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最終更新2002年11月27日

読書日記(2002年10/11月)


【読書日記バックナンバー】  2002年7月  2002年8月

新井潤美『階級にとりつかれた人びと〜英国ミドルクラスの生活と意見』中公新書2001年,pp1〜204
 英国は階級社会と言われる。例えば「労働者階級のスポーツであるサッカーの話題は,安易に触れてはいけない」など。実際にはサッカー話は,少なくとも研究者間ではOKだし,会議で討論を始めるときに「Kick Off」と言ったりもする。あえて言えば「称号」にはうるさい。DrMrも厳密に区別する(日本人的にはどうでもいいことだが)。
 本書は,英国の学校で幼少期を送った著者が,自らの体験だけでなく,小説・ドラマなどを題材に19世紀以降の英国人の「階級」意識を解説するもの。アッパーvsミドルの対立,アッパーミドルとロウアーミドルの違い,これを「ミドル」とまとめてしまうことによる階級理解の難しさ,そして英国人自身はそれと気づかないほど階級意識は当たり前であること,などが明らかになる。
 日本人にも馴染みの深いウェルズ『宇宙戦争』や最近流行のハリーポッターにも階級意識がにじみ出ているとの指摘には驚かされた。なんといっても大きいのは,話し方の問題。日本人が「標準語」「関西弁」「XX弁」に抱くのと同じ感覚を英国人は「階級」に対して持つというのだから驚きである。帰国するまでに「階級」を完全には理解できそうにない。
ジョン・マーチン『現代イギリス農業の成立と農政』筑波書房2002年,pp1〜286
 原題は『THE DEVELOPMENT OF MODERN AGRICULTURE』で2000年出版。あとがきで監訳者が書いているように,日本における英国農業の研究が19世紀までの歴史研究は豊富であるものの,20世紀については個別の現状分析はあるが総じて手薄であることが翻訳のきっかけであるようだ。この指摘は確かにその通りであり,自分が英国にいる理由もまさにそこにあるのだが,滞在が残り1年あまりとなった今,英国農業の実態を日本に紹介する作業がいかに大変かを思うと気が遠くなるわけである...
 気を取り直し,本書に戻ると,英国農業および農政の変遷をフォローするには格好の書である。本書に散りばめられているキーワードを丹念に追うだけでかなり勉強になる。翻訳も,近年の農経関係の翻訳本のひどさから比べれば丁寧であるとの印象を受ける。あえて問題点を挙げれば,今更この本を読んでいる自分は4ヶ月間何をしていたのかということである(苦笑)。
神野直彦『地域再生の経済学』中公新書2002年,pp1〜191
 農業・農村研究者として「地域再生」という語に惹かれて読んでみたのだが,その内容は「地方分権(地方自治体に財政自主権を持たせる)」→地域の独自性高まる・地域住民を中心とした草の根運動の発生→地域活性化,という恐ろしいほど単純な内容である。あとがきで,筆者は地方財政の専門家で「地域社会の総合的分析」に関しては素人であると弁明されているが,その通り,地方への財源移譲の方法論については詳しいが,地域再生の戦略みたいなものはない。個人的には,地域再生の難しさはまさに人とか知恵の問題にあると思っているので,地方分権はその前提条件ではあっても,直接の要因にはならないのでは? 税制の仕組みを変えたところで,人口が数千人レベルに落ちている自治体が救えるとは思えないし,万人単位の市町村もどうすれば「再生」できるか,知恵を絞らないといけない。ということで,地方再生を「政策」から見たい人にはお勧め,現場の知恵を知りたい人は別の本を探しましょう。
Matt Reed, Matt Lobley and Andrew Errington "The Contribution of Family Farms to Multifunctional Agriculture", Research Report to for "The Ecologist" Oct. 2002 pp1-66

 「農業・農村の多面的機能」とはよく聞く言葉だが,本レポートは「家族農業経営の多面的農業への貢献」とでも訳せようか。一口に家族経営といっても多種多様であるが,それを分類し,タイプごとの「多面的農業」への貢献度を見ている。家族経営を,次の一歩をまだ踏んでいないIntermediate Farm,規模の経済を追求するScale Producer,高齢農業Senior Farm,ライフスタイル,兼業などの形態をとるEdge Farm,そして範囲の経済をめざすF@rmに分類し,多面的農業は「経済」「環境」「社会」の3点から評価している。ただし,これらは実証しているわけではない(総論的な分析)。昨今の英国農業の動向の中で「農業者の自殺」との項目が当たり前のように入っているのは驚きである。また,英国の農業者が農業政策に頼りすぎたがために自分たちの方向性を自ら定めるパワーを失ってしまったと断じている。農業問題は政策だけでは解決しないというのは日本も同じであろう。だから農業経営学が必要なわけです(手前味噌)。

八木洋憲「混住化地域における集落計画策定とコミュニケーション構造」『農村計画学会誌』21(2),2002年
 後輩の投稿論文から読書日記再開します(笑)。帰りの飛行機で読ませていただきました。
 集落がどのようなコミュニケーション構造の下,いかにして土地利用計画を策定しているか神戸市を事例に分析したもの。集落リーダーアンケート・ヒヤリング調査・策定計画分析の3つの柱からなる。アンケート分析は意外な点もなく,分析手法が強引との感も否めないが(笑),集落自治機能がコミュニケーション構造に依存するという論旨は,組織論的見地からも納得である。ただし,検証方法として,従来の「ツリー型」コミュニケーションの実効力の低下,「クリーク」「全通路型」の実効性向上を指摘しつつ,裏付けデータが「会合参加率」でよいのか,「会合参加」は「ツリー型」のコミュニケーションツールではないのか,という疑問は残る。また,「リーダー」「集落自治」「クリーク」の具体的内容が見えない(筆者自身も指摘しているが)。また,コミュニケーション構造に問題ありとされたH集落の改善方向も不明である。
 ただし「論旨は平易であるべき」という点からは理想的論文であるし,組織論から眺めれば,筆者自身が今後の課題に挙げる「クリークの誘引」も見えてくるのでは。


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