罪深き絆 |
第三章・炎心・6 |
次の日、オスカーは執務に現れなかった。 理由を知るオリヴィエたちは、そっとしておこうとしたが、流石に4日も姿を現さないと、執務に滞りがでてくる。 当のオスカーはそんなことは全く気に止めず、館に籠もり鬱屈した思いを酒で紛らせていた。 午後遅く、リュミエールの来訪を告げられた。 「よう、何の用だリュミエール」 リュミエールは酒臭い息を撒き散らすオスカーを、軽蔑するように見た。 「あなたがこんなに情けない男だったなんて、驚きですね」 「……何だとォ」 オスカーはギロリとリュミエールを睨みつける。 「情けないって、言ったんです」 そう言って部屋の中をぐるりと見渡す。部屋の中には所狭しと、酒瓶の空き瓶が積み重ねられていた。この酒の量は、一日やそこらで消費されたものではない。恐らくジュリアスが聖地を去る前から飲み続けられていたようだ。 「呆れましたね。わたくしの前であんな綺麗事を言っておいて、家に帰れば憂さ晴らしにやけ酒ですか? 強さを司る炎の守護聖とは、とうてい思えませんね」 オスカーは眉を吊り上げた。 「……フンッ、家で俺が何をしようとお前には関係ないことだぜ」 そう吐き捨てるように言うと、再び酒を浴びるように飲み始めた。リュミエールはオスカーの手から、ボトルを取り上げた。 「オスカー、聞きたくないでしょうが、わたくしの言うことを聞いて下さい。どうやらあなたの時間はあの日から、止まっているみたいですね。…あなたはああは言ったけれども、本当は納得してないんでしょう?」 オスカーは肯定も否定もせず、押し黙った。 「あなたは実のところ、クラヴィス様の言ったとおり、ジュリアス様を自分のものにしたかったのです。違いますか?」 優しく語りかけるリュミエールから逃れるように、オスカーは後ずさり、耳を覆った。 「やめろ、もう言うなっ!」 「いいえ、やめません。オスカー、答えが出ない限り、あなたはこれ以上前に進めないんですよ」 リュミエールはオスカーに聞こえるように、大きな声できっぱりと言った。 「…やめてくれ……もうやめて…くれ…」 オスカーは何度もそう呟きながら、その場に座り込んだ。 「ねえ、オスカー…」 頭を抱えながら震えるオスカーに向かってリュミエールは諭すように言った。 「別に、弱さを認めるっていうことは、弱虫だってことになりません。そんな空威張りをするより、後悔する方が何倍も辛いものだって、あなただってわかっている筈です。手遅れになってしまう前に、あの方が本当にいなくなってしまう前に、あなたはあなたの気持ちに決着をつけないと、あなたはこのまま取り残されたままです」 「……だが、無断で聖地を抜け出すことは、禁止されている」 俯いたまま、オスカーはそう言った。リュミエールは目を丸くして吹き出す。 「あなたがそんなことを言い出すなんて……。ふふっ、以前は毎晩のように外界に抜け出していたあなたが……。わたくしは前のあなたの方が、今よりもっと好きでしたよ。たとえ性格が悪くて二枚舌でもね。…ジュリアス様もきっとそうおっしゃいます」 その人の名前を聞いてオスカーは弾けたように顔を上げた。 「リュミエール……」 「何ですか?」 にっこりとリュミエールは応じる。 「…………二枚舌は、余計だ」 ボソッとオスカーは呟いた。 |