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【蒼穹の福音】





























<第一次直上会戦>

「最終安全装置解除。エヴァ初号機リフトオン!!」

ガコン、と音を立てて全てのくびきから放たれるエヴァンゲリオン初号機。

リツコはマイクを取るとシンジに話し掛けた。

「いいシンジ君?今は歩くことだけを考えて」

(こんな馬鹿な指示もないわね)

言いながら自嘲するリツコ。文字通り敵の目の前に赤ん坊を放り出して立って歩く練習をさせているようなものだ。ましてシンジがリツコやミサトと同じ存在なら余計なお世話としか思えない。だいたいいくら初号機の暴走による使徒の殲滅を狙っているとしてももう少し出現位置を…そこでリツコは思考を打ち切った。シンジの反応が無いことに気づいたのだ。

「…シンジ君?」

「ちょっとどうしたの?」

同じ事に気づいたらしいミサト。

「パイロットの状態は?」

「問題ありません」

そう答える青葉の手元の表示は確かに正常である。

「シンジ君!?」






これは夢なんだろうか?

そう思ったりもしたけどどうやら現実らしい。

でもたとえ夢だとしても構わない。

僕はもう一度これに乗ることを決めた。

自分の意志で。

だから…


『シンジ君!?』

「はいっ!?」


ミサトの大声で我に返るシンジ。



ほっと胸をなでおろすミサト。

「ちょっとぉシンジ君?返事が無いから心配しちゃったじゃない!」

『す、すみません!ちょっと考え事をしてて…』

「もうしっかりしてよね」

『ご、ごめんなさい』

プラグ内で小さくなるシンジ。

「ミサト」

「はいはい」

リツコの声で引っ込むミサト。リツコは気を取り直して指示を出す。

「…シンジ君とりあえず歩い…」

「シンクロ率上昇!」

「なんですって?」

「45、50、55、依然上昇止まりません!」

「………」

「やっぱりね…」

視線を交わすリツコとミサト。

「シンクロ率87.1%で安定、パルスハーモニクスも安定しています」

「目標に反応!」

『!』

「シンジ君!」
















ミーンミンミンミン

「またここか…」

シンジの視線の先に見慣れた天井が映っていた。

「…どこからどこまでが夢なんだろう?」








【第弐話 前奏曲の終わり】














ガチャ…バタン

ミサトは特殊車両の運転席に入ると防護服を脱いでインナー姿になった。

「はあ〜やっぱ、クーラーは人類の至宝。まさに科学の勝利ね」

「あなた前も同じようなこと言ってたわね」

奥の座席に座っていたリツコが受話器を置きながら言った。

「なによぉ」

「ま、その件に関しては同感だわ」

そう言いながら携帯端末のデータを見ているリツコ。その手前の小型モニターには記者会見らしき放送が映っている。

「…シナリオはまたB−22か。まぁ今日は見たい番組もないから別にいいけどさ」

「真実はまたも闇の中。もっとも真相を知ったところでどうということもないでしょうけど…」

そこでふと手を止めるリツコ。

「どったの?」

「…誰もいなくなったら街が静かになっていいかも知れないわね」

「あんたねぇ」

ミサトの剣呑な視線から逃れるように話題を変えるリツコ。

「そうそうシンジ君さっき起きたそうよ」

「具合は?」

「良く寝たから大丈夫よ。少しくらいストレスが残っているかもしれないわね」

「少し、の、ストレス、くらい、ならいいけどね」

一言一言区切って言うミサト。

リツコはミサトに視線を向けた。

「…行くの?」

「ええ」

「…言わないほうがいいかも知れないわよ?」

「今ん所は様子を見るつもり。でも結局の所、言っても言わなくてもどうなるかわかんないなら言ったほうがいいわ。ま、なんとかなるわよ」

「相変わらず楽天的ね」

「言ったでしょ?希望的観測は人が生きるための必需品だって」

「そうね。あなたのそういう所やっぱり助かるわ」






<ネルフ内病院>




シンジは着替えると病室を出た。

もともと休養を取る為の入院だったのでこれといった問題もなく退院を許可された。

窓からジオフロントが見えた。

何とはなしに立ちつくすシンジ。


カラカラカラカラカラ

聞き覚えのある台車の音に振り返るシンジ。

医師と看護婦に付き添われベッドが移送されてくる。

「………」

シンジはそこに立ち止まったままベッドの上の患者を見つめた。

「………」

何も見ていない紅い瞳。

ただ目の前に天井があるからそちらを向いているといった感じだ。

(…綾波…)

