男は言う。
「一番大事なポジションが空白じゃないかよ!・・・監督がよォ!!」
ハグラーを運び出した救急車の音が遠ざかる頃には、謎の男=獅子土虎之助によって、一人一人に作戦が授けられていた。
ディフェンス・フォーメーションの時、それぞれの選手がやるべきアクションが、耳打ちされたのだ。
「なんか、できそうな気がするぜ」
「見事な作戦だ。あんた、アメフト暦は長いのか?」
「いいや、アメフト見るのは今日が初めてだが、心配するな。俺は将棋8段なんだからな」
「なにィ!」
「ちょっと待て、作戦立てなおすぞ」
しかし、無情にも試合再開のホイッスルは鳴り響いたのだった。
「悔しいが、このフォーメーション、確かにハマる!」
飛田鷹虎の呟きの通り、半信半疑で始めた獅子土のフォーメーションで、海原は次々とインターセプトを決め続けた。
「くくく・・・・普段から盤上盤外の40枚のコマ全てを4次元的に把握しきっている将棋指しにとって、22人のプレイヤーの動きなど手に取るように判るわい!!」
守っては敵の攻撃を潰し、攻めては確実に得点する海原のスコアは、第4クォーターの半ばで、ついにレッド・インパルスに並んだ!
しかし、アメリカの誇りを信奉する観客席のそこここで、銃の撃鉄を上げる音が鳴った。観客の過激な者たちには、すでに暴動の用意ができている。その、明確な殺意を須之内巌流だけは感じ取っていた。
『なにか、脱出の策はあるんだろうな?』と、獅子土に目で問いかける。
『そんなものなど、ない。貴様らは誇りを抱いて死ねればいいのだろう?・・・なあに、心配するな。俺も、一緒に死んでやる!!』と、目で応える獅子土であった。
危うし!海原イレヴン!
絶体絶命!もはや、観客を刺激せずワザと負ける以外に生きて試合場を出られぬと悟った海原イレヴン!
しかし、今更命を惜しむ男など、このチームには皆無!絶無!
「俺たちは、こんなところで負けるわけにはいかんのだ!」
されど!
「NFLそのものを潰すまで、死ぬわけにもいかん!それもやはり、敗北なのだ!」
「なにがなんでも勝て!そして、ノーサイドと同時に散れ!必ず活きて帰るのだ」
花井京太郎の無茶な注文を、しかし、無茶と思うヤツはこの中にいない。
「鉄砲の弾くらい、最後まで避けきって見せますって」
「大雑把なメリケンには、俺の遁行術は見破れねーだろーよ」
「この俺の鋼の皮膚を、ショットガンごときで貫けるか!!」
「弾より早く走って逃げるさ」
命懸けの海原イレヴン、あっさり逆転、そして試合終了!
そして、怒号が観客席を包み込んだ。
いいや、違う。それは海原イレヴンへの叫びではなかった。
「なに〜〜?ツインタワーにテロリストが旅客機で突っ込んだだと〜〜!?こ、こうしちゃおれん!!」
アメリカ開国以来の大事件に、客席が吼えた!パニックが、燎原の火のごとく、彼らを包み、支配した!そして・・・・・
事情のわからぬ12人の日本人を残し、全てのアメリカ人はスタジアムから消えた。
海原イレヴンの意地と根性が呼び寄せた、これは奇跡であった。
アメリカ全土が震撼した!
アメリカは東西冷戦を制した。
アメリカは中東を制した。
アメリカはアフガンを制した。
しかし、日本から来たスクールボーイの一団を御することさえできないのか!?
西海岸を荒らしまわる海原旋風は、すでにNFL加盟チーム4チームを破り、無敗であった。
残り28チームの打倒を宣言し、ニューヨークに乗り込まんとする海原イレブンは、大陸間横断鉄道に乗車した。
その先に待ち受ける刺客、それは・・・・・1億の熱狂的NFLファンであった!!
危うし、海原イレブン!!
大爆発!!
陸橋が音を立てて崩落していく。
ここは大西部。渓谷の狭間を走る列車の進路で爆破された橋が落ちてゆくのだ。
急ブレーキ!間に合うのか??
間一髪、崖下に機関車をぶら下げた状態で辛うじて停車した機関車だが、続いて手に手にショットガンを持った暴徒が取り囲む。
キル・ザ・ジャップの大合唱。もちろん、海原イレヴン抹殺を画したアメリカンナショナリストたちの仕業だ。
ショットガンが火を噴き、イレヴンを急かす。
「き、貴様ら〜。俺たちの命を狙うのは許そう。その程度、覚悟せずにアメリカ組んだりまで来たわけじゃあねえ!だがな、この列車にはアメリカ人も乗っているんだぜ?同胞まで見殺しにするのがてめらの流儀か!?」
花井の制止する間もなく、熱血漢の飛田が屋根に上って啖呵を切った!
