フロントライン(2003夏・小笠原)その10(携帯版)


小港海岸。
小さな入江の奥にある幅広いビーチで、真っ白な砂浜は奥行きも深く、父島で一番大きい砂浜だという名に恥じない。
ビーチの両端は岩場になっていて、シュノーケリングポイントとしてもイケてそうなのが嬉しい。
こんなビーチが伊豆か外房あたりにあったなら、ビーチサイドにリゾートホテルが50軒くらい建っちゃうに違いなく、それはそれでオゾマシくなりそうだ。
しかし実際は、両端に東屋が一軒ずつと、小さな売店が一軒しかないから合格である。

浮き輪にはめ込んだコゾーを海に漬けたり、夫婦交代制でシュノーケリングを楽しんだり、その合間合間に生ビール。
シヤワセなのだ。快適なのだ。


東屋で飲んだくれオヤジと化していると、十数人の女子高生風の集団が現れて、目の前で次々と水着に着替え始める。
もちろん、あらかじめ水着を着ていて、その上に着てきた服を脱いでいるだけなのだけれど、ビールのツマミとしては申し分のない光景なのだ。
会話の内容から推測すると、どうやら地元のオネェチャンと、父島に帰省してきたオトモダチとの混合部隊らしい。
しかし、オネェチャンどもは
「なにこれ?何で今日はこんなにビーチが混んでるの?」
なんて驚きあっているけれど、これで「混んでる」なんて言われたら、コッチが驚かなければならない。
将来的にオネェチャンが10人ずつコドモを生み、さらにダンナの甥っ子姪っ子を20人ずつ連れてくれば、さすがに我々も「混んでいる」と認めざるを得ないだろうけれど。

しかし、あきらかに東屋は混んでしまった。
その女子高生軍団に占拠された形で、もうキャバクラか水着パブかという状態になってしまったのだ。
もし自分一人なら、あまりの場違いな居辛さに、ソッコーで炎天下の砂浜に逃げ出さねばならないのだろう。
しかし、コッチにはオコチャマという免罪符がある。
「ホラッ、もう少し休んでから遊ぼうね」
などと聞こえよがしにホザきながら、居住権を主張したりするのだった。


二見港界隈の夜はニギヤカだ。
感じの良い居酒屋が何軒もあり、どこも大盛況なのだ。
海を50キロほど隔てただけの母島との格差にオドロキながらも、とにかくンマいモノを食おうではないか。

父島ならではの食い物として有名なのはウミガメしかないのだけれど、コレはもう懲りたのでヤメなのだ。
島寿司は八丈島あたりでも食えるとかで、小笠原独特の食い物ではないけれど、美味いから食う。
あとは「郷土料理」というよりも、「その店が考え出した個性的なメニュー」が並び、ヘンに地域性に拘らなければウマい事には違いないので食いまくる。
もちろんビールはオリオンの生なのだ。
そしたら、ひそやかな特産の逸品があった。
それはシカクマメという豆で、このテンプラがメチャメチャうまい。
なんでもこれは、母島の特産なのだそうだ。
ああ、懐かしの母島よ。
おそらくキミは今ごろ、ひっそりと暗闇に包まれているに違いない。

ほろ酔い気分で店を出れば、メインストリートに並ぶ土産物屋が軒並み営業中で、それらを覗いて回るのも気分が良い。
その名も「お祭り広場」といふ広場の方が何やらニギニギしく、散歩がてらブラブラと行ってみる。
宿に張ってあったポスターに「明日の夜に盆踊り大会がある」と書かれていたけれど、もしかしたら今日の間違いだったのかしらん・・・・
間違えではなかった。
でも、ちょっとヘンなのだ。
灯りが煌々と照らされる中で、盆踊りの櫓とか露天の準備に勤しむ人々、タイコなどのリハーサルをしてる人々。
ここまではヘンではないのだけれど、それを取り巻くように、見物人の人垣が出来ているのだ。
何だかんだ言っても、観光客にとって、父島の夜はヒマなのであろうか。
あるいは島の人にとって、たとえ準備でも一大イベントなのだろうか。
いずれにしても、なんだかイゴコチの良い、まさに村祭りのノリのニギニギしさなのだ。


しかし、その後がヒドかった。
深夜になろうとしているのに、一向に外が静まらない。
港の方で、先ほどのお祭り広場の賑わいとは全く異なる、歌舞伎町コマ前広場のノリの大騒ぎが展開されているのだ。
怪しげな叫び声、オネェチャンの下品な笑い声、今や懐かしの「イッキ」コール・・・・
宿の窓からは姿が見えないのだけれど、20人は騒いでいるに違いない。
全員がグループなのか、あるいは少人数が自然に集結した連邦制の宴会なのだか。
まあ、
「キサマらもキャンプツーリングで同じことをやってるぢゃないか」
と言われれば否定は出来ないけれど・・・・・・
とにかく街中ではヤメなさい。

バトルロイヤル式と言うかサドンテス式と言うか、徐々に人数が減って、まったく声がしなくなったのは夜明け前。
父島だって、いつもこんな事は無いのだろうけれど・・・・・・・
ああ、母島よ、キミの静寂が懐かしい。


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