心の中で呟くシンジ。

「?」

その瞬間、レイの目がシンジを捉えた。

「あ…」

何か言おうと口を開いたシンジの前をベッドが通り過ぎていく。

「……………綾波」





<ロビー>



「待った?」

「いえ。早かったですねミサトさん」

「どういう意味?」

「あ、いえ、深い意味は…」

「ま、いっけどさ」

ぎこちないがそれでも笑みをもらすシンジにほっとするミサト。





<エレベータホール>



じっとエレベータを待つ二人。

「あれ?」

「ミサトさん?」

「なにか忘れてるような…なんだっけ?」

そこへちょうどエレベータが到着した。

チーン

プシュー

「「!?」」

息をのむ二人。

(…そういえばそうだったわね、うかつだったわ)

(…父さん)

ゲンドウはエレベータの中で立ちつくしたままシンジに視線を注いでいる。

(作者注。以下シ…シンジ、ゲ…ゲンドウ、ミ…ミサト)

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

(…どうしよどうしよ)

ただ視線を向け合う父子を前に途方に暮れるミサト。

シ「…父さん」

ゲ「…何だ?」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「…その、ここで下りるんじゃないの?」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「…ああ」

ミ「!?」

ガッ!!

ゲンドウの答えを聞いて慌てて手を出し、閉まりかけた扉を押さえるミサト。

(とほほ、あたしいったいなにやってんの)

うるるるるる〜と心の中で涙を流すミサト。

シンジが下がるとゲンドウはエレベータを出る。

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

どうしていいかわからずエレベータのドアを押さえつづけるミサト。

(…ああ勘弁して)

ミサトの心を知って知らずか口を開くシンジ。

シ「…父さん」

ゲ「…何だ?」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「…あ…その…お見舞いに来たの?」

ミ「!?」

(なに?なんのこと?)

ゲ「………」

シ「………」

ゲ「…だとしたらどうする?」

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「…父さんは…母さんの言葉…覚えてる?」

ゲ「………」

ミ「………」

(なに、だからなに、なんなのよぉ!?)

シ「………」

ゲ「…ああ」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

(駄目…この沈黙、死んじゃいそう)

何年も失語症を患っていたことのある人間の言葉とは思えないが…それともそれが逆に原因なのだろうか?…本当に死にそうな顔をするミサト。

シ「…そう」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「…お見舞い…僕も一緒に行っていい?」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「………」

ミ「………」

シ「………」

ゲ「…好きにしろ」

ミ「………」

シ「…うん」

ゲ「………」

話が終わるとシンジはミサトに視線を移す。

ミサトはエレベータの扉からやっと手を放すことができてほっとした所だ。

「ミサトさん」

「え、なに?」

「すみませんがここで待っててもらえますか?」

「わかったわ」






ゲンドウは目的の病室の前に立つとノックもせずに中に入っていった。

ベッドに寝ている患者は二人が来るのがわかっていたのか視線だけを向けた。

枕元の椅子にシンジが座りゲンドウはその横に立つ。

最初に口を開いたのはシンジだった。

「綾波、具合はどう?」

「問題無いわ」

(作者注。以下シ…シンジ、ゲ…ゲンドウ、レ…レイ)

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…綾波は僕のこと知ってる?」

レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「…碇シンジ。マルドゥーク機関の報告書によるサードチルドレン。エヴァンゲリオン初号機パイロット」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…どうして知っているの?」

レ「…え?」

レイはそこで初めて顔を動かしシンジに視線を向けた。

ゲ「………」

シ「…父さんから僕のことを聞いたの?」

シンジの言葉に考え込むレイ。

ややあって自分は誰からもシンジのことについて聞いていないという結論に達する。

レ「…いいえ」

ゲ「………」

シ「じゃあどうして?」

レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「でも、私はあなたを知っている」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…同じなんだね綾波」

レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…僕と」

レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…そして…父さんも」
















EVANGELION AZURE

Neon Episode 2 They know themselves.




















