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【蒼穹の福音】






































『でも僕はもう一度逢いたいと思った。その気持ちは本当だと思うから…』


























カチ

ピピピピピピピピピピ

目覚まし時計が報われることのない仕事を始めた。

どうせいくら叫んだところでご主人様は目覚めはしない。

どうせならスイッチを切ってただの時計として扱って欲しいものだ。

とはいえ目覚まし時計に選択の自由はない。

無駄とわかっていても決まった時間になれば自分の役目を果たすのみだ。毎朝毎朝いつか寿命の尽きるその日まで…

だがその日、その朝、目覚まし時計にとって…あるいは世界にとっての奇跡が起こった。


























バッ

布団をはねのけ上半身を起こす。

ミーンミーンミーンミーン

外からは相も変わらず蝉の声が聞こえる。

人通りも少ないこの辺りでは他にBGMもない。

「………」

勢い良く起きた割に目はまだ醒めていないのかそのまま動かない。

ピピピピピピピピ

目覚まし時計が鳴り続けている。目覚まし時計なりの喜びの表現だろうか?

「………」

右手で額に触れ目を閉じる。

まだ意識がはっきりしてないのだろうか?

左手がゆっくりと持ち上がり魅力的な胸元に伸びる。

無意識に掴んだ物、その感触にゆっくりと手を開く。

「!?」

その目が驚愕に見開かれる。

手の中には小さな十字架が握られていた。

決して見忘れることのない十字架。だが、それはあのとき確かに…

「何が…どうなってんのよ?」

ミサトはそうつぶやくことしかできなかった。

















【第零話 承前】





















「おっす」

聞き慣れた声に日向マコトは顔を向けた。

「ああシゲルか…」

同僚で親友の青葉シゲルが日向の乗っている移動路面に移ってくる。こんなものを使っていると健康上よろしくないのだがいかんせんこのネルフ本部は広すぎる。

「早いなマコト」

「そういうお前も早いじゃないか?」

時刻は8時20分を回ったところである。二人とも仕事を始めるにはまだ早い時間だ。

「いや、昨日来た作戦本部長だけどさ…」

「ああ…葛木一尉、だったかな?」

「まだどういう人かわからないからさ。とりあえず早めに出勤して様子見しようかと思ってさ」

「どういう人か、ねぇ…まぁ女性なのにこのネルフで作戦本部長をやろうってんだから凄い人なんじゃないか?」

「まあな。軽く噂を集めてみたが、どうやらゲヒルン時代から相当名の知れた人みたいだ」

青葉シゲルは作戦室のオペレータという点で作戦本部所属の日向マコトと同じ職場で働く同僚となった。職務内容や階級、年齢が似通っていることから友人関係に発展したわけだが、本来青葉は副司令の部下であり、作戦本部長の部下である日向とは所属が違う。元々情報部出身であることもあり、かなりの情報通で、日向はその点からも青葉を得難い友人と考えていた。

「へえ、やっぱりなぁ。でもちょっと挨拶しただけだけど…凛々しい人だよな、美人だし」

日向の顔がほころぶ。青葉はやれやれと肩をすくめた。能力的に申し分ない友人ではあるが、こういった面においては一般人と変わりがない。まぁそれはそれでいい所なのだがとりあえず釘を刺しておく。

