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プチ離島の昼と夜(2006秋・志摩諸島)その3


南国リゾートみたいなWKN園地

日没と共に、じわりじわりと見えてきたWKN島の正体。
口火を切ったのは、我らが部屋の窓から真下に見下ろせる、船着場の光景だった。
相変わらず忙しなく運行している渡船から降りてくるのが、オネェチャンばかりになったのだ。
それなりにケバい格好をしていて、手にしているのはハンドバックひとつ。
とても旅行客の姿とは思えない。
「おいっ!!なんだか様子が変わってきたぞ!」
「どれどれ? アタシも見る!」
2人して窓にヘバりつき、怪しげなチャイナドレスやらヘンな和服やらまで混じった下船客を眺めていると、ノックの音が。
「お食事をお持ちしました」
慌てて窓際のソファーに座り、何事も無かったように
「どうぞぉ。いやぁ、クツロげますなぁ」
などと、健全宿泊客のフリをする。

運び込まれてきたのは、予想を上回るゴージャスな海鮮料理。
「いやぁ、さすが海の幸の島ですなぁ。楽しみにして来た甲斐がありますよぉ!」
仲居さんに本来の目的が「オゾマシさ探訪」である事を悟られまいと、ミエミエのセリフをホザきながらもチラチラと窓の外に目をやったりする。
「アラ、ありがとうございます。お飲み物はビールで宜しいですか?お酒もお持ちしましょうか?」
「それじゃ、冷酒などを・・・・・」
「冷酒ですか。それならばソチラの冷蔵庫の中に入ってますので、ご自由にどうぞ。それじゃ、ごゆっくり・・・」
仲居さんが立ち去った後、冷蔵庫を開けてみる。
冷酒の他にも、ビールやら缶チューハイやらカクテル類やら、そしてジュース類も豊富に納められていた。
う〜む。このへんはフツーの観光ホテルと同じなんだけどなぁ。
明らかに違うのは、やたらめったら、マムシドリンクも豊富だったのだ。

渡船の客が怪しげに・・・

フツーだったら、おもいっきり飲み食いしてゴロ寝してしまうシュチュエーションだ。
なにしろ部屋食だし。
しかし、今宵のワタクシは少し、いや、大いに違う。
酒も程ほどに、この島の夜の状況視察を行わなければならないのだ。
メシを食い終わって、再び窓にヘバりつくと、船から降りてくる客層が変わっていた。
ケバいオネェチャンは見当たらなくなり、待ちに待ったという感じの、ぎらぎらオヤジが次々と登場してきたのだ。
みな怪しげな笑みを浮かべ、荷物らしい荷物など誰も持っていない。
思わず、部屋から廊下に出てみる。
廊下側の窓からは、メインストリートがズバリと見下ろせるのだ。

おおっ! WKN公式認定第1号の姿!
いきなり開いたスナックのドアから、イイ感じになった浴衣オヤヂと、ソレモノのオネェチャンが腕を組んで出てきたぞぉ!
そして寄り添いながら、細い路地に消えていった。
アッチは確か、アパートがウジャウジャと並んでいる方向だ。
そうか。あのアパートには、そういう意味があったのか。
そんな事に感心しているうちに、また一組、さらに一組、次々とアパート方向に浴衣オヤヂとミニスカのペアが向かっていく。

これは、こんな所でデバガメまがいな事をしている場合ではない。
堂々と、メインストリートに繰り出してやろうではないか。
とは言うものの・・・・・
オトォチャンに何かのマチガイが起こって、平和な家庭にヒビがはいってしまうのは困る。
そうだ! オコチャマの手を引いて、タバコでも買いに行くフリをする作戦でいこう。
「ちょっと待って、アタシも行く! アンタだけ偵察に行くなんてズルい!」
そんな訳で、家族3人ゾロゾロと、不自然な買い物に出る事になった。

イチオウ、こういう規則です。はい。

何かしらの調査を行う場合には、気をつけなければならないポイントがある。
それは、先入観に捕らわれてはいけないという事だ。
「こうあって欲しい」
という結果重視の視点だけでモノを見ると、ついつい期待する方向に解釈してしまい、客観的な事実を見失う事になる。
UFOやら超常現象やらのトンデモ系の信仰者は、そんなタグイのヤカラばかりなのだ。
そういう意味では、必ず否定的な解釈も持ち合わせなければならない。
そんな事をココロに刻みながらエレベーターホールに向かうと、夕食後の食器類をワゴンに乗せて運んでいる従業員のオネェチャンの姿が見えた。
そこへフラっと現れた浴衣オヤジが、オネェチャンに囁く。
「ねぇ、女の子をヨロシクね」
「はい。判りました」
うおぉ! WKN公式認定第2号!
いやいや、そんなに慌てて決め付けてしまっては、前記のノーガキがウソになってしまう。
例えば・・・・
実はオネェチャンは妊娠中で、それを知っている常連客の浴衣オヤジが、生まれてくる子供の性別の事を言ったのかもしれない。
極めてムリがある仮説だけれど、とにかく慎重に考えなければイケんのだ。