無謀、しかし、痛快!
その快男児を狙った弾丸が空を切った。
飛田が避けたのではない。なんと、機関車の重みに耐え切れず、列車は再び死のダイヴへと動き出したのだ!!
危うし、海原イレヴン!!
ピンチの後にチャンスあり!!
崖底へ向かって滑り出した列車は、いきなり、逆走を始めた。
地獄送の逆走?そう、それは生への大激走。
海原の重量級フォワードの豪腕が、3人の相撲取りの命の引張りが、なんと、6両編成の列車を引き戻して行くゥゥゥ!
ショットガンを持った国粋主義者どもには、須之内の流れ六方が突き刺さった。
「今のうちに、乗客を救い出すんだ」
花井は列車から少女を救い出した。
しかし!善意は裏切られるためにある!
花井の胸にナイフが突き立った!
返り血を受けて、少女の瞳が無邪気に歪んだ!
「やった!アメリカの敵を倒したよ、ママ!」
「は、花井〜〜〜!!」
裏切りと凶刃にハートを破壊され、スパープレイヤー花井京太郎の肉体が奈落の大渓谷に落下して行ったのだった。
海原イレブンは、泣いた。一人残らずが全力で泣きながらアメリカ大陸を横断しきった。
実際に、体内の水分を出し切るほどに涙を流すもの。
人のいないところで思い切り泣くもの。
一滴の涙もこぼさないが、しかし心の中では激しく雄叫ぶもの。
泣き方はそれぞれだ。
誰がどの泣き方をしているか、ここまで読んでいる読者諸兄ならばすぐに想像がつくものと思う。・・・・・そう、そのとおり。あえてここで文章にする必要は無い。
そして、これもまた全員が同じ気持ちであった。
「花井を失ったからと、負けるわけには行かない。いや、失ったからこそ負けるわけには行かないのだ!!」と。
しかし、今チームにクォーターバックはいない。それが現実だ。
捨てる神あれば拾う神あり。NFLの正クォーターバックの一人、張ニールセンが花井の補欠を申し出た。
アジア系であるがゆえに差別され続けた張にとって、海原の快進撃は小気味いいのだ。せっかく掴んだエースの座を放り出して駆けつけるほどに・・・・・
「必要ない」
拾ってくれた神の手を振り払う男がいた!
軍師、獅子土虎之助!
「何故よ?ワタシが日本人じゃないからアルか?」
「もはや日本とか、そういう問題じゃあない。アンタは単に“海原”じゃあないってだけさ」
しかし、それでもなにがあろうと勝たなきゃいけない試合じゃないのか、コレは?メンバーが揃わなきゃ、闘うことすらできないんだぜ。
「いるさ、花井の補欠はもうここにいる」
何ッ!
「花井に勝るとも劣らないプレイヤーさ」
ドコだ?
「何言ってやがる。クォーターバックと言えばチームの司令塔。司令塔といえば・・・・花井がいないとなりゃ、この獅子土に決まってるじゃあねえか!!」
「む、無茶だ〜」
飛田が叫んだ。普段から無茶ばかり繰り返している飛田をして無茶と叫ばせるほどに、獅子土にはアメフト能力が無かった。
ワンプレー毎に、獅子土の小柄な肉体が宙を舞った。
海原の相撲ラインは敵ディフェンスの突進を通常の倍の時間止めておける実力を持つ。それが、花井の落ち着いたプレーを促し、多彩な攻めの幅を持たせることができるのだ。
しかし、獅子土がプレーに要する時間は実に通常の3倍!