「それは認めるけど堅物かも知れないぞ?」

「赤城博士みたいにか?」

二人は同時に白衣をまとった金髪の女性を思い浮かべた。

「それは勘弁してほしいな」

「そうだな。一人ならいいけど二人はな」

「美人なんだけどなぁ」

「ま、今日からは本格的に…おい!」

視界に入った人影を認識して姿勢を正す青葉。

「え、あっ!お、おはようございます!」

日向も慌てて背を伸ばすと挨拶をする。

ちょうど反対側の路面を件の葛木一尉がやってきた所だった。

ミサトは移動路面を下りると爽やかな顔で言った。

「おはよう日向君、青葉君。早いのね」

路面を下りると慌てて敬礼する二人。

「いえ、葛木一尉こそ!」

「ま、最初から遅刻するわけにもいかないでしょ?」

「はっ」

「とりあえず私は自分の部屋をちょっと整理してくるわ。その後でミーティングをしたいんだけど、そうね…10時くらいにみんなを1番に集めておいてくれるかしら?」

「了解しました!」

しゃちほこばった二人を見て微笑むミサト。

「ふふ、そんなに肩肘張らなくてもいいわよ」

「は、はい」

そう言われてもなかなか肩の力を抜けない二人。

「よろしければ整理をお手伝いしましょうか?」

「それに部屋の場所もまだ覚えていらっしゃらないのでは?」

「ありがとう。でも大丈夫よ、覚えてるから。じゃまた後でね」

そう言ってミサトは立ち去る。

後にはほけーっとした男二人が取り残される。

「…もう覚えたんだすごいな」

「…俺何回迷ったかな?」

「…気さくな人だったな」

「…ああやっぱり美人だ」

「「…天は二物を与えるんだなぁ」」

そのまま二人は発令所に向かう。それぞれの疑問を抱えながら…

(…そういえば俺、初対面だよな?昨日は遠目に見ただけだし…)

(…一番って作戦部の会議室のことだと思うけど俺達がそう呼んでるのどうして知ってるんだろう?)








作戦本部長室。

おそらく昨日に一度は入ったのだろうが、彼女の記憶上で最後に入った時とはまるで別物の部屋だ。まあ当然と言えば当然だが。

資料の類は表紙だけ見て脇にどけていく。ほとんどは読まなくてもいいものだ。

端末を起動してMAGIに接続する。とりあえず現時点で知り得る情報は全て確認しておく必要がある。

西暦2015年。

日付はともかく自分がこのネルフ本部に赴任したということはもうそんなに時間はないはずだ。

自分宛のメールを件名だけ読んでゴミ箱に放り込んでいく。来たばかりだからさして重要なものはないはずだが…ふとマウスを握る手が止まった。

「まいったわねぇ…こっちでもそうなわけ?」

一通のメールを開いてミサトはぼやく。

技術部からの報告書、詳細は今更必要ない。

だが、それはミサトの手札を大きく制約する。

件名は『エヴァンゲリオン零号機起動実験失敗に関する報告書』であった。











葛城ミサト三佐。特務機関ネルフ作戦本部長。西暦2016年、戦略自衛隊によるネルフ本部占拠に対する防衛戦のさなかに死亡。享年29歳。

(…あのまま世界が続いていたらそんな風に言われるんでしょうねぇ)

署名に葛城と書きそうになって慌てて消した後そんな物思いに耽るミサト。改めてペンを取ると葛木ミサトと記す。読みは同じなのであまり意識しないが、この世界とあの世界は違うのだと認識させてくれる数少ない事象だ。









(…そういえばリツコは逆に赤城だったわねぇ…)

「ちょっとミサト聞いてるの?」

少し苛立ちを含んだ声に我に返る。

「あ、ごみんごみん」

「まったく」

やれやれといった風にリツコが肩をすくめた。

「遅刻常習犯だったあなたが着任の翌日から毎朝定時の30分前に来てるって聞いたからとうとうミサトも更生してまともな人間になったのかと思ったけど…相変わらずの様ね」

「悪かったわね!仕事があるから仕方なく来てるだけよ!」

もっとも実際には情報の収集が忙しいだけだ。

通常の業務はもともと一通りやった仕事ばかりなので少々時間を詰めても支障がない。

ただ着任早々徹夜続きだとさすがに変に思われるかも知れないので泣く泣く早朝出勤してるだけなのだ。

(うぅ背に腹は代えられないけど、せめてシンちゃんが起こしてくれればねぇ…)

再び物思いにふけりそうになったミサトだったが自分に向けられている視線に気付いて我に返る。

「あれ、どうかしたのマヤちゃん?」

視線の主にそう尋ねてみた。

「え?あ、い、いえなんでもありません葛木一尉」

あたふたと答える伊吹マヤ。

「そぉ?」

首をかしげるミサト。

(まぁマヤならそう心配することもないと思うけど…)

そんな二人にまわりの技術者達の視線が注がれる。もっともミサトはすぐ隣から様子をうかがっているリツコの視線の方が気になっていた。

ちなみにマヤとしてはリツコとミサトのやりとり…リツコ相手にあんな口を利ける人物に会ったことはない…といきなりマヤちゃんと呼ばれたことに戸惑っているだけなのだが。

「それでエヴァンゲリオンの現在の状況の説明だったっけ?」

ミサトはリツコを促した。

「…ふぅ。まず零号機は起動実験で暴走した際にベークライトで固めてそのまま凍結中。ベークライトを取り除けば使えなくはないけど、肝心のパイロットの方が動かせないわ」

「起動実験を失敗した時の怪我?」

「ええ。命に別状が無いのは何よりだったけど、重傷だから1週間やそこらじゃ動けるようにはならないわ」

「そう…ところでまず零号機は、っていうのは?」

「もう一機、初号機はすぐにでも使えるけど…パイロットが見つかっていないからどうしようもないわ。もっとも見つかったところで動くかどうか。起動する確率は1%を切っているわ」