<ロビー>





公衆電話で話しているミサト。

ネルフ内とは言え基本的に病院内は携帯電話の使用が禁じられている。念には念を、だ。

「うんうん、やっぱりそう。で?」

『彼の住居はあなたの家に変更しておいたわ』

「さんきゅリツコ」

『それで、肝心の彼の様子は?』

「それがさぁ…」






<レイの病室>




レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…父さんはこれからどうするの?」

シンジはレイに顔を向けたまま尋ねる。

レ「………」

レイが今度はゲンドウに視線を向ける。

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「…お前はどうするつもりだ?」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…まだ…まだ、わからない。どうしたらいいのか」

レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「…そうか」

シ「………」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…ただ…」

レ「………」

ゲ「………」

シ「…ただ………生きていくつもりだよ」

レ「………」

ゲ「………」

シ「………」

レ「………」

ゲ「…そうか」

シ「…うん」

レ「………」

ゲ「………」








<ロビー>



ゲンドウが現れたのに気づきミサトが立ち上がる。

ゲンドウは気づいた様子もなく歩いていたがミサトの前で歩みを止める。

「…葛木一尉」

「はい」

「…どこまで知っている?」

「!」

一瞬口篭もるミサト。

「…申し訳ありません、御質問の意味がよくわからないのですが」

「………」

自分に視線すら向けずただ立っているだけのゲンドウに異様なまでのプレッシャーを感じるミサト。

思わず逃げ出したくなる衝動に駆られるが懸命にそれに耐える。

「………」

「ふ、まあいい」

ゲンドウはそう言うとその場を立ち去る。

「………」

ゲンドウはふと立ち止まると見送るミサトへ呟くように言った。

「…シンジを頼む」

「はいっ」

ミサトは立ち去るゲンドウに敬礼した。






(ふぅ、生きた心地がしなかったわ)

敬礼をとくと額の汗をハンカチで拭くミサト。

「お待たせしました」

「わっ!…あ、なんだシンジ君か」

いきなり話しかけられて飛び上がったミサトは相手がシンジとわかりどっと脱力する。

「どうかしたんですか?」

「え?ううん、別になんでもないわ。ところで碇司令、お見舞いって誰の?」

「ああ、綾波です」

「…レイ?」

「ええ、僕の同僚だそうですね。同じエヴァンゲリオンのパイロット」

「………」

「ミサトさん?」

ミサトが急に真剣な顔になったので怪訝そうな顔をするシンジ。

「シンジ君。私が聞くのも変だけど、まだエヴァに乗るつもり?」

「………」

「自分で乗せといて言うのもなんだけど命懸けよ?それは十分わかったでしょう?中途半端な気持ちで乗るのはやめなさい。そんなので乗られると逆に迷惑だわ。その位の覚悟しかないのなら今のうちに下りなさい」

「………」

「………」

ミサトの視線を受け止めたシンジははっきりと答えた。

「…いえ、僕は乗ります。エヴァに」

「………」

「………」

「…そう」

ミサトはふっと息を吐き出した。

「………」

「ごめんなさいね、やなこと言っちゃって」

「いえ」

シンジがわずかに浮かべた笑みに救われた気になるミサト。

「じゃ、行きましょっか」

「はい」








<第一次直上会戦>



ドォォォォン!!

