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メンソーレうらがわ(1991夏・沖縄)前編

沖縄の海 (この写真は与那国島ですが・・)


「キミィ、ヒマそうだねぇ」
イキナリ、常務様に呼び出される。
「今度の社員旅行、沖縄なんだけど・・・・」
なんと、幹事を仰せつかってしまったのだ。
決まっているのは日程と予算のみで、あとは全部やれとのこと。

 いくつかの旅行社にデンワをしてみる。
時期は8月のアタマ、そんなにクソ暑い時期に沖縄を訪れる団体などは少なく、どこもウエルカム状態だったのだけれど・・・・
た・高すぎるぅ!!!よ・予算がぁ!!!
 それまでの社員旅行の資料を見ると、こういった団体は結構安く収まってるのである。
11月の北海道の時などは、ホテル2泊付きで通常航空運賃より安かったりしてるのだ。
沖縄は殆ど定価ではないか!!!

 こういった旅行のバヤイ、外注さんを大量に招待するのである。
モチロン招待される側は無料なのだ。
ただし、慣例的に、彼らは実際の旅費以上のオツツミ(ジェニでんがな!ジェニ!!)を持参して来るのだ。
不参加の業者さんもモチロン持って来る。
気を許すと、それらは手品の様に、社長様のポッケに仕舞い込まれてしまう。
幹事が着服しちゃうケースも有るようだ。
うまく立ち回れば美味しい思いが出来そうでは有るが、今回は何としてもそれを旅費に回さねば足りない。
幹事3名で、作戦を練りに練る。
「オレたち、ハズレの幹事を任されちゃったなぁ・・・」
「それを言っても仕方ないじゃん。集合の時、社長の挙動に気を付けろ」

 旅行社は、N社に確定。
決め手となったのは、以下のセリフだった。
「ハイッ!大丈夫です。我が社はキッチリ予算をたてまして、幹事さんにはオイシイ思いをして頂きますよぉ!!!」
この一言が、様々な苦難に繋がってしまうとは・・・


 このN社、トンデモないのである。
誰でも知ってる大手のクセに、手際は最悪!!
泊まるホテルを転々と変更され、搭乗するヒコーキがいつまで経っても決まらない有り様。
担当者を替えさせても、次のヤツもアホなのだ。
「すみません、ご迷惑をかけます。幹事さま、アチラではその分イロイロと幹事さまの為に用意させて頂きますので・・何をって?グフフフフ・・」
これで許してしまう、我々幹事もアホなのであった。

 テキトーに現地の日程を組む。
モチロン中日は自由行動。
自分が勝手に出歩きたいのが一番の理由なのだけれど、なにぶん予算も無いからしかたが無い。
あとは別会計のゴルフやバス巡りをテキトーに用意。
それにしてもバカなカイシャにはマヌケな社員しか居ないものだと認識させられるのである。
いいオトナがにじり寄って来て
「ねぇねぇ!!オリは誰と一緒の部屋?。まさか○○君じゃないよね」
オッチャン!!あんた、修学旅行じゃないんだよう!!
万が一の場合を考え、飛行機は2便に別れるのだけれど
「あのさぁ、△子ちゃんと一緒の便にしとくれよう!!」
このワカゾーが!色気付きやがって!!!

 なんだかんだで当日の羽田空港。
まずはオツツミ回収が最大の使命である。
3人の幹事のうち2名が大声で集団を指揮し、いかにも自分が幹事である事を招待の業者さんにアピールする。
残る一人は社長をピッタリとマークし、直接社長に挨拶に来る業者さんに
「お疲れ様です!!幹事ですぅ!!」
などと挨拶し、手早くオツツミをもぎ取ってしまうのである。
作戦は成功し、オツツミはほぼ回収出来たようだ。
しかし、安心するのもつかの間・・
「おぅい!!幹事ぃ!!ルービ買ってこい!!」
く・くぬやろぉ・・・・
番長あつかいしやがってぇ・・・