「頭痛いわねぇ。そんなんでどうやって戦えってのよ」

ミサトは手で顔を覆うとぼやいた。

(…よくもまぁ白々しく。使徒が来るのも間もなくだから…明日か明後日には私にサードチルドレンが見つかったって言うんでしょ?そうしたらシンジ君を…)

手の下で表情が険しさを増していく。

(落ち着きなさいミサト。ミスを犯すわけにはいかない。冷静にいくのよ)

「ふぅ…」

息を吐き出す。

(…そろそろ動かなきゃいけないわね)

ミサトの脳は作戦に向けて動き出している。

戦略・戦術を立てるのに必要なのは情報だ。

だが、かつてのミサトにはその情報が圧倒的に不足していた。敵である使徒も、味方であるエヴァそしてネルフの…

ただでさえ不利な状況で情報まで不足して勝てと言うのは無茶な話だ。

だが前回はともかく今回のミサトには情報がある。

ミサトの頭脳が本来の力を発揮するのに十分なだけの情報が。

(…さぁて始めましょうかねぇ)

「あーあ、憂鬱ねぇ、こういう時は……そうだリツコ、久しぶりに飲まない?よく考えたらこっち来てから一度も飲んでないじゃない」

今度はリツコが手で目を覆う。

「あなたねぇ…まだ勤務時間よ、わかってるの?」

「いいじゃない、もうじき定時だし。たまには早く帰りなさいよ」

「はぁ、まったく相変わらずミサトはミサトね。まぁ生真面目なあなたを見るのも気味悪いけど」

「なによそれ」

「ふぅ、まぁいいわ。たまには早く帰るのもいいでしょう」

「そうこなくっちゃ!ねぇ、マヤちゃんも一緒にどう?」

「え!?あ、いえ、私は、その、せっかく久しぶりなんでしたら、またの機会ということで…」

慌てて断るマヤ。リツコと飲むのがおそれ多いのか、ミサトと飲むのが怖いのか、どちらなのかは謎だ。

「そぉ?じゃまた今度ね」

ミサトとしてはマヤが断ることを見越した上で誘ったので全然構わない。





「へぇ結構いい所にすんでるじゃない」

「あなたの所とたいして変わらないはずよ。とりあえず上がって」

そう言うとリツコは靴を脱いで上がる。

「何してるの、上がったら?」

「あぁごめんちょっと踵が引っかかっちゃって…とりあえずこれお願い」

「もうなにやってるのよ」

そういいつつもリツコはミサトからつまみとビールの袋を受け取ると台所に向かおうとした。

「ねぇリツコ」

「なに……!?」

玄関口を振り返ったリツコは息をのんだ。

真剣な表情のミサトとその手に構えられた拳銃の銃口が彼女をにらんでいた。

「動いたら撃つわ」

ありふれた文句がなぜかとても似合っていた。











EVANGELION AZURE

Neon Episode0: Who was returned?











「…ミサト?」

ミサトは真剣な表情を崩さない。

「言っておくけど冗談じゃないわよ」

「………」

「まだるっこしいことは性に合わないから単刀直入に聞くわ。どうするつもり“赤木”リツコ博士」

銃口を微動だにさせずミサトは言い放った。ただし赤木の部分にアクセントを付けて。

「そう…やっぱりね。“葛城”三佐さん」

しばしの間黙り込んだ後リツコは答えた。同じように葛城の部分にアクセントを付けて。





ミサトの言動に違和感は感じていた。もしかしたらと。だが何度かかまをかけて試した時にはミサトは何も知らないそぶりを見せていた。どちらかはっきりしない中途半端な状態。それが逆にリツコの判断を鈍らせていたのだろう。

そしてどちらのミサトであろうとその作戦及び白兵戦能力は変わらないに違いない。研究室ならいざしらずなんの備えも無い状況でミサトと相対して逃げ延びる自信など皆無だ。

(ここは腰を据えて本音で話すしかないわね)

