フロントライン(2003夏・小笠原)その4(携帯版)


ははじま丸の出航は10時との事で、さっそく朝飯を食いにオサンポなのだ。
朱蘭さま曰く
「なんだか宮古島よりも栄えている」
らしい感じの、商店街と言うほどじゃないけれど、それなりに店が並んだメインストリートをウロウロと歩く。
スーパー、土産物屋、小粋なレストラン、そしてその奥には飲み屋の並ぶ繁華街。
もちろん、「比較的に繁華街」といった程度だ。

気候的には沖縄っぽいけれど、フンイキは明らかに違う。
いわゆる、「先祖代々受け継がれた、独特の文化っぽさ」が全く感じられないのだ。
なにしろアメリカから返還されてから僅か40年弱しか経っていないのだ。
しかも返還後に島に住んだのは、旧島民よりも新しく移住してきた人々が圧倒的に多く、それは全島民の8割にもなるとの事で、事実上、40年足らずの文化しか、ココには存在しないのだ。
しかし、それが面白くないと言っているのではない。
だって、文化人類学を学びに来た訳では無いのだ。
いや、訳が判らないけれど、文化人類学の上でも面白い場所なのではないだろうか。
なにしろココは、まさに文化が誕生しつつある最前線なのだ。
臨時早朝営業リストに載っていた、一軒の居酒屋に入り、さっそく朝飯。
数少ない島の文化だ『島寿司』を食おうではないか。
見た目はフツーの握り寿司に近いけれど、シャリの上にはヅケが握られていて、カラシで食うのだ。
コレはンマい!!
さらにさらに、忘れちゃいけないココでしか食えないモノで『うみがめ』があるのだ。
せっかくだから食わなきゃイケんと、うみがめの刺身と煮込みを注文してみるものの・・・・・・・
コ・コレはちょっと・・・・・・
ゴメんなさい。食えません。
「はぁい、オアイソね。アラ、ウミガメ美味しくなかった?」
店のオカミ、というよりスナックのママそのものの姐さんが、残念そうに付箋状の紙切れに書いた金額を差し出してきた。
う~む。
メシ屋でこういうのはめずらしい。飲み屋そのものの請求の仕方ではないか。
飲み屋なのに早朝から店を開けてくれたゴクローを、あらためて感謝しちゃおう。


岸壁に戻れば、相変わらず、おがさわら丸、ははじま丸が仲良く並んで停泊中だ。
ははじま丸は、色も形も、おがさわら丸をそのまま小さくしたようなイメージだけれど、490トン程の小船だ。
地下牢のような座敷席、外の見える座席、そしてナマイキにも一等船室までついている。
朝方にちょろっと降った雨も止み、いつのまにやらバッチリと晴れちまったからには、じぇひとも大小の島影を眺めながらの船旅を楽しみたいと思いつつ・・・・・・
ココロを鬼にして、地下牢に向かわざるを得ない。
なんたって、おとなしくイスに座っていられるオコチャマではないのだ。
地下牢は宴会中のワカモノしかいなくて、なかなかニギヤカにすごしている。
そんな状況ならば、少々駆けずり回ってもメイワクじゃなさそうだし、間違って海に落ちる心配も無さそうだ。

「アラッ、カワイイ」
などと、ワカモノ一派のオネェチャンがオコチャマの相手をしてくれるのをいい事に、親はゴロ寝タイムなのだ。
そしたら、予想外の展開が!!
「よく見れば、オトォサンもステキ!!」
などとオネェチャンが寄り添ってくれば思わずコーフンしちゃう所だけれど、そんな有り得ないシヤワセではなかった。
オコチャマが、再びグロッキー状態となったのだ。

イケンイケン。
台風の余波の波は収まったとばかり思っていたけれど、チンケなははじま丸を揺らすには十分なパワーだったのだ。
そんなオコチャマをオネェチャンに任せておく訳には行かない。
地下牢の環境がヨロシクないのかと、オコチャマを抱えてデッキに出てみる。
オコチャマに有効かどうかは判らないけれど、船酔い時には一般的に、遠くの波を見るのが良いと聞いた事があるからだ。
「ほぉら、海を見てごらん」
などと、たぶん通じながらも語りかける、我ながらなんてイタイケなオトォチャンなのだ。
ウツクしい!

小さな船だけに海面が間近に迫っているのだけれど、なんだか妙に黒々とした海の色ではないか。
この色は何だ。
東京湾などの腐った黒さとは全く異なり、透明感は高いのだけれど、ブ厚さを感じさせる濃厚な紺色なのだ。
そんな海の色に魅せられながら、ついでにイルカやらクジラやらの姿なんかの出現を期待してアチコチ見回していると、ナゾのフガり声。
ときおりデッキを洗う波に、オコチャマがビビリまくって思わずオタケビをあげていたのだ。
イケンイケン。
イタイケなオトォチャンの行動を忘れ、ついつい自分が楽しんじまったい。

右往左往しているうちに、徐々に母島が迫ってくる。
待ちに待った母島なのだ。
船は島の西岸を舐めるように進み、島で唯一の集落でもある沖港に到着。
おがさわら丸、ははじま丸の大きさに比例でもしているがごとく、港の規模もターミナルもこじんまりとした様相だ。
まるでブレーキターンの砂ぼこりのように、船尾から茶色い海水を濛々と巻き上げながら、ははじま丸は接岸。
おがさわら丸が二見港へ到着した時とはもちろん規模は違うけれど、やはり手に手にプラカードを持った出迎え客が群がっている。

最速の公共交通機関を用いた場合、本土から到着するまで最も時間を要するのが、ここ母島。
そういう意味では、日本一遠い島へ、やっとと言うか、いよいよと言うか・・・・・・
とにかくとにかく上陸なのだ。

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