 大汗をかきながら、旅行社の言う「幹事さまの為のグフフ」に、この時点では期待を寄せていた3人なのであった。

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 那覇空港に降り立つ東京勢80人。
ここで福岡から飛んでくる九州工場(熊本)からの40人と合流するのだけれど・・・
にゃにおぅ?工場長が来ていない!!。
事務をやっている奥様が来ているのに、なじぇ??。
正解は無残だった。
バスで熊本から福岡空港に向った時には全員一緒だったのだ。
空港で待機していたN社の社員からチケットを受け取ろうとすると、何と4人分足りないのだ。
全くN社側のミスなのだけれど、ガタガタ言っても仕方が無く、キャンセル待ちの末3人だけは乗る事が出来、工場長は置き去りとなってしまったとのこと。
東京から同行している添乗員のむなぐらをつかむ。
「キ・キサマァ!!!」
「わ・私には事情がわかりませんよう!!」
「にゃにおう?そんな無責任な!!!」
「す・すいません。お詫びは後で・・・」
許すのであった。

 普段は物静かな紳士であっても、旅行、しかも団体となると人間性が変わるもので、その境目は4人からとも5人からとも言う。
モチロン我がバカ社の社員も例外ではなく、口に出せない愚かな一行と化す。
そんな大迷惑な行動の数々を一気に省略し、恩納村のリゾートホテルに転がり込む。
恩納村とは沖縄本島の中央部、島が一番くびれている所で、那覇よりも名護に近い。

 宴会が始まる。
「社員旅行には全員での宴会が付き物である」といった、常務様からの勅命で用意したのだけれど、なにぶんゼニは無い。
ホテル内のレストランを借り切り、バイキング形式の立食パーティーが精一杯なのだ。
居並ぶオードブルには沖縄郷土料理のオの時も無く、我ながらここまで安くあげられた事に関心してしまう程である。
それでも、飲み物だけは飲み放題にした事が功を奏し、オヤジどもは満足げにガハガハと飲めや歌えの大騒ぎ。
我々幹事は・・・・
レストランのスミッコで、細々とヤキソバなどを食う。
決して虐げられている訳では無く、自らの意思なのだ。
これからの「グフフ」に備え、ハラだけ落着かせて準備は万端!!
お開き時間を心待ちにしているのだ。
こんな、水牛のションベンのような水割りを飲んでるバヤイではない!!


 待ちに待った宴会が終る。
モチロン、「待ちに待った」は、「終る」にかかる言葉である。
日本語はムツカシイのだ。
ホテル内の飲み屋などに消えて行くオヤジどもの視線から逃れるように、柱の影に潜んでこちらに手招きをする添乗員。
待ってましたぁ!!
ソソクサとホテルのロビーを出て、タクシーに乗り込む4人。
「さぁ!行きますかぁ。行き先?当然、那覇ですよぉ!!」
 暗闇の海っぺりを走り、やがてタクシーは高速道路に入る。
対向車さえロクに走っていない、存在価値を疑う様な高速道を延々とかっ飛ばし・・・
遂に、ギラギラうっふぅん的な国際通りに到着。
空港でのオロオロ顔から豹変し、一気に自信満々な薄笑いを浮かべる添乗員。
「さぁ、ここですよぉ!!」
ドヤドヤと店に入る。
おおっ!!なんとも高級な飲み屋なのだ!!
想像だけど、銀座あたりの成金オヤジの巣窟のような雰囲気!!
我々のリゾート衣装が思いっきり浮き上がっているではないか!!!
「いらっしゃいませぇ。」
一人一人にオネェチャンがつく。
おもむろにキンチョーする幹事3名。
添乗員、一気に立場が逆転し、余裕で我々を見下ろしながら
「まぁ、くつろいでくださいよぉ。グフフフフフ・・」
おおっ!!こりがグフフの正体かぁ???
違ったのだ。
グフフはこれからだったのだ。

 オネェチャンを交え、小粋なトークが弾み始めてしばし・・・
「ふぇJGりえじえR@CPうぇV」
文字化けではない。
オネェチャンどおしで、沖縄言葉で話し始めたのだ。
な・なんですとぉ???。
我々にはサッパリわからない。
その会話の後、オネェチャンたちはまるで示し合わせた様に(示し合わせたんだろうけど)、我々と1対1になるように寄り添い
「ねぇ、私の事、気に入ってくれた?」
「な・なんれすかぁ・・」
「もし気に入ってくれたなら、一緒にどぉ??」
「い・いっひょにぃ?」
「○万円でいいのよ。ホテル代はあたしが持つから」
そ・そういうこつれすかぁ!!!


