南国大尽(2001冬・モルジブ)その5(携帯版)
飛行機の窓には、我らのモルジブでの住まいであるヒルトンのリゾート島が眼下に見える。
ランガリ島とランガリフィノール島、ややこしいネーミングの二つの島から成り立つモルジブヒルトン。
共に周囲2Km程度の小さな島で、二つの島の間は、長さ800m・幅3mの橋によって結ばれている。
橋の中央に水上飛行機用の桟橋があり、そこに東屋風の屋根がある以外は全くむき出しの木造橋である。
環礁という自然の防波堤の中に浮かぶ島なので、そんな程度の橋で十分なのかもしれない。
現に、どちらの島も周囲は全て砂浜で、人工の防波堤など全く存在していないのだ。
いよいよ着陸態勢に入り、それまでは比較的にノンビリと菓子などのやりとりをしていた操縦士のスキンヘッドと副操縦士のサンダーバードの動きが再び慌しくなる。
どうやらサンダーバードは一人前では無いらしく、ここまでスキンヘッドからいちいち指示を受けていたのだけれど、肝心なところは是非ともスキンヘッドにやって頂きたいものである。
海面につんのめって大前転なんてのはカンベンして欲しいよう。
願いが通じたのか、最初からそのツモリだったのか、おもむろに気合の入った表情で操縦管を独占して操作し始めるスキンヘッド。
あまり関係無さそうなスイッチをテキトーに入れたり切ったりしているサンダーバード。
そんなこんなのうちに、にわかに差し迫る海面。ちょっとした衝撃とともに、両脇の窓からは激しく水しぶきがあがる。
ジェット機が着陸する際の逆噴射の時の圧迫感を感じさせる事も無く、自然に止まるのを待つようなユッタリとした減速の後、そのまま船にでも乗ったようなノンビリペースで桟橋に向う水上飛行機。ほどなく、スタッフ達が待ち受ける桟橋に接岸する。
「いらっしゃいませぇ。モルジブヒルトンにようこそ」
まずは日本人スタッフのオネーチャンのお出迎えのお言葉。
まるでデニーズのようなセリフだけれど、重みが全く違うのは言うまでもない。
ダイビングねーちゃん達はダイビングショップの日本人にいちゃんに連れ去られ、他の外国人達はそれなりのスタッフの元に集められている。
「こちらへどうぞ」
日本人スタッフねぇちゃんに東屋の一角に引っ立てられたのは、我が夫婦と見合い夫婦。
メインの島がランガリフィノール島であり、そちらにフロント・メインレストラン・メインバー・予約制の水上レストラン・ダイビングショップ・お土産屋・各種レジャーの受付カウンター・プール・ホントに使うヤツがいるのか疑問なテニスコートなどがある。
もう一つのランガリ島の設備と言えば、朝昼食のみが食えるアリラウンジという小さなレストランが有るだけである。
しかし、けっしてランガリ島はオマケの島ではない。
島での宿泊は借り切りのコテージになるのだけれど、陸上コテージであるビーチヴィラはランガリフィノール島にしか無く、高級とされている水上ヴィラは全てランガリ島なのである。
つまりランガリ島は、高級宿泊客しか立ち入る事の出来ない、お大尽の島なのであった。
(アリラウンジまでは、一般の客の立ち入りも許されている)
ニセ大尽ながら、我が家ももちろん水上ヴィラを予約しているのだ。
陸上ヴィラにご宿泊の一般人の皆様が橋を歩いてランガリフィノール島に向う後ろ姿を見送りながら、お出迎えのドーニが近づいてくるのを優雅に待つ身分なのだ。
船室が無く、公園の貸しボートを巨大化させて屋根だけつけた感じの「ドーニ」と呼ばれる船がやってくる。
もちろん動力はついていて、ポンポンと喘ぎながら桟橋に辿り着くや否や、お揃いの青いスカートのような物を着込んだ現地人のスタッフ達が次々と荷物を積み込む。
朱蘭さまの手をとって乗船させてくれるのは西洋風な気配りなのだろうけれど、ワタクシの手までとってくれるのはコッパズかしい。
おんやぁ?見合い夫婦まで乗込んできたぞぉ?
チ・チミらも水上ヴィラだったのか。
何の事だか判らないけど負けないぞぉ。
ランガリ島のお大尽達がメインのランガリフィノール島に出向く際、いちいち700mの橋を歩いて渡るのは大変である。
その為に、このドーニが二つの島を頻繁にピストン輸送している。
この便は、到着した我々お大尽を迎える為に寄り道したのだ。
ランガリフィノール島から乗ってきたと思われる先客は、ダイビングスーツを着込んだオネーチャンが一人だけである。
日本人のような違うような・・・・
我々やスタッフと言葉を交す事も無く、飄々と座っている東洋人ネェチャン。
「あのオネーチャン、一人でダイビングしてたのかなぁ」
「一人じゃ潜っちゃいけないのよ」
「そうなの?なんで?」
「そういうキマリなの!!」
何とも澄み切った、コバルトブルーの海である。
淡々とドーニが滑るように進む水面は穏やかで、沖合いの環礁に砕ける白波などを無言で見つめている見合い夫婦。
航路の脇には、ドーニの水路を確保する為だろうか、無人のシュンセツ船がポッカリと係留されている。
朱蘭さまとボソボソ会話する以外には、ドーニの疲れたエンジン音しか聞こえてこない。
「あたしだって、沖縄に一人でダイビングしに何度も行ってるよ。向こうのショップでツアーに参加すればいいんだから」
「なるほどねぇ。でも、一人でここに泊まるなんてリッチだねぇ」
「う~ん、ここって一人で泊まれるのかしら。ダイビングだけが目的だったら、もっと安い所に泊まるなぁ」
「そうだよねぇ。ここって、ムチャクチャ高いしねぇ」
所詮はニセお大尽夫婦、結局はカネの話に結びついてしまうのであった。
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