夏草のランデブー |
(2)
なあ〜〜んって、プレゼントして喜んでいたのは、ほんの十日前、そして今度の木曜日はいよいよジュリアス様のお誕生日だ!
布のプレゼントはほんの予行演習。 当日はもっとサプライズなことを考えているのだ。 (うふふふっっふふ〜〜〜〜〜〜) こんな風ににやけた顔でほくそ笑んでいると、まるで俺がスケベなことを考えていると、誤解されそうだが、今回は私利私欲は一切排除するのだ。 ちなみに告白しよう。今まで、一年の様々なイベントや特別な日には俺は思いっきり〜〜自分の私利私欲を優先させてきた。 私利私欲……、それはジュリアス様にあなたのためだと言いながら、俺の欲望を満たすこと、それによってジュリアス様も満たされれば、結果オーライっていうこと。 俺の思うように口八丁手八丁で丸め込んできたのである。 だが今日は特別中の特別。 何たって、誕生日なのだ、あのジュリアス様が生まれた日なのである。 だから何よりもこの日はジュリアス様のお気持ちを優先するのだ! もし、俺と一日を過ごしたいと仰るのなら、俺の私利私欲も同時に満足できる道も開けるかも知れない。 おっと、待てよ! 俺が巧みにジュリアス様に俺と過ごすよう、誘導するなんて考えるなよ。 一度男がした決意は翻さないんだぞ! でも、そうなればいいな〜〜っては思っているぜ。 あくまでもそれは希望だが、希望はあくまで希望である。そこんとこはよろしく!! この日のために、俺はここ数ヶ月周到な準備をしてきたのだ! ジャジャーーーッン! 名付けて《ジュリアス様、お誕生日大作戦・極秘》 (そのまんまだぜ↑(汗)) ジュリアス様のために俺の出来ることは、なんでもしてあげたい。 尽くして尽くして尽くしまくりたいのだ! (それはいつものことだが、本人は気づいていません) 宇宙の果てに咲く花が欲しいのなら、叶えて差し上げよう。どんな品を所望しても対応できるよう、チャーリーに話はつけてある。奴とのホットラインは超ブロードバンドだぜ! 行きたい場所があるのなら、それが別の宇宙や次元だろうが行けるようにしてある。そしてもちろん俺もご同行、と言いたいところだが、それはジュリアス様のお心次第だ。が、万が一のことがあっては困るので、こっそりと尾行はする。(当たり前だ!) この日はちゃんと陛下には有給休暇届を出しているし、次元回廊を管理する女王補佐官のロザリア、新宇宙の女王陛下への根回しもバッチリだ。 聖地でお過ごしになるのなら、とっておきのピクニックの場所の確保、乗馬スポット、最高のレストラン、劇場だってジュリアス様一人だけの貸し切りも可能にしてある。 執務を選択した場合は、いつも以上に補佐に力を入れよう。 一人で静かに過ごしたいのなら、ジュリアス様のお館のお庭にそっと吟遊詩人のごとく立ち、愛の歌を密やかに捧げよう。 そっと、あなたの邪魔にならないように。 (あんたの歌じゃ、邪魔だって(笑)) 我ながら完璧な計画にうっとりだ。 ジュリアス様に最上の一日を過ごして欲しい。 その一日のフィナーレに俺の愛を所望なら、望みもかなえて差し上ちゃうぞ。オープニングからでも望むところだし、いつでも臨戦態勢バッチリだ。 (そうして欲しいのは本音) ……どうだ、この美しき自己犠牲! そしてその下に潜む大いなる下心……。 (自分で自分に酔っています) 「なぁ〜〜〜に、廊下でそんなにニヤついているのよぉ? 気持ち悪いったらありゃしないわ!」 背後から忍び寄るオカマの声に、おれは飛び上がった。 「お、オリヴィエーーー! ど、どこから湧いて出たーー!」 クルッと振り向くとハデハデに化粧をした、極楽鳥の姿があった。