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 暗闇の高速道路、我々を乗せたタクシーが恩納村を目指す。
誰も口を利く物は居ない。
窓に流れる高速道の街燈を目で追いながら、それぞれ、心の中でつぶやく。
「くっそぉ。オプショナルなグフフは自腹かよ!!そんなカネ無ぇよ!」
「何の為に、わざわざ那覇まで行ったんだ。」
「オプショナルを拒否したあとの、あの気まずさは何だ!」
断ったとたん、オネェチャン達は引きつった愛想笑いを残し、蜘蛛の子を散らすように消え去ってしまったのだ。
カウンターでママか誰かと親しげにバカ笑む添乗員を睨み付けながら、3人でチビチビとエチルアルコールを摂取するだけの時間・・・・ケッ!!!


 翌朝。
気を取り直して走るのだ!!!。
今日はフリータイム。
那覇まで行くのはカッタルイので、恩納村に一軒だけあるレンタルバイク屋に。
チンケだぁ!
スクーターの他は、ビラーゴ250と化石の様なホライゾン。
たった2台しか無いではないか。
当時は限定解除しておらず、選択の余地もなくビラーゴを借りる。
お値段だけは一流で、レンタカーより遥かに高い。
「あのぉ、パンク修理セットのレンタルもありますよぉ!」
「はぁ?」
「沖縄の砂は貝殻まじりなので、舗装路のアスファルトも良くないんです」
「ふむふむ・・・」
「パンクした場合は引き取りに向いますけど、1万円頂きますよぉ」
「・・・・」
「レンタル料は500円ですが・・」
い・いるかっ!!
ビラーゴはチューブタイヤですぜ。
こんな炎天下で自分で修理させられて、500円も払えるか。
パンクしたら捨てて帰るわいっ!!

 なにはともあれ、海を左に見ながら時計回りに走る。
やっぱり島を一周するのがオヤクソクというものなのだ。
国道沿いの海でさえ、何とも言えない透明感!!
あちらこちらのビーチには、色とりどりの観光客の姿。
湘南あたりのゴッタガエシと違い、それぞれに思い切りリゾートしている。
そうなのだ!!強い日差しあっての沖縄なのだ!!
これこそ健康的な姿ではないか!!
道も空いていて快適快適!!。

 名護の街を通過して北上し、沖縄本島の最北端である辺戸岬に。
道路から岬までは、わずかばかりのダート。
パンクしたらマジに捨てて帰る訳には行かず、ソロリソロリと気を付けながら突端に到着。
おおっ!!
すぐ目の前の黒い巨大なカタマリ!!!
与論島ではないか!!!。
こんなにも近いとは。
日本地図などを見ても、北海道と沖縄県はスミッコに別枠だったりする。
一応本土である鹿児島県に属する与論島との位置関係は、なかなか計りにくいものではあるが、こんなにも目の前だったとは!!。

 海沿いに南下を開始。
このあたりは沖縄本島でも最も開発されていない地域で、ごく最近まで存在が知られていなかった鳥、「ヤンバルクイナ」の生息地でもある。
日本離れした南国風ジャングルの中の道を走り抜け、それでも至る所にゲート、そして「米軍基地。立ち入り禁止」の看板。
 沖縄は基地だらけと言われるけど、まさにその真っ只中なのだ。
前日バスで走った国道沿いも、金網と広い空間のオンパレードだったではないか。
地下式弾薬倉庫の上に広がる畑、耕作している農民は「万が一の時には何も請求しない」なる一筆を書かされての農作業の毎日なのだ。
そこまでしてキケンな土地を借りている訳ではなく、彼ら自身が地主だというのだ。

 コザの街に入る。
古ぼけた商店街、アルファベットの看板が目立つ。
基地に依存して生活が成り立っている部分も多い沖縄。
背に腹を変えられずに、弱みに付け込まれての生活。
そんな反発が爆発した事件「コザ騒動」。
そんな背景を漂わせながら、過去の遺恨を拭う為に沖縄市と改名された街であるコザ。
さしたる名所も無く、観光地・沖縄というイメージからも取り残されてしまった街並みをビラーゴで走り抜ける。
道端で地蔵の様に座り込む老人の目には、そんなバイクがどのように写っているのだろうか。

沖縄のレンタバイク屋 (この写真は与那国島ですが・・)

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