外に出ると、またまた浴衣オヤヂ&ミニスカのペアが視界に飛び込んできた。
う・う〜む。
アレは、飲み屋の客とネェチャンが、温泉卓球か射的、もしくはスマートボールなどをしに行くところかもしれない。
信州の渋温泉じゃあるまいし、そのようなモノがココには存在しない事は確認済みではあるけれど・・・・

ソソクサと自販機でタバコを買い、路地をひとつ遠回りしてメインストリートに戻ると、角に突っ立っていたオババが話しかけてきた。
「ボーヤ、猫ちゃんを貸してやろうか?暖かいよぉ」
オババの足元には、ネコがうずくまっていた。
このオババ、夕方に我々がホテルに戻ってくる時も、確かココに立っていたのだ。
あれからずっと、ココに居たのかい? 何の為に? まさかネコを貸す相手を探して?
そんな訳はあるまい。
よくよく見ると、このオババ以外にも、アチコチの角にオババが立っていて、みんなオソロイの白いコンビニ袋を手にしている。
オババどもの目的は、いったい何なのか?
いや、極めて高い確率で正解であろう想像はつく。
でも決め付けてはイケんのだ。
この島の流行で、みんなネコを貸すために立っている可能性だってある。
島のアチコチに「歩きタバコ禁止」とか「犬の放し飼い禁止」なんて張り紙」が目に付くのも、ネコちゃんの為かもしれないのだ。

とにかく今の家族3人体制では、実態調査の限界が見えてきた。
ここで遂に、「オトォチャン泳がせ作戦」を決行するしかない。
ワタクシが1人でプラプラと歩き、オトリアユとなってエモノを誘き出そうという作戦なのだ。
イザと言う時には、10メートル後方から追跡している朱蘭さまとオコチャマが救助してくれる段取りになっている。
「よっしゃぁ! いくぞぉ!」
ココロの中で叫んで身を引き締め、1人で歩き出すや否や・・・・
さっそく、小走りにオババがニジリ寄ってきた。
「オニィチャン、#$%&’‘@▼■×)‘>●<、 どう?」
うげげげげげ!
ス・ストレートすぎるぅ! とても活字に出来ないよう!
ズバっと直球勝負で攻められてしまっては、否定的な解釈もヘッタクレもない。
WKN公式認定ぃぃぃぃぃぃぃ!!
島の正体、この目で確認したりぃぃぃぃ!!

思わず桟橋のほうに逃げ込むと、ソコにもコンビニ袋オババが待っていた。
「オニィチャン、#$%&’@▼■×)‘>●<!!」
うひゃぁ、こんどはそういう攻めかい!!
ホテルに逃げ戻るために反対側の路地からメインストリートに出ると、新たなオババが仁王立ち。
「アンタ、行く店は決ったの?」
オババはムッとした顔で、問い詰めるように聞いてきた。
「いいや、ゴニョゴニョゴニョ・・・」
「どこに行っても同じだよ!! いいからアタシに付いてきな!!」
「そ・そりは、ゴニョゴニョゴニョ・・・」
妻子の救助を待つまでも無く、オババの
「どこに泊まってるんだい?」
という叫びを背に、とにかくホテルのロビーに逃げ込むと・・・・・
ロビーのソファーには、イカニモな衣装のオネェチャンが数名、人待ち顔で座り込んでいる。
ミニスカなのに大また開きで座ってるネェチャンもいて、あれは日本人じゃないに違いない。
そしてエレベーターから降りてくる浴衣オヤヂどもと共に、次々とホテルを後にしていった。
やっぱし、ホテルもグルぢゃないか!
何という島じゃぁ!!
女コドモの夜の一人歩きはキケンだと言われるけれど、ココではオトォチャンの一人歩きが極めてキケンではないか!!

でも、お出迎えの人    そして、お出迎えされる人・・・


我が部屋に戻り、とにかくオトォチャンは安全地帯に待避できた。
あとは、再び窓にヘバりついて外を観察する。
9時を過ぎた頃から、島を離れるオネェチャンがポツポツと見かけられた。
夕暮れ時に上陸したオネェチャン集団の中でも、チャイナドレスなどの極めてケバい連中だ。
おそらく彼女らは、純正の宴会コンパニオンなのだろう。
入れ替わるように上陸してくるのは、ぎらぎらオヤジの集団だった。
先程よりも明らかに人数が増え、一隻の渡船から最低10人単位で降りてくる。
対岸の桟橋付近にはバスの灯りが何台も見え、ぎらぎら集団の補給はカンペキらしい。
そしてコチラの桟橋に船が着くと、さっそくニジリ寄るコンビニ袋オババ。

