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プチ離島の昼と夜(2006秋・志摩諸島)その2


海の向こうはWKN島

WKN島

鳥羽港から再びクルマに乗り、いよいよWKN島への移動を開始する。
今朝方、観光協会経由で予約した宿は、少しばかり高めの観光ホテルだった。
もうソコしか空いていないとのことで選択の余地は無く、とにかくデンワで指示された船着場を目指す。
風が強かったとはいえ、暖かな日差しに包まれていた答志島。
クルマで1時間も掛からない位置にあるWKN島も、同じような陽気に違いない。
しかし、この島を訪れる人々にとって、天候なんて関係あるのだろうか。
ヘンな言い方をすれば、インドア系の島なのだろうから。
フシギなもので、交差点を曲がる度に、同じ方向に向かうクルマが皆スケベェなクルマに見えてくる。
要するにWKN島とは、そういう島である事が、ネット検索すればオゾマシい程に思い知らされるのだ。


「そういう島、ソコにしか無いんでしょ? 行こうよ行こうよ! 」
「で・でも、コドモを連れて行くにはイロイロとモンダイがあるんじゃないかなぁ?」
「ダイジョーブ! まだ5歳だから何も判らないわよ。今のうちだからこそ、そういう島に行くチャンスでしょ?」
そんな会話の結果、妻子連れで、モンダイのWKN島を訪れる事になったのだ。
最も、ネットから得られる情報が全て真実であると言う訳ではなく、ウソや誇張も少なくないだろう。
なにしろオゾマシい情報は、当然ながら個人サイトばかりなのだから。
そういう事実はあったとしても、今や健全なリゾートアイランドに変貌している可能性だってあるのだ。
だからこそ、この目で確認しなければならない。
第三者から調査依頼を受けた訳では無いので、オキラクな物見裕山ではあるけれど。
本心を言えば、そういう島であって欲しいような・・・・・・・・

本土側の桟橋
桟橋の横に公衆便所のような待合室がポツンと建っていて、そこがWKN島に向かう船着場だった。
宿・ホテルごとに用意された駐車場の中でも、我がホテルの駐車場は最もナイスなロケーションで、まさに桟橋サイド。
目の前にデーンと構えるWKN島までの距離は数百メートルほどで、島側の桟橋、そしてそれを取り巻くように立ち並ぶホテルが、手にとるように近く眺められる。
そして双方の桟橋の間を、数隻の渡船が忙しなく行き来していた。
ココに着いた時点でオコチャマが寝入ってしまっていたので、少しのあいだ、そんな光景を駐車場から眺めて過ごす事にする。
見ていると、ひっきりなしに接岸する渡船は、誰でも乗っていいという訳ではなさそうで、客を選んで乗せている。
これはナニ? 我々は、どの船に乗ればイイの?
ホテルにデンワして聞いてみると、何の事は無く、それぞれの渡船と契約している宿泊施設の客だけを乗せているとのことだった。
「お客さんは○○丸に乗ってくださいね。桟橋まで迎えに行きますから、乗るときに連絡くださいな」
そんな中も次々と現れる観光客の姿に、激しくオドロいた。
船の中に吸い込まれていく客層が、全く想像と違っていたのだ。
若いカップル、それなりな年齢のカップル、中高年のオバちゃんのグループ、そしてコドモを連れた家族・・・・・
なんとなく予想していた、ぎらぎらオヤジの集団など、全く見当たらないではないか。
こ・これはいったい、どうなってしまったのだ。
マジで、健全なリゾートアイランドになってしまったのか。

いよいよ・・・・

30分ほどしてオコチャマが目を覚まし、我が家も船に乗る事にする。
指定された渡船を待つ間、さらに訪れてきた客層にも、ギラギラした姿は皆無だった。
「なんかおかしいね」
「うん。ガセネタだったのかしら」
程なくやってきた渡船に乗り込んだのは、我々家族3人の他には1人だけだった。
この1人の客である若いアンチャンが、失望しつつあった我が夫婦に、希望の光を垣間見せてくれた。
ちっとも似合わない大ぶりの黒いサングラスをかけ、妙にオドオドしているのだ。
ソイツは、渡船の船長の
「○○ホテルのお客さんですよね?」
といった問い掛けにも、思わず声が裏返ってしまう始末だった。
「ねぇねぇ、ヤツ、本来のWKN島の客っぽくない?」
「うん。こういう場合、オヤジはギラギラだけど、若い子はオドオドしちゃうモノなのね」

あっというまに到着した桟橋には、紫色の和服を着た仲居さんが待ち構えていて、ホテルまで先導してくれた。
僅か徒歩1分ほどの距離だったけれど、オドオドくんにとっては長い時間に感じられたのかもしれない。
案内された部屋は海に面した広い和室で、本土側の桟橋、そして駐車場に止めた我が家のクルマまでよく見える。
「お食事は、お部屋にお持ちいたします。何時がご都合よろしいでしょか?」
えっ?部屋食なの?
この部屋、このロケーション、そして部屋食ならば、この料金も決して高くないどころか、むしろリーズナブルだ。
朱蘭さまも同じことを感じたらしく
「ねぇ、これならばココがフツーの観光島だったとしても、来た価値があるわよね」
などとノタまう。
う〜む、確かにソレはそうだけど、なんだか福神漬けとラッキョの無いカレーライスみたいで物足りない。
いや、福神漬けとラッキョだけがンマいカレーライスといったほうが正しい。

