罪深き絆

 

第一章・奈落・

 

「最近、惑星の様子がおかしいのです」
 王立研究所の所長が、謁見の間での会議の席で報告した。
「金の髪の女王候補の育成する大陸の人口が急激に減少し始め、そればかりか、その影響がもう一人の候補の大陸まで及んで、そちらの方でも人口の減少が始まっています」 所長の発言に、集まった守護聖たちはどよめいた。
「しかし、両者とも熱心に育成に励んでいる。そんな筈はない」
 炎の守護聖が発言する。
「そうだ。私は昨日、金の髪の候補に育成を頼まれたばかりだ」
と、鋼の守護聖もそう主張する。この信じられない事態に守護聖たちは、慌てふためき、ああでもない、こうでもないと議論を戦わせ始めた。
 わたしとはいえば、一歩引いて彼らの慌てぶりを傍観していた。とはいえ、心配する気持ちは彼ら以上にある。少女の大陸にいったい何が起こったというのだろう。
「静粛に!」
 ジュリアスの声に、ざわめいていた場は静まり返った。彼は皆が落ち着きを取り戻したのを確認すると「報告を続けてくれ」と所長に促した。
 所長は咳払いを一つすると、報告を再開した。
「これが、現在の大陸の状況です」
 モニターのスイッチを入れ、スクリーンが大陸の映像を映しだした。
「……こ、これは、惨い」
 我々は声を失った。
 映しだされたのは、草一つ生えていない荒涼とした大地。家は崩れて瓦礫の山と化し、白骨化した犬の死骸が、無残に道に晒されていた。
「この映像は、もう一人の候補の大陸へ向けた偵察機が撮影したものです。…金の髪の候補の方ですが、連絡が不通となっています。恐らく何ものかに、撃墜された模様です」



 所長の言葉がもたらした衝撃は、その場にいた守護聖全員を貫いた。常に冷静な態度を崩そうとしないジュリアスでさえ、動揺を隠そうとしなかった。
 何故、何故、このようなことが……。
 わたしも驚きのあまり、呼吸も満足にできず、その場に辛うじて立っているのがやっとの状態だった。謁見の間は水を打ったように、静まり返った。
「………惑星から、大きな邪悪な気を感じる」
 それまで無言で、報告に耳を傾けていた女王が口を開いた。
「早急に、原因を調査することを命じます」
「私が参りましょう」
 即座にジュリアスが志願した。
「女王試験の責任者は私だ。育成に関わりのない原因であれば、私の咎です。陛下、是非私に、調査をお任せ願います」
「……わたしも行こう」
 わたしがそう申し出ると、皆が驚いた。自分で言うのも何だが、わたしが自主的に行動することは、滅多にない。だが、愛する少女の育てている大陸の危機に、手をこまねいて見ているだけなど、到底できはしない。
 「………許可しましょう」
 陛下の声が静まり返った謁見の間に響き渡った。

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