とてもパスを出せる状況ではない。もたついている間にタックルをかまされ、スポーツ経験の無い獅子土の体は満身創痍になって行くのだった。
かろうじて、飛田のランプレイで細かいゲインを重ねてはいるものの、単調になった攻撃が敵のディフェンスに阻まれるのも時間の問題であった。
第2クォーターが終了して僅か4点差のビハインドで済んでいるのが奇跡のようであった。
「もう我慢できねぇ!パスできねえクォーターバックなんて要らねえよ。野球やってた市楽の方が、よっぽどいいパスだすんじゃねえのか!?」
喰ってかかったのは、日ごろから知能派の獅子土にいい印象を持っていない飛田である。
「いいや、チームが今日勝つには、替わるわけにはいかないねえ。なにより、俺が一番選手一人一人の能力を把握しているからさ」
「そのしたり顔がむかつくんだよ!幅跳び7メートル05センチとか、ランゲイン平均何ヤードとか、そんな数字暗記しててなんになるんだよ!俺らは将棋の駒か!?」
「そんな、小学生でも覚えられる程度のデータで軍師気取りはしねえ・・・・・将棋指しってのは、数ある歩の一枚でも、そいつだけの働きどころを解り抜いているのものさ。例えばおめぇさん、飛田鷹虎の場合・・・能力は“熱血”!その効用は・・・・“不可能を可能にする”だッッ!!」
5分後、それまでとはうって変わった気合を溢れさせながら飛田はフィールドに向かった。
「“士は、己を知るもののために死ぬ”といったところだな」
最後に控え室を出た須之内が一言言った。そちらを振り向いた獅子土は、飛田に聞こえないように言った。
「飛田の評定に付け加えるなら、使用法は“おだてりゃ空まで舞い上がる”だ」
何度潰されようと、決してロングパス主体のショットガン陣形を変えようとしない海原、獅子土QBの作戦。
血まみれで倒れた獅子土は、空を見て笑う。
「漸く、将棋を指している気分になってきたぜ・・・花井のいるチームの参謀なんざ、大ゴマを3枚も持っているようなもの」
何度でも立ち上がる!
「・・・将棋の醍醐味は、駒落ちで指してこそのもンだぜ!」
確かに、遅井、市楽、妻鹿、須之内らの俊足バックスを擁する海原には、ランニングバックを飛田一人に任せて、4人のワイドレシーバーをフィールド全体に散らすショットガン陣形が最大の効果があるだろうが・・・それは天才QB花井京太郎あってのものなのだ!
何故、失敗を繰り返す?天才策士獅子土虎之助ともあろうものが!?
しかし、その頃には一旦空まで舞い上がった飛田鷹虎が地上に戻って来ていた。なにか、大事なものを抱えて!
「オラララァァァ!!」
またもや、囮のランニングバックが、架空のボールを抱えて宙を飛ぶ。
気合が入りすぎて、芝居で飛んでるのがますます丸見えだ!
が、なんと、敵ディフェンス全員が吸い寄せられるように着地後の飛田に殺到した!ボールも持っていないのに!
悠々と山なりパスを出す獅子土。
市楽がキャッチし、遅井が運ぶ。妻鹿のステップと須之内の目くらましの援護を受けて、遅井はあっさりとタッチダウンを決めるのであった。
「サノバビーーッチ!なぜ、QBを潰さない!?見え見えの囮に引っかかる?」
監督の叱咤に、呆然と己を見返すアメリカンたち。
「ふふふ、頭じゃあ解っていても、命懸けで飛んでくるプレイヤーがあれば、それを囮とは思えまい!」
飛田鷹虎は架空のボールに命を懸けた。“空”に自らの命を吹き込み実としたのだ。
飛田鷹虎は変わった。今、海原の飛車は敵陣に成り込んだ。
鷹は軍師という雲を得て、“龍”になったのだ!!
龍と化した飛田を擁する海原イレヴンを止められるチームは、事実上存在しなかった。
だが、彼らを倒さねばアメリカの威信は失われる・・・そして、なにより連邦司法長官ジョナサン“シッティングブルブル”ハーグラーの命は確実になくなってしまうのだ。
数々の醜態を晒した結果、あだ名をハンマーからシッティングブルブル(すわりションベン)へ変えられてしまったハーグラーは、すでにCIAの暗殺リストに載せられていることを自覚していた。
生き残る道は一つ!海原の敗北である。
そのハーグラーはペンタゴン地下の秘密作戦室で、海原を倒す究極チームの編成を指示していた。
まだ日本に帰化していない、ハワイ出身の幕内力士、100メートル走世界記録保持者、走り幅跳び世界記録保持者、メジャーリーグ昨年度ゴールデングラブのセンターフィールダー、アメリカン忍者などなど、その候補者全てが海原のパクリである。
もはや、アメリカの威信どころか、この男の頭にはプライドという文字は存在していないようであった。
そこへ!核シェルターにもなろうかという作戦司令室の壁をショルダーブロックでぶち破って2メートル10センチ210キロの肉弾が現れた。
「・・・・・・・・・・アメリカン・モンスターマン!!」
文字通りのモンスターはハグラーを片手で軽々とネックハンギングに捕らえた。
「グフフ・・よくも下らないチームを考え付くものだな。あとのことは裏NFLにまかせてもらおうか」
ジョナサン“シッティングブルブル”ハーグラーは絶命した。
乞うご期待!
第3部へ
戻る