おしゅかー、3歳児になる!

(5)



 翌朝、スッキリした気分でジュリは目が覚めた。
 隣ではオスカーがすやすやとまだ眠っていた。やはり、オスカーは今のオスカーがいい。とジュリは眠っているオスカーにそっと口づける。
「ううん……」
 オスカーは身じろぎすると、パチッと目を覚ました。そして目の前のジュリアスに気づいた。
「あっっじゅりたま、おはよ〜〜〜」
 ニカッとあどけない笑顔でオスカーは笑った。
「……オスカー、元に戻ったのではないのかっ?」
 確かに、あの最中はいつものオスカーだった。元に戻ったのに、子供の振りをし続けるとは、いい根性だ。
「まさか、そなた、本当は子供などになっていなかったのでは……私をからかうにも程がある」
 ジュリアスは思いっきり、冷たい視線と口調でそう言った。するとニコニコしていたオスカーの目に、みるみると涙がたまっていく。
「じゅりたま、弱虫のおしゅかー嫌いなの?」
 オスカーはシュンとなってうなだれた。芝居にしては念が入りすぎている。
 まさか、元に戻ったのは一瞬だけだということなのか。わけがわからないがジュリアスは愕然とした。ということは、いたいけな子供をきつく叱りすぎたということだ。
「い、いや、そなたが弱虫だろうが、子供だろうが、そなたはそなただ。どんなそなたでも私は大好きだ」
 しどろもどろにジュリアスは弁解する。
「ホントッ? じゃあ、毎晩一緒におねんねしてくれる?」
 上目遣いにそう聞いた。子供になってもただでは起きない男である。
「……いいだろう」
 顔を赤らめながら、ジュリアスは答えた。
「アリガトウッ! じゅりたま!」
 オスカーは元気よくシーツを剥いで、勢いよくベットから飛び出した。
「……あれ、でもなんでおしゅかーハダカなの?」
 ジュリアスはギクッとした。その端正な顔は青くなったり、赤くなったりした。偶然に最中だけ元に戻ったとはいえ、心は子供のオスカーに、不埒な振る舞いをしたことには違いない。
「そっそれは、そなたが暑いといって、来ているものをすべて脱いだせいだ」
 苦し紛れにいいわけをする。とにかく今、自分は服を着ていてよかったとつくづく痛感した。
「……ふ〜〜ん」
 納得いかないようにオスカーは首を傾げる。とにかくここは言いくるめるしかない。
「そうだ、そなたは甘えすぎだ。いつまでも人と一緒でないと眠れないとは守護聖失格だ」
 とにかくオスカーが元に戻るまで、二度と間違いがあってはならない。相手は子供なのだ。何が何でも一緒に寝ることは、今後あってはならない。
 クドクドと理由を言い続けるジュリアスに、オスカーはトコトコと近づくと、ハダカのままいきなり抱きついた。
「……オッ、オスカーッ、何をする?」
 ジュリアスはうろたえて、後ずさる。オスカーは昨夜と同じように、気持ちよさそうにジュリアスの髪に顔をすりすりする。
「じゅりたま、あったかい〜〜。おしゅかーは寝間着なんかなくても、じゅりたまがいればいいや……」
 そう言って見事な金髪に鼻をおしつける。
「……いい匂いだなぁ…」
 ずぎゅ〜〜〜〜んっとジュリアスの心は打ち抜かれた。
(こ、っこやつ、子供のうちから、なんという殺し文句を……)
 朝っぱらから体に火を付けられて、ジュリアスは当惑する。もうすぐ執務時間になるというのに、まさかこのまま押し倒すわけにもいかない。
 だが、我慢しなくてはいけない。
 心を鬼にして、ジュリアスはオスカーの体を引き剥がした。
「服を着て、執務に行くのだ」
 昨夜脱がせた寝間着を、再びオスカーに着せて、ジュリアスは部屋へ戻るように告げる。
 オスカーは素直に従いながらも、こう聞くのはちゃっかり忘れない。
「ねえ、お行儀よくすれば、また今日も一緒におねんねしてくれる?」
 つぶらな瞳でウルウルとジュリアスを見つめる。こうなると断れない。
(わかって言っているのか、こやつは…)
 しかたなく同意すると、オスカーはうわ〜〜っいと叫ぶと部屋から出ていった。そんな素直だがかわいい調子のオスカーをジュリアスは目を細めて見つめる。
(寝るだけだ。ただ、一緒に寝るだけだ。何もしてはいかぬのだ)
 残されたジュリアスは必死で自分にそう言い聞かせていた。

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