鹿殺し(1993GW)その2(携帯版)


●鹿殺し
いったん東進し、養老牛温泉の「からまつの湯」に漬って体を温める。
これから向う、更なるゲロ寒地帯に備える為である。
次なる目標は裏摩周の展望台、そしていよいよオホーツクへ!!
快調にワインディングを駆け登るSHADOW1100。
道の両脇に雪が出現するものの、路面は全く問題なし。
程なく、裏摩周の展望台に。
おおっ!!昨晩一緒だったシトが居るではないか!!
十勝川温泉に便乗させてくれたクルマのヌシである。
「こんちは」「また会いましたね」
しばし話し込み、その人は一足先に斜里側に降りていく。
「よぉしっ。いっちょう追い上げてさしあげようかねぇ・・・」
このスケベ心がマズかった!!(TWなら、絶対にムリだけど)

下りのコーナーを、8~90Km位で駆け降りる。
イン側がブラインドとなったコーナーに入ると・・・・・
ウゲゲゲゲゲゲ!!!
道路の中央に立ち止まったままの鹿!!!
思わず鹿と目が合った瞬間!!
全く見事に正面衝突。
ゴロンゴロンと路面を転がりながら、はるか前方にはバイクが滑って行くのが見える。
「嗚呼!滑るバイクは、なじぇにここまでセツなさを感じさせてくれるのだろうか・・」
などと考えながら、起き上がった途端にイキオイで再び転がる。

道路中央に倒れたままのSHADOW。
体育座り風のワタクシを挟んで反対側に、やはり倒れたままの鹿。
あたり一面は鹿の毛だらけである。
脳震盪でもおこしていたのだろうか。
やがて鹿はユックリと起き上がり、路肩に移動すると
「このやろう!!痛てぇじゃねぇか!!きをつけろ!!」
と言った雰囲気で、こちらにメンチをきりやがる!!
「にゃ・にゃにおう!!ケーサツ呼ぼうじゃねぇか!ケーサツ!」
「上等だぁ!!そっちがケーサツなら、こっちはクマ呼ぶぞぉ!」
「そ・そりは・・・・」

そんな会話がなされる訳はなく、程なく鹿はヤブの中に走り去る。
しかし、マジでクマはヤバすぎるぅ!!!
果して、これからどうなるのだぁ!!!

【一口メモ】
GWの北海道は、まだ冬と春の端境期である。
雪は道路の周辺から溶け始めるので、そこいらの草を狙って鹿などが道端に出現するのだ。
要注意ですぞぉ!!!
鹿は、威嚇して相手を逃亡させようとしたりもするそうなので、面白がって走る鹿にバイクで並走したら、いきなり体当たりされたヤツも居るのです。
クルマでも注意!!跳ねられた鹿がフロントガラスから飛び込んで来て、運転手が死亡する事故もあるそうです。
国立公園内で鹿を殺したりすると罰せられますが、交通事故の場合は不問だそうな。
その場合、鹿の死体も自由にして良いそうで、一体5~6万円で売れるそうです。
斜里や足寄あたりで、「鹿買います」なる看板も見掛けました。


●黄昏
いつまでも呆然とたたずんでいる訳にはいくまい。
重い腰をあげ、まずはバイクを起こさねば。
ヨッコラショ・・・
斜里側から登ってきたトラックが停止する。
「どうした?なんかあったんか?」
「し・鹿とぶつかりましたぁ・・・」
「ほ~ぉ。ここいらじゃよくあるんだよ。大丈夫か?手ぇ貸すか?」
「大丈夫です。ほっといてください。」
「バカ言うでないっ。バイクは大丈夫かって聞いてんだ。もし動かなかったら、ここからどうするツモリだぁ!!」
「は・はぁ・・・」
「街までかなりの距離が有るんだぞ。クマに食われたいかぁ?あ~ん?」
「イ・イヤですよう!!!」

トラックのオッチャンに見守られながら、被害状況を確認する。

・鹿とぶつかったと思われる、フロントフェンダーがベッコリ。
・タンクがベッコリ。ガソリンの漏れは無し。
・ステップやウインカーなどに擦り傷。
・曲がったフロントフォークは、その場で人力で補正。
・人間は、ジャケットに擦り傷、Gパンが破れてちょっぴり流血程度。
・荷物にも擦り傷。

よくもまぁ、この程度で済んだ物である。
オフ車が転倒のダメージに強いのは当然ながら、アメリカ製のアメリカンもなかなか打たれ強いではないか!!!
エンジンも難なくかかり、
「大丈夫です。自力で走れます。」
「そうか。気をつけてな。」

ふたたび独りっきりになる。
道路一面に散りばめられていた鹿の毛も、いつのまにか風に飛ばされてポツリポツリと残骸を残すのみとなっている。
ちょこっと摘み上げてみると、見かけによらず、物すごく剛毛であることを始めて知る。
知った所で何の意味にもならないけれど。

「ハァ~・・・・・」
もう東京に帰ろうか・・・・
などと不意に思ったりしながら、徐々に傾き始めていく5月の裏摩周の太陽を見上げる。


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