間一髪でかがんでかわした初号機の頭上を使徒…サキエルの右腕から伸びた光のパイルが突き通す。直撃を受けたリフトが爆発して四散する。

「シンジ君は!?」

「初号機は健在です!」

低くかがんだ姿勢の初号機はサキエルの左足にローキックを放つ。転倒まではしないが態勢を崩すサキエル。

『だぁぁっ!』

ドゴォッ!

初号機の左フックがサキエルの顔面にまともにヒットする。

ズガガガガガッ!!

小さなビルを巻き込んで盛大に煙をあげて地面に倒れるサキエル。

『はぁはぁはぁ』

荒い息のシンジ。だが、LCLに浸かっているだけあってすぐに呼吸は落ち着く。

「すごい」

発令所の面々が感嘆の声を上げる。動くかどうかさえ危ぶまれていた初号機が使徒と格闘を行っているのである。

「碇、どういうことだ?」

「………」


『!』

ピガッ

ドォォォォォーン!!

使徒の目が光り初号機が光に包まれる。

「初号機は!?」

「え、ATフィールドを展開、損害はありません」

スクリーンに報告通り無事な初号機の姿が現れる。

「再度、使徒とにらみ合いに入りました」

ミサトは険しい表情を浮かべると言った。

「さっきの初号機の動きをシミュレートしてみて。なにか変だわ」

「はい」

にらみ合いを続けるスクリーンの脇にシミュレーション図が表示される。

略図で示されたエヴァ初号機は、光線が発せられる瞬間、腰を落としてその後動きを止めて直撃を受けている。

「光線が発射されるのを察知、左右のいずれかに跳んで避けようとしたようね」

リツコが推測を述べる。

「でもそれを途中で止めた、なぜかしら?」

シンジ本人に聞けばいいのだが、状況はそれを許さない。使徒も初号機も微動だにせずに相手の動きを待っているようだ。

(…光線を避けたらどうなる?ATフィールドの強度にもよるけど今のを見る限り初号機には問題なし。場合によってはカウンターで攻撃できる。…使徒は?ただ無駄に光線を撃っただけ。…その他?兵装ビルはどうせ稼動していない。ほかにあるものと言っても大型のビルは収納されている。小さな建造物はいくつかあるけど、そんなものは気にしても仕方ない…後は……)

ミサトの脳裏にある人物の名前がひらめく。

「日向君!」

「はい?」

「地上の地図を出して、ただしシェルターのある位置にマーキングをして」

「そんなものどうするんです?」

「いいから急いで!」

「わ、わかりました!」

ミサトに怒鳴られるという初めての体験をして慌てて命令に従う日向。

ミサトは構わず次の問題に移る。

「青葉君、地上の住民の避難状況は?」

「全員シェルターへの避難を完了しています」

「一人足りとも数え忘れはない?」

「はい。一人残らず点呼を行い、所在は確認済みです」

「リストは見れるかしら?」

「はい、こちらからどうぞ」

青葉の端末で検索を行うミサト。

ミサトが何をしているのか理解できないリツコがその隣に立つ。

「ミサト?」

「ちょっち確認したいことがあるのよ。さ、し、す…」

やがて目的の人物の氏名が出る。

「ビンゴ。お兄さんも一緒ね」

頷くミサト。そこへちょうど日向の報告が入る。

「地図出せます」

「すぐに初号機のモニターに転送して」

「はい」

ミサトは元の位置に戻るとシンジに呼びかけた。

「シンジ君、返事はいいからそのまま聞いて。今、表示したのが避難シェルターがある位置よ。住民は一人残らずシェルターに避難したのを確認したわ。いい?一人残らず、よ。現在地点なら戦闘してもなんの心配もいらないわ」

