ブラボーつるおか(1993秋・東北)その6
新庄市の手前で最上川に別れを告げ、そこからはイッキにR13号を南下した。
『価値観の相違』というフレーズがアタマをヨギる。
それと同時に、なんだか急に気が楽になった事に気がついた。
それは、価値観の相違を納得した上での、アカネちゃんへの接し方を悟った訳では無く、
「アカネちゃんとは、今も、今後も、一緒にツーリングをしているだけのタダのトモダチなのだ。」
などと、勝手に納得した結果だった。
最初からずっとそのツモリであろうアカネちゃんからすれば・・・・・・
勝手に意識され、そして勝手に醒められたって困っちゃうのだろうけれど、たぶん本人には伝わっていない違いないから、別にメイワクをかけた事にはなるまい。
今から思えば、致命的な価値観の相違なんてのは、何もなかったのだ。
一緒に走り、それが楽しいと思えば、楽しみの対象などはお互いにそれぞれで良いハズだ。
むしろ、全く同じ感動を相手に求める事にムリがある。
しかし、この時のワタクシは・・・・・・・
自分で勝手に敷いたレールを走ってくれないアカネちゃんにモドカシサを感じ、実はそのレール自体が、本来の目的地に向かう道を遮断してしまっている事に、全く気がつかないでいた。
片側2車線の天童市街で、ちょっとした渋滞に引っかかった。
まあ、街中だけの一時的な混雑だろうし、特に気に留める事も無い。
車幅の狭いアカネちゃんのCBRが先行する形になって、それぞれにスリ抜けをしながら前進を重ね、やがて前方に渋滞の先頭となっている交差点が見えた。
アカネちゃんは、渋滞の先が見えたからか、あるいは後方から追いかけるワタクシを待つツモリだったのか、スリ抜けを止めて追い越し車線側のクルマの列に加わり、前から10数番目ぐらいの位置で信号待ちをしていた。
まさにその時だった。
アカネちゃんのすぐ後の軽自動車が、走行車線側にはみ出す形でクルマを左に寄せながら、追い越し車線の中央にいたアカネちゃんに並びかけたのだ。
そして今度はクルマを右に寄せて、まるでアカネちゃんを中央分離帯に押し付けるようなイキオイで、幅寄せ攻撃をしているではないか!
後からはアカネちゃんの顔は見えないけれど、逃げるに逃げられない状態で苦悩する表情が目に浮かんだ。
ワタクシは後方からイッキにスリ抜けて、その軽自動車に追いついた。
運転しているのはフツーのオッチャンで、全くの無表情なのがブキミだ。
オヤジの前のクルマが前進した隙を見て、ワタクシはオヤジの軽自動車の前に回り込み、そこでバイクを停めた。
オヤジは、バイクに跨ったままニラミつけるワタクシとは視線を合わせようともせず、不自然な方向を見つめてスッとぼけている。
ブチ切れたワタクシがバイクを降りようとサイドスタンドに足を掛けた時、オヤジの魔の手から逃れたアカネちゃんが並びかけてきて叫んだ。
「いいから行こうよ!!」
そのまま2人で交差点の最前列までスリ抜けし、オヤジの軽自動車は後方の車列に消えた。
渋滞の終わった国道を走りながら、この出来事についてアカネちゃんと話す。
もちろん走行中には会話など出来ないので、信号待ちの僅かな時間のたびに、1往復づつの会話なのだ。
「ダイジョーブだった?」
「うん、ヘーキ。でも、ビックリしたぁ」
「とんでもないオヤジだよなぁ。アレ、絶対にワザとだぜ」
「こんな事、慣れたモンよ。」
「そっかぁ。コレが鶴岡のYHで言ってた、女性ライダーへのイヤガラセなのか」
「まぁね。今のは、ちょっと怖かったけど・・・・・」
そしてそれは、何度目かの信号待ちの時だった。
「でも、ありがとう」
「えっ?何が?」
「お陰で助かったわ。やっぱり、パートナーがいると頼りになるね!!」
「パ・パートナー? ソレってどういう意味で・・・・・」
そこで信号は青になり、アカネちゃんはイタズラっぽく微笑むと走り出してしまった。
「パートナー、パートナー、パートナー・・・・」
アカネちゃんがどういうツモリで「パートナー」というフレーズを使ったのか・・・・・・・
ワタクシはアカネちゃんの後姿を追いかけながら、この言葉を反芻するように繰り返し続けた。
そして勝手に考えたって出るハズのない答えを探りながら、次第にキモチが高ぶっていった。
「やはり、アカネちゃんを守るのはオレしかいないのだ!!」
結局、そんな所に落ち着いてしまった。
ついさっき、オトモダチとしての地位を受け入れたばかりだというのに。
『決意』と言うには、それが余りにも軽すぎる事を冷静に顧みる事も無いまま、ワタクシは、一大決心をしたツモリになっていた。
そしてこの選択によって、せつなくて辛いばかりのこの旅が、まだまだ続く事になる覚悟も忘れていたのだ。
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