コンビニ袋を持たず、オババという程でもないオバチャンが船を出迎えてるケースもあった。
コギレイな格好からすると、アレはスナックかなんかのママさんだろうか。
馴染み客とか、事前予約の客を迎えに来たのだろう。
そういう船には、コンビニ袋オババは決して近づかない。
なるほど。
店ルート、オババルート、それぞれが存在する訳だな。
もしかしたら、ホテルルートってのも別にあるのかもしれない。
いや、ホテルは間に入って斡旋するだけで、結局は店かオババに分かれるのかもしれない。
実際、このホテル内で宿泊以外の業務が行われている形跡は全く無かった。
とにもかくにも、そんな怪しげな出迎え劇は、夜半を過ぎまで延々と繰り広げられていた。


やはりWKN島は、正真正銘の「そういう島」だったのだ。
そういうオネェチャン達は、島のアパートに住む人と島外から通ってくる人とがいるらしい。
アパート組は自分の部屋で、島外組はビジネスホテルで、そういうシゴトをするらしい。
明るいうちに「わくわくランド」なる、アーチ式の看板が掛けられた建物を見掛けていた。
どうみてもコドモが楽しめそうな雰囲気は無く、フツーのアパートにしか見えなかったけれど、今から思えばオッサンがワクワクするランドだったに違いない。
とにかく、そういう島なのだ。
シマダスのデータを見ても、なんとなくソレは判る。
答志島とWKN島、似たような地域にある島だけれど、第三次産業従事者の割合が際立って違う。
答志島・・・・38%
WKN島・・・・94%
しかし、島のアパートでひっそりと暮らすインターナショナルなオネェチャン達は、おそらく上の数字には含まれていないだろう。

何にワクワク? ココは「わくわくランド」

この島は江戸時代から、船の風待ち港として栄えた歴史があるらしい。
船乗りは、そういう事が大好きなのだそうで、それに答えるオネェチャンが集まり、こういう島が誕生したのだそうな。
いまだにそういう事が続いている理由の一つが、ココが島であるからだと言われている。
島にとって好ましくない人物が上陸しようとすれば、本土側桟橋からソッコーで島に連絡され、そして上陸する頃には証拠は隠滅。
オババどものコンビニ袋には携帯電話が入っていて、非常連絡網もあるらしい。
どこまでホントか判らないけれど、アチコチで盗聴も行われているとの説まで聞いた。

反面、そういう島からの脱却を試みている事も事実な様だ。
志摩スペイン村を訪れる観光客の宿泊受入先としてのPRも盛んに行われている。
我々が泊まったホテルでも、近くで開催されるプロゴルフツアー観戦とセットになった格安宿泊プランのポスターを見た。
もっともコチラは、ゴルフ観戦を口実にしたオヤジがグフフな思いをしに来るだけかもしれないけれど。

一夜明ければ、健全な桟橋に

快晴の朝。
穏やかな海は秋の日差しに照らされ、キラキラと輝きに満ちていた。
帰りの船を待つ家族連れやグループ客は、眩そうに海を見つめている。
あのギラギラオヤジどもの姿は全く見えず、夕べのオドロオドロしさがウソのようだ。
船に乗り込む観光客、それを見送る宿の人、お互いにいつまでも手を振りあっている。
まるでフツーの離島で繰り広げられる、別れのシーンそのままなのだ。

殆ど最後の客となった我々も桟橋に向かおうとすると、きちんと仲居さんが見送りに付いてきた。
そして船を待つ間も
「家族で写真撮りますか? シャッター押しますよ」
などと、サービス満点だ。

トレーナーと短パン姿のオネーチャンが二人、岸壁の向こう側から走ってきた。
首にタオルを巻き、素朴な雰囲気ながらもなんだか健康的なオネェチャン達だった。
「おはようございまぁす」
「あら、おはよう。今日もガンバッてるわねぇ」
仲居さんと笑顔で挨拶を交わし、そして南欧モドキのビーチのほうに消えていった。
「あの二人、ああやって毎日走ってるのよ。ダイエットなんだって」
「へぇ、そうなんですか」
「一人はオデブちゃんだけど、もう一人はフツーなのにね」
「そうですか? そんなオデブちゃんって程でもないですよ」
ここで、ハッと気がついた。
おデブちゃんと言われたほうのオネェチャンに見覚えがあったのだ。
昨夜、ワタクシがホテルのロビーに逃げ込んだとき、ソコで大また開きで座ってたオネェチャンに違いない。
この島の光と影は互いに融和し、表裏一体となって島を支えている実態を見せてくれた出来事だった。


夜に余計な調査を行いさえしなければ、全く健全なリゾート気分を味あわせてくれたWKN島。
どちらの道に進む事がWKN島の明るい未来に繋がるのか、もう考えるのもやめよう。
それは、この島が決める事なのだから。

さらば、WKN島。たぶん、もう来ない

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