今ひとつミサトの行動に合点がいかない様子の発令所の面々。だが、どうやらシンジには伝わったらしい。

『…ありがとうございます』

ズガァッ

答えと同時に初号機がサキエルに殴りかかった。

顔面を殴るつもりだったようだが左肩を捉えるに留まる。カウンターで振り回されたサキエルの右の拳をかろうじてかわす。

カッ

ガァァァン

至近距離で放たれる光線。

衝撃で後方に吹き飛ばされる初号機。

「アンビリカルケーブル断線!エヴァ初号機内蔵電源に切り替わります!」

「光線の余波を受けたのね」

「さすがに電源供給用ビルまではATフィールドで覆ってないものね」

「今後の課題ね。もっとも今後があれば…だけど」

ぶわっと浮くように跳びあがったサキエルが横たわる初号機に真上から降下する。

『くっ!』

転がってそれをかわすと立ち上がって態勢を立て直す初号機。

(…やれやれ、データ不足ね)

(前は暴走した初号機にあっという間にやられたけど、なかなかどうして格闘能力が高いわね)

(おまけに遠距離武器まであるし、単独兵器のいいお手本じゃない)

初号機と格闘を続ける使徒を観察しながらめいめい感想をもらすミサトとリツコ。

「エヴァ初号機活動限界まで残り250秒!」

「プラグナイフ出して!」

「了解!」

初号機の肩部ウェポンラックが開きプログレッシブナイフの柄が出る。

「シンジ君、肩のナイフを使って!」

いわれた通りに柄を握る初号機。引き抜かれたナイフの刃が高速振動を開始し、うっすらと光を放つ。

「時間が無いわシンジ君。詳しく説明してる暇はないけどプラグ内に表示されているカウントダウンが終わったらエヴァは動けなくなるの。その前に使徒の胸にある赤い光球をナイフで破壊して。無茶な注文になるけど…お願い」

『わかりました…なんとかやってみます』

腰を落としてナイフを構える初号機。

『…いくよ』

道路を蹴ると初号機が突進する。

カッ

『!』

ドォォォーン!

光線が放たれるが、初号機はすかさず手近の兵装ビルを蹴って横に跳躍して光線をかわす。そして道路の反対側のビルを蹴り返して元の進路に戻ると突進を続ける。

「盛大に足跡がついたわね」

ちょうどエヴァの足のサイズにくぼんだビルを見るリツコ。

「あれ、うちの?」

合いの手を入れるミサト。もっとも視線は初号機から微動だにしない。

「さぁ?」

サキエルの足元が浮き上がる。跳びあがって初号機の突進をかわそうというのだろう。

『逃すか!』

初号機が左手を返すとそこから放たれたケーブルがサキエルの右脚に巻き付いた。初号機が左手でケーブルを引くとたまらず地面に落下するサキエル。

「アンビリカルケーブル!?」

間違いなく初号機の背中に接続されているアンビリカルケーブルである。

「シンちゃんやる〜」

ひゅぅと口笛を吹きそうになって思いとどまるミサト。

ガン!

体当たりしてサキエルを押し倒す初号機。そのままナイフを振りかぶる。

「目標の右腕に高エネルギー反応!」

「シンジ君!来るわ!右手よ!」

ミサトの叫びと同時にサキエルの右腕が持ち上がると初号機の頭部に狙いを定める。

『だぁぁぁぁっ!!』

バシュッ!

ドォォォォーン!

初号機のナイフがサキエルの右腕を斬り飛ばした直後右腕から光のパイルが突き出しそばのビルを突き通した。

「エヴァ初号機活動限界まで残り200秒!」

報告と同時に初号機がサキエルのコアにナイフを突き立てる。

チュィィィィィーン!

頑強に抵抗するコアとそれを砕こうとするプログレッシブナイフが文字どおり火花を散らす。

「目標左腕に高エネルギー反応!」

「シンジ君!今度は左よ!」

だが初号機は動こうとせずナイフに体重をかける。

「シンジ君!?」

サキエルの左腕が初号機の頭部に向けられる。

「回線は!?」

「正常です!今のも聞こえているはずです!」

ガォン

バキィィン

打ち出されたパイルが初号機の頭部を直撃する。

『がぁぁっ!』

「エヴァ初号機、頭部装甲板に亀裂発生!」

「攻撃の強度からして数回で限界ね」

冷静に報告するリツコ。

「シンジ君!」

ガキィィィン

『くぅぅぅ!』

シンジは答えず一層ナイフに力を込める。

「…そう、わかったわ。ならやってみせてちょうだい」

シンジの意図を悟ったミサトは腕を組み直すと仁王立ちする。

「ミサト?」

「フィードバックを10%カット!シンクロはそのまま!リツコ、両腕のゲインをもっと上げられない!?」

そこでリツコもシンジの考えを理解した。

(肉を斬らせて骨を断つ、か)