本当にこいつはどこにでも湧いて出るので油断がならない。くそうっ、香水のにおいがキツイぜ! ……っていうかこんなに臭いのに、なぜ気づかなかったんだ! 「湧いて出たとは失礼ねェ〜〜公共の場所である廊下で一人でニヤついてたのは、どっちだったかしら〜〜? もう、気持ち悪いったらありゃしないわぁ」 「お前の香水の匂いの方がよっぽどか気持ち悪いわ!」 「ん、まあ〜失礼ね! これは特注なのよ! ワタシだけのオリジナルな香りだから、素敵だとお言い!」 グッ、極楽鳥の野郎、いつも不味いタイミングの時に限って現れるんだよな、巧くごまかさねば(汗)。 せっかくのジュリアス様へのプレゼントが、無料メイク体験サービスなんてことになったら、これまでの苦労が水の泡だ。気づかれないようにせねば! 「なんでもないさ、ちょっとした思い出し笑いさ」 フッと笑って前髪を掻き上げてみる。我ながら気障に決まってかっこいいぜ。 だが、極楽鳥には生半可なごまかしは通用しない。 つけマツゲをバチバチしながら、虹色に塗った爪を俺の胸に突き立てた。 「ふ〜〜〜〜ん、いよいよ怪しいわ〜。アンタ、アタシに黙って何かよからぬ……もしくはイイコト企んでいるんじゃないだろうねぇ」 ギクッ……! さすがオカマの直感! 侮れない! 「……男には聞かれたくないことの一つや二つはあるんだ。察してくれ」 クールにそう言うが、本音を言えば、そっとしておいて欲しい。 「ハハ〜〜ン、わかったわ。そんなに真剣な顔されちゃあね茶化し甲斐もないわ。どうせジュリアスのことなんでしょ?」 あっさりと追求をやめたが、グサリと核心を突いてくる。 「うっ、ぐっ」 怯んだ俺に、極楽鳥は楽しそうに更に言った。 「貸しだからね!」 ちょっ、ちょっと待て〜〜〜〜っ! なんでこんなことくらいで貸しなんだ〜〜〜? 「うふふふんん、何を買ってもらおうかしら♪」 ルンルン鼻歌を嬉しそうに歌いながら、極楽鳥は去って行った。 ……まったく、油断も隙もない。 「はあ〜〜〜っ」 俺はすっかり脱力してしまい、廊下にもたれながら、ため息を吐いた。 「どうしました? オスカー、そんなところでため息なんかついて」 「ぐっっ! リュミエール! いつの間に……!」 飛び上がった俺を、リュミエールは不思議そうに見つめる。 「ついさっきクラヴィス様の執務室から出たところですが、あなたこそこんなところで何を?」 ぐぐ、これまたいつもどこからでも湧いて出るリュミエール……って廊下でウダウダしている俺も悪い。 「なぁ〜〜んでもないさ、じゃあな〜〜〜」 これ以上ボロを出さないウチに俺は退散した。 そう、こいつらにも、他のヤツらにも誰にも邪魔されないよう、対策せねば! 俺は心のメモ帳にしっかり書き込んだ。 そしてこの日から、俺の血の滲むような努力が始まったのだ。 目ざといオリヴィエに気付かれないよう、そしておとなしい顔でいながら神出鬼没のリュミエール聞かれないよう、そして誰にもバレないよう、自分にも、周りにも厳戒態勢を強いた。 そして俺は浮かれるのをやめ、いつもの仕事モードの顔で、ビシッとジュリアス様の執務室へと通うのであった。 「ジュリアス様、惑星サンサンピカからの報告が、王立研究院より届いておりますが」 ビシッと真面目な姿に我ながらうっとりする。 俺が執務中に真面目なのはいつものことだが、最近はことのほか真面目に徹している。 ジュリアス様はじっくりと書類を見つめて、考え込んだ。 「……どうやらこの惑星は、炎のサクリアの供給量がかなり不足しているらしい。一度陛下にご相談した上で調査をすべきかも知れぬ」 ギクッ! 