リツコもミサトもお互いが実際には1年余分に生きていること、あるいは生きていたことを確信した。





それでも…どこかしら気が緩んだのかリツコの口元が緩む。それを見たミサトは怪訝そうな表情を僅かに浮かべる。

「何?」

「ふふ…悪いわね。仲間がいると思ったら少し気が抜けちゃったわ。あなたもそうじゃない?」

しばし無言になるミサト。

「…ふぅ。まぁね」

顔と声だけはゆるめて答えるミサト。

「とりあえず物騒な物はしまってくれないかしら?たとえ素手でもあなたに勝てるとは思ってないわ。それになにを目論むにせよお互いまだ死なれては困るはずよ」

「………嫌な性格ね。死んでも治らないなんて」

そう言ってミサトは銃を下ろした。

「本当ね。せめてあなたの料理の腕は治ってて欲しいけど」

「やっぱ殺す」

ミサトはジト目でリツコをにらんだ。







リツコの寝室に場所を移す二人。

「ここなら防諜システムは完璧よ」

そういってリツコはマグカップを差し出す。

「信じてあげるわ」

しばし珈琲を味わう二人。

「それでミサトはどこまで…いいえ、いつ死んだの?」

「ぶっ!」

思わず吹き出すミサト。

「汚いわね…」

「…ほんと悪趣味ね」

ミサトはリツコの差し出したティッシュで口元を拭う。

「悪かったわね」

ふぅ、と一息つくとミサトは胸元からロザリオを取り出す。

「…あたしが死んだのはシンジ君をケイジへ直通のエレベータに送った後よ」

「さすがね。あの状況でもシンジ君を初号機に送り届けるなんて」

ミサトは暗い顔をしてみせる。

「…慰めならいらないわ。……で、アンタは?」

「ターミナルドグマであの人に撃たれたわ」

「…あいかわらずね」

「………」

「…悪かったわ」

「いいのよ…」

再び無言で珈琲を味わう二人。

「それで?」

「それで?」

質問の意味がわからず聞き返すリツコ。

「それから後」

「…サードインパクトね」

「ええ」

プシュッ

「リツコ?」

リツコが先にビールに手を付けたことに驚くミサト。

「さすがに素面じゃ、ちょっとね」

「…あんた変わったわ」

「そうかしら?」

「そう。ま、いいんじゃない」

プシュッ

ミサトもビールを開ける。

「乾杯しよっか」

「何に乾杯するの?」

「そうねぇ、死んでも切れない腐れ縁に」

「本当に嫌ね」

カン

ビールの缶が乾いた音を立てた。





ベッドの脇に缶ビールの空き缶が山と積まれている。サードインパクトについて語る精神力を保つための代償だ。さすがに二人の顔も赤くなってきている。だが、まだまだ話は終わらない。現在時刻午前0時30分。

「…ねぇあんたん家にビールないの?」

上着を脱いでサキイカを口にくわえたミサトが言った。持ち込んだビールは既に空である。

「…生憎とね。確かブランデーならあったと思うけど…」

こちらも同様のリツコ。ただし口にくわえているのは煙草だ。灰皿には吸い殻が山盛りになっている。

「なんでもいいわよこの際」

「もったいないわね、結構いいお酒なのに。ミサトに飲まれるなんて」

「あんた…」

それからしばらく経ちブランデーの瓶が半分ほど空いた頃リツコが言った。

「…それでこれからどうするつもり?」

「…あんたは?こりずに碇司令に尽くすつもり?」

「…そうね。正直、まだ迷っているわ」

「………」

「ロジックじゃないのよ、男と女は」

「…まぁね」

「とはいえさすがに無条件にとはいかないわね。今度はそれなりに努力してみるつもりよ」

「何を努力するんだか…」

「さぁね」

微笑んで見せるリツコ。

…なんだ、立ち直ってるじゃない。

そう思って知らず笑みを浮かべるミサト。

「それであなたは?」

「…知りたかったことは全部知ったわ。だから今度はあの子達…あの子達を…」

「…そうね」





午前3時を回り酒を飲み尽くした二人は再び珈琲を手に作戦会議に入った。

「とりあえずこの世界…前の世界を前世というなら後世とでもいおうかしら」

「どうでもいいわよ」

「この世界が前世と同じ歴史を歩むなら、私とあなたに前世の記憶がある以上対使徒戦においてはかなり有利に事を運べるはずよ」

「そうね。敵の情報がある以上勝算はかなり高い…って言うより負けたらあたしは作戦部長失格ね」

「細かいことは追って決めましょう。問題は私達だけで全てを動かせれるかどうかね」

「どういうこと?」

「いい?技術面では私が、作戦面ではあなたが少なくとも前よりはましな結果を出せるでしょう。でもそれだけでは何も変わらないわ。使徒に勝てるというだけよ。ただ勝つだけでいいなら前世でも同じよ」

