=公共事業は本当に有効か2=

ケインズ理論の検証2

○公共事業と租税

ケインズ学派の理論では「同額の減税政策と公共事業では、公共事業(公共工事等)のほうが景気に対してより有効である。」とされている。ここで「景気」と言う言葉の定義は今ひとつあいまいなような気がしますが、一般にはGDPの数値が向上すれば景気が良いと解釈されているようであり、ケインジアンの理論でもこの立場を取っているようです。

さて、下記のごとく思考シュミレーションをしてみます。


 

前提
(仮定)

@(乗数理論を適用できるように)世の中の経済主体の消費・投資性向は一定値(この値を r とする)

A(模式化のため)民間経済主体の所得の向上により生じた追加需要(支出)は政府でなく民間経済主体に対してなされる

Bここではとりあえず、その経済政策の財源として何を当てるか(例えば増税)などは考えず、独立的に公共投資だけ行った、減税だけ行った、などと考えます。
 

下記の3通りのケースをシュミレーションします。
ケインズの乗数理論的な波及過程を表現する下記のような表を作成します。

1.政府が公共投資(金額G)を行った場合

 

 段階

公共投資G

2nd

3rd

4th

5th

政府

所得

 

 

 

 

 

需要(支出)

(@) G

 

 

 

 

財やサービスの取引

民間

所得

(A) G

(B)Gr 

Gr2

 Gr3

Gr4

需要(支出)

 

Gr

Gr2

 Gr3

Gr4

 第一段階では政府による公共投資(@支出:金額G)が行われ、それが民間にとっては(A)Gの所得となり、第2段階では民間の経済主体が所得の増加額Gに消費性向 r を掛けた(B)Gr分だけ支出を増加させ、その同額が民間の所得になります。以後は同様で乗数効果的に所得と支出が増加していきます。この場合では、最初の公共投資の時点で政府が民間から財やサービスを購入しているので、第一段階から、生産活動を伴っています。このため、その金額GもGDPに算入されます。

 2.減税(総額G)を行った場合

 

 段階

減税G

2nd

3rd

4th

5th

政府

所得

 −G

 

 

 

 

需要(支出)

 

 

 

 

 

財やサービスの取引

無し

民間

所得

 G

Gr 

Gr2

 Gr3

Gr4

需要(支出)

 

Gr

Gr2

 Gr3

Gr4

第一段階では減税(総額G)が行われ、減税を行わなかった場合と比べ、政府の所得はGだけ減り、民間の所得はGだけ増えます。その後民間部門で乗数効果的に所得と支出が増加していきます。この場合では、減税の時点では民間の所得はGだけ増えていますが、財やサービスの取引および生産活動を伴っていないため、第一段階の数値はGDPには算入されません。

3.増税(総額G)を行った場合

 

 段階

増税G

2nd

3rd

4th

5th

政府

所得

 G

 

 

 

 

需要(支出)

 

 

 

 

 

財やサービスの取引

無し

 有

民間

所得

 −G

−Gr

−Gr2

−Gr3

−Gr4

需要(支出)

 

−Gr

−Gr2

−Gr3

−Gr4

第一段階では増税(総額G)が行われ、増税を行わなかった場合と比べ、政府の所得はGだけ増え、民間の所得はGだけ減ります。その後民間部門で乗数効果的に所得と支出が減少していきます。この場合では、増税の時点では民間の所得はGだけ減っていますが、財やサービスの取引および生産活動を伴っていないため、第一段階の数値(−G)はGDPには算入されません。


1.と2.の表を見比べてわかる通り、同規模の 1.(公共投資)と2.(減税)とでは、殆ど同じように思われます。第一段階の政府部門でGの数値が公共投資では正、減税では負の値となっていますが、1.の場合のGは「支出」と表現したから正の値になっていますが、所有する経済価値の支払いまたは減少という意味では、1.の「支出のG」と2.の「所得の−G」も同じです。

すなわち、資金的な動きだけ追えば、公共投資と減税の波及効果は全く同じであることが解ります。違うのは第一段階で具体的な財やサービスの取引、生産活動をともなっているかどうかだけなのです。

=重要=
景気と言う概念をGDPで考えれば、ケインジアンの言うとおり公共投資のほうがGDPの数値を上昇させます。しかし、景気と言う概念をGDPベースでなく、民間の経済主体の所得ベースで集計すれば、それは「Gを初項、rを公比とした等比級数の和」となり、公共投資と減税の景気に対する効果は全く同じになります。


さてここで、上記の思考シュミレーションの前提条件の3番目、「経済政策の財源として何を当てるか(例えば増税)などは考えず、・・・・(後略)」を取り外して考えてみます。(財源としての税金を考慮に加えるということ)

4.同額の税金(総額G)を財源として公共投資(総額G)を行った場合

この場合の経済波及効果は前述のシュミレーションで作成した1.(公共投資の場合)の表3.(増税の場合)の表を串刺し演算して足し合わせたものになるはずです。その計算結果は下記の通りになります。

 

 段階

公共投資G

2nd

3rd

4th

5th

政府

所得

 G

 

 

 

 

需要(支出)

 G

 

 

 

 

財やサービスの取引

 有

民間

所得

 0

 0

 0

 0

需要(支出)

 

 0

 0

 0

 

上記のように民間経済主体の各セル内の数値は G−G、Gr−Gr、等となりその計算結果はすべて0になります。

つまり、下記のことが結論できます。

前提(仮定)

(1)世の中の経済主体の消費・投資性向の値は一定値
(2)(模式化のため)民間の所得の向上により生じた追加需要(支出)は政府でなく民間に対してなされる

結論


(1)景気と言う概念をGDPベースでなく、民間の経済主体の所得ベース(資金ベース)で集計すれば、公共投資と減税の景気に対する効果は全く同じ

(2)公共投資を同額の税金を財源として行う限り、民間に対する経済効果は0である。
 

にわかには信じられないような結論が導かれてしまいました。

「過去の日本の高度成長期においては公共事業が経済を更に発展させたのではないか?」などの反論が聞こえてきそうです。

そういった主張に対する説明も合わせて、経済政策としての公共事業をどのように行ったらよいのか私なりに考えた内容を次章「公共事業はどうあるべきか」でご紹介します。


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