炎のサクリアが? 守護聖はまず基本中の基本として、サクリアの供給の配分には細心の注意を払っている。 俺はミスした覚えはないが、王立研究院の細かい計算違いかも知れない。 聖地からでも軌道修正をすれば直ることもあるが、新たに力を加えたり、与えすぎた力を奪う場合は、守護聖自ら出向かなくてはならないこともある。 だから俺は焦ったさ! だってついさっきまで、ジュリアス様の誕生日を素敵に過ごしていただくために、血の滲むような努力をして頑張ってきたのだ!(強調) それが突然の出張でフイになってしまうことだけは避けたい。 俺はそれからは必死で馬車馬のように働いた。何が何でも出張は回避するのだ! もし万が一出張になったら、さっさと処理して当日までには帰ってくるのだ! …………しかし、今までは行き当たりばったり、なし崩しのラブちゅーな展開はうまくいったのに、今回のように用意周到なときに限って、こんなことが起こるのだ! やっぱり、プレゼントは俺?って簡単にしておいたほうが……。 喜んでいただける自信もあるし(笑)。 それからの数日は、昼間は執務と研究院への往復、そしてジュリアス様の補佐もきっちりとこなし、空いた時間はこっそりお誕生日の準備にとりかかる。 夜は王立研究院に泊まり込み、朝方屋敷に帰って、出仕前に仕事とお誕生日の準備をする。 そしてまた同じスケジュールの一日が始まるのだ。 さすがにこんな毎日を続けていると、絶倫……もとい、体力には自信のある俺も疲れてくる。 いつもは職務に厳しく、自ら進んで激務をこなしているジュリアス様にも心配させてしまったのだ。 うう、一生の不覚! いつもなら疲れた顔なんか絶対に見せないのに! 「オスカー、そなた、最近疲れているのではないか?確かに惑星サンサンピカの状態は予断を許せぬが、倒れてしまっては元も子もない。何もかも自分で抱え込まずに、周りに助けを求めることも必要だぞ」 厳しい表情でジュリアス様は俺を諫めるが、それは俺を心配しているからだ。厳しいが暖かいお言葉に、じ〜〜〜〜んとしてしまう。 幸い、サンサンピカの状態は好転してきており、出張はしなくてもよさそうだ。 それをジュリアス様の元へ報告したところ、開口一番、そう仰ったのだ。 ジュリアス様のお誕生日まであと3日、なんとか間に合った。 安堵と喜び、それに加えて疲れがたまっていたから、つい自制心をなくしちゃいそうだ。 なくしちゃおうか……。 ガバチョ〜〜〜〜ッ! ふと気が付くと俺は思いっきり、ジュリアス様を抱きしめていた。 執務中だけど、構うもんか! ああ〜〜〜ジュリアス様はなんて芳しいんだ! 抱きしめたお体のしなやかな感触も、たまらない。 …たまらない〜〜〜〜〜……………………っう………………………………ぐぐ…………う〜〜〜〜〜う……………ぐむむむ、うっ〜〜っ!……………。 …………俺、息子もたまってたんだ!(切実) 今は執務中、執務時間中なのだ〜〜執務時間だってばぁ〜〜〜〜って! ちょっと抱きついちゃったりしたから。 ちょっとチュウしちゃったりしても。 ちょっと、手を出すくらいならいいと思うんだ。 でもちょっとくらいじゃもう、収まらない! 日も高いけど、後からお叱りを受けるのはわかっているけど、もう、どうだっていい〜〜〜!!! 俺は鼻息荒くガバッとジュリアス様をその場に押し倒した。 「オスカー……今は…………し、つ……む……」 抗いながらもジュリアス様もしっかり俺の口づけを受け止めた。 もしかして、ジュリアス様も? ええい、それならますます構うもんかーー! これからめくるめく世界へレッツゴーだ! |