「…そうね」

「結局、鍵になるのはあの子達だわ」

「………」

手でグラスを弄ぶミサト。何を考えているかは容易に想像がつく。

「覚悟を決めておきなさいミサト。あの子達は戦わなくてはならないわ。15年前からやり直せるならいざ知らず今の時点ではもう動かしようが無いわ」

「…でも、でもさ!」

駄々をこねるように言うこの親友のことをリツコは嫌いではない。だからリツコは自分の役目を果たす。

「この状況を正確に認識し、その上でどうするかが問題よ」

ビシッとミサトを遮ってリツコが言った。

「…そう、そうね」

リツコの言葉に現状を受け入れようとするミサト。こうだからこそ二人はコンビとしてうまくバランスを取ってやっていけるのだろう。

「もしあの子達が私達と同じように生まれ変わりだったとして、そして前世の記憶があれば協力してくれるとは思うけど」

「…あんなつらい記憶ない方がいいわよ」

ミサトの表情にリツコは話題を変える。

「………ねぇミサト。私とあなたの名字はなぜ前世と違ったのかしら?」

「え?」

なにいきなり変な話してんのよ、という表情を浮かべるミサト。

「思うに前世、私たちと同じ世界を生きた人間を見分ける手段じゃないかと考えてるの」

「そんな単純なわきゃないでしょ」

“単純”と言われて眉間にしわを寄せるリツコ。

「ミ、ミサトに言われたくないわね」

「るさいわね、だいたい外人なんかどうすんのよ?」

「それなら問題無いわ。事の核心に近かった人間は日本人ばかりよ」

「あのね、いくらなんでも無茶苦茶よ」

「サードインパクトがこの異常な事態の引き金になっているのだとすればそんなに無茶な話でもないわ」

「MAGIの判断?」

「私の直感よ」

「直感?」

リツコらしくない言葉だ。

「ちょっとあなたを真似してみたのよ。これまでどおりMAGIはMAGIとしてその判断を重要視するけど、人間の直感というものも大事にしたいと思ったの」

「ふーん」

「現に野生の勘だけで確率をひっくり返している人も居ることだし」

「誰が野生の勘よ!」

そう文句を付けた時点で、はい自分です、と答えたことに気付かないのだろうか?

「とりあえず話を戻しましょう」

「うー」

そのまま協議を続ける二人。

「あーやだやだ。こんなんなら使徒に滅ぼされた方が楽かも」

「なに馬鹿なこと言ってるの」

「だってさぁ」

「まったく同類とわかった途端愚痴ってばかりね。…せめてあなたが前世よりも早い時期にここに来れただけでもよしとすべきよ」

きょとんとした顔をするミサト。

「なによその顔」

「…あんた前向きになったわね」

感心したように答えるミサト。

「ふふふ、なんていうのか楽しみなのよ。これからどうなるのか、本当に同じ事が起こったときに平然と『こんなこともあろうかと』なんて言えたらって思うと」

「…訂正するわ。前より危なくなったんじゃない?」

ひくっと頬を動かすリツコ。

「死んでも治らない誰かさんに言われたくないわね」

「誰が馬鹿よ!?」

「自分で認めてるじゃない!」

「やっぱり殺す!」

「やれるもんならやってみなさい!」

「上等よ!」



結局、二人の口喧嘩は明け方まで続いた。



つづく




予告


歴史は変えることはできないのか

運命とは定められたものなのか

死海文書の記述通り

使徒―天使の名を持つ人類の敵が現れる

そしてもう一人

時同じくして第三新東京市を訪れる両者は

等しく運命に翻弄される存在なのだろうか



次回、蒼穹の福音

第壱話 使徒襲来、そして…

みんなで見てね!



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