思えばシンジがかつて何度も追い込まれた状況だ。むろんそれはリツコやミサトのふがいなさもあったのだが。

「…今からじゃ計算が間に合わないわ」

「ちっ」

「それに…どうやらその必要もなさそうね」

ガキィィン!ガキィィン!バキ!

ガキィィン!ガキィィン!バキバキ!

パイルが打ち込まれる音に混じって何かが砕ける音が大きくなっていく。

「エヴァ初号機活動限界まで残り60秒!」

「頭部装甲板限界です!」

ガキィィィン!

ブシューッ!!

装甲板が砕ける音と同時に盛大に頭部から血液が噴き出す。

そしてプラグの中でシンジが叫んだ。

『がぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!』

バキバキバキバキバキ!

コアが砕ける音が響く。

カッ

ドォォォォォォォォォーン!!

夜の闇を切り裂いて光の十字架が第三新東京市を照らし出した。








「現状報告!」

「目標は完全に消滅。エネルギー反応、パターン青とも検出できません。コアを破壊した際の爆発によるものと思われます」

「エヴァ初号機は内蔵電源が切れたために活動停止。頭部装甲板全損。素体にも損傷がありますが機能中枢までは達してない模様。その他問題はありません。電力供給を再開すれば稼動すると思われます」

「パイロットは意識を失っている模様です。脳波に若干の乱れがありますが身体に異常はありません」

「司令?」

ゲンドウと冬月を振り返るミサト。

「現時刻をもって第一種戦闘態勢を解除。ただちにエヴァ初号機を回収。以後のことは葛木一尉に一任する」

「はっ」


































暗闇の中たった一人のゲンドウ。

「…人類には時間がないのだ………それとも?」

呟くとゲンドウは目を閉じた。




































シンジとミサトは第三新東京市を見渡せる高台に来ていた。

既に夕方の街は赤く染まっている。

"二人"は待っていた。




「あのミサトさん」

「なーにシンジ君」

「あの…どうして僕を?」

「同居のこと?」

「はい」

「うーん、そうねぇ…パイロットを手元に置くことで日頃の動向を監視しパイロットの状態を把握、それを作戦の参考にする」

真剣な表情で答えるミサトに表情を曇らせるシンジ。

「………」

「これが建前」

「え?」

「一人暮らしって結構寂しいのよね。どうせだったら一緒に住んだ方が楽しいじゃない」

そう言うとミサトはにっこり笑った。

「…ミサトさん」

「こっちが本音。あたしって結構寂しがりやなの。シンジ君は?」

「僕は…」

シンジはそこで言葉を切り考え込む。ミサトはじっと答えを待った。

少ししてシンジが答える。

「……僕も寂しがりやです…たぶんみんなよりもずっと…ずっと」

「そ」

街へ視線を戻す二人。

「…私たちって案外似た者同士かもしれないわね」

「…そうですね」

サイレンが第三新東京市に鳴り響く。

「さ、時間よ」

二人の見つめる中、ゆっくりと地面からビルが生えてくる。

「これが使徒迎撃用偽装要塞都市、第三新東京市。私達の街」

「………」

「そして、あなたが守った街よ」

ミサトは心の中で、今度もね、と付け足した。






つづく







予告



再び新たな時を刻みつつある者達

だが再び動き出した時計は

彼等に構うこと無く針を進めていく

そしてその針は

彼等の知る方向に進むとは限らない



次回、蒼穹の福音

第参話 それぞれの秋(とき)





さぁてこの次もサービスしちゃうわよん




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