私がこの世に生を受けて始めて目にしたのは、何もない虚無の空間。
その中にわ・た・しは意識のみ存在していた。
目の前には、全身を銀色に輝している人物がいた。
彼こそが、ここに私を呼び寄せた張本人、万物の父である造物主であると、直感する。
そして私の傍らに、もう一つ別の意識を感じていた。
『我が最愛なる息子たち、光と闇よ』
造物主の言葉が、私たちふたつの意識の中に、流れ込んでくる。
『お前たちは私の呼び出しに応じて、この生まれたばかりの空間に出現した。この私を助けて宇宙の礎となってもらいたい』
私の意識に造物主の意志が流れ込み始め、それが形を成してゆくのを感じた。私の意識は心となり、その心は力、すなわちサクリアを発し、輝き始めた。
サクリアの輝きは大きな閃光を放ち、私の心とサクリアは肉体を形成していた。
目を見開き、自分にもたらされた身体を見つめる。私の肌は密やかな朝の光に照らされた純白の大理石、肩から背中を覆う髪の色は光という光を集めたような黄金の色。瞳を横に向けると、もう一つの意識にも肉体が備わっていた。
彼の肌は夜の影を踏んだトパーズ、豊かに流れ落ちる髪は、闇から拾い上げたように黒い。
私は口を開いた。
「私の瞳の色は何色だ…」
「青の中の碧、黎明をいざなう色」
ひっそりと静かな声で彼は応えた。そして問う。
「わたしの瞳の色は…」
「黄昏を覆い、夜の闇を迎える紫の色」
私はそう応えた。

私たちは互いを見、対なる相手を認めた。
これが、すべての始まりだった。
私は原初の光、万物の礎。
この大いなる創世期において、私の光から炎、風、緑のサクリアが創られた。
そして彼の闇からは地、夢、鋼、水が創られた。
そうして造られたサクリア全部をあわせて、ひとつの心とし、ひとりの少女の肉体に埋め込んだ。
彼女はすべてのサクリアを持つがゆえに、我々の娘であり、母であった。
私はこの宇宙創成の時、持てるサクリア全てと心を分け与えた。無くしたものは惜しいが、また再び、私の中に新たに力強いサクリアが生まれ出てくるのを感じる。
体中に力が漲り、宇宙全てに私のサクリアが満ちている。
私は誇らしく傍らにいる対に笑いかけた。
だが、闇は哀惜を持って宇宙を見つめている。
彼にとって、サクリアを分け与えるということは、身を切られるような思いであったらしい。
私の視線を感じた彼は、静かに微笑み返した。
今思えば、これが私たちの最初のズレであったようだ。
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