南欧風を意識してます

まだまだ午後3時を過ぎたばかり。
さっそく島の散歩、いや、調査に出なければならない。
ホテルの前の道がメインストリートらしく、10軒ほどのホテル・旅館、そしてスナック・パブなどで、こじんまりとした繁華街が形成されている。
スナックやパブは、島の規模の割には妙に軒数が多いものの、だからといって直ちに「怪しい」と決め付けるほどの事も無い。
道端の掲示板に「客引きには応じるな」といったタグイの張り紙があり、ウラをカングれば怪しげな客引きが出没すると解釈できる。
ただしコレだって、日本中の繁華街のどこにでもありそうな光景だ。
「う〜ん、なんかフツーだねぇ」

海沿いの道をトボトボと進むと、海水浴場にたどりついた。
コジンマリとした規模ながら、不釣合いなほどコギレイに整備され、おそらく南欧風を意識しているであろう造りに仕上がっていたりする。
もちろん、こんな季節なので人の姿は見えないが、夏場は家族連れで賑わってもフシギではなく思える。
「この島、マジで路線転換しちゃったのかねぇ?」
さらに歩き続けると、今度は『WKN園地』なる所についた。
ちょっと高台にある整備された緑地で、その展望塔からは湾内の眺望が素晴らしい。
しかし、ここにも人の姿は見えない。
続いて現れたコミュニティー公園も、なんだか空しいほどにコギレイで、そして誰もいない。
ナンタラ井戸、カンタラ石、ウンタラ神社など、数少ない島の名所と称するポイントをタラタラ周り、ごくごくフツーの島の風情を味わう結果となった。

こんなモノまでありました  WKN園地。妙にコギレイです

「こんなハズではない。何か、何かシッポを掴んでやる!」
こうなってくると、殆どアラ探しのように、イロイロなモノにケチをつけはじめていた。
「このラーメン屋、妙に席数が少なくてアヤシい!」
「観光の島なのに、ボロいビジネスホテルがあって怪しい!」
「繁華街の周りがアパートだらけで、島民数の割には戸数が多すぎて怪しい!」
「こんな島なのに、妙にアカヌケた島民のオネェチャンが歩いてて怪しい!」

いったん繁華街を抜けたあたりの山道で、女子中学生の集団とすれ違った。
クラブ活動の帰りといった雰囲気で、お揃いのジャージ姿だった。
そうか、この島にも住民のコドモ達がいるんだなぁ。アタリマエといえばアタリマエだけど。
「こんにちわぁ!!」
彼女達は我々に対し、元気いっぱいに声をかけてきた。
「こ・こんにちわ」
五島列島の奈留島の、奈留高校を訪れた時の事を思い出す。
『ユーミン作の校歌』で有名になった、あの奈留高校だ。
学校の敷地内にあるユーミン校歌の石碑の前で記念撮影をしていた我々に、校舎から出てきた女子高生達が、やはり元気いっぱいに挨拶してきたのだ。
その笑顔には、通りすがりの観光客に対して、自分達の学校を誇りに思う気持ちがアリアリと感じられた。
イケンイケン。
WKN島の女子中学生達も、自分達の故郷であるこの島を誇りに感じているのかもしれない。
そんな彼女たちのキモチを踏みにじるようなアラ探しをしてはイケんのだ。

コミュニティー公園。とても健全なスポーツ広場です

スゴスゴとホテルに戻り、オコチャマを連れて展望風呂に入る。
目の前には養殖のクイが立ち並ぶ静かな海、なんともココロ穏やかになる夕闇の光景が広がっていた。
くだらない調査なんて、もうどうでもよくなってきた。
「なんとも具合イイ島ではないか。あとはノンビリと部屋でバンメシ、そしてルービ!」
なにしろ部屋食なのだ。ゴロ寝しながら呑んじゃったってイイのだ。
ココロ優しく脱衣場に戻り、オコチャマに服を着せていると、そこに居合わせた40台くらいのオッサンが声を掛けてきた。
「この島に、子供連れで来て楽しいですか?」
「えっ?」
「だって、何も見るものなんて無いでしょうに」
「・・・・・・・・・」
「いやぁ、ボクはココは初めてなもんで、すっごく楽しみなんすけどね」
な・なにを言うか!
オッサン、そういうグフフな発言をするんじゃない。
なんだかんだ言って、素朴でマジメな風情の島ぢゃないか。
確かに、若干の怪しげな雰囲気は漂っているし、あれだけネットで取り上げられているんだから、少しはグフフな事だってあったのも事実かも知れない。
けれど、こんな程度なら他の島にだってある。
「それは昔の事! アタシ、もう変わったんだから」
そうだ、すっかり改心しちゃった元ヤンキーのオネーチャンみたいな島なのではないだろうか。

しかし、そんな善意の思い込みは、日没と共に否定せざるを得なくなってきた。
それは部屋に戻り、メシを待つ間に何気なく目をやった窓の外で、じわりじわりとオゾマしい実態が始まりつつある事が見て取れたからだ。
この島は、全く改心などしていなかったのだ。


ところが・・・・・

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