今夜も炎の守護聖さまのお屋敷は賑やかです・・・ん?賑やかなんですけど・・・なんか様子がおかしいですね?
ちょっと、覗いてみましょう。
確かに賑やかなのはいつもの食堂。銀の燭台に綺麗なロウソクの炎を輝いてます。テーブルにはアンジェリーク心づくしの色とりどりの料理が並べられ美味しそうな湯気を立ち上らせています。
いつもと同じような晩さん会らしいんですけど・・・あれ?
オスカー様の様子が変です。
なんか緊張しているような苦虫を噛み潰しているような。
「あ〜、本当にアンジェリークの料理は美味しいですねぇ〜。これでは本職のシェフもかないませんねぇ〜」
「全くだ」
「・・・・同意見だな」
きらびやかな室内でいっそう輝いている金の髪、流れるような黒髪、外したところを見たことがないターバン頭・・・いわずとしれた年長三人組です。
「まあ、皆様にお世辞でもそんな風に言われてしまうと照れてしまいますわ」
「いいえ〜、お世辞なんかではありませんよ〜。本当においしんですから〜。・・・ああ、アン・ディアナ、そんなに頬張ったら、美人が台無しですよ〜」
『どんなにしたって俺の娘は綺麗でかわいいんだ!!』
オスカー様は不機嫌が態度から吹き出しそうになるのを、必死で耐えていました。
『しかし、なんでルヴァが家に? おまけにジュリアス様、天変地異の前触れか、クラヴィス様』
・・・かなり、頭に血が昇ってるようですね(笑)
無理もありません。
毎日のように来る同期組や年少組の誘いを蹴り倒し、振払い、今日は二週間振りの家族水入らずの団らんの筈でした。おまけに明日は休日。
天使のような可愛い娘と天使のような可愛い妻に囲まれての夕食。その後は、娘と存分に遊び、家族全員で風呂に入り(笑)、その後は妻と・・・(。)の完璧な計画(爆笑)が、速攻帰りがけのルヴァ様の『今日は御招待ありがとうございます。ジュリアスとクラヴィスも楽しみにしてます』の言葉ですっかり霧の彼方へ飛んで行ってしまったのですから。
とは、いっても相手は目上の長老三人組。年中組やお子様たちに対するようなあからさまな態度はとれません。
其れ故にオスカー様の様子は忠誠心と家族(独占)愛の板挟みで変だったんですね(納得)
「・・・アン・ディアナ。私邸の庭の果実が今年も実った。食べにくるか?もちろん、アンジェリークも共に」
「アン・ディアナ。今度、私邸にくるがよい。私が直々に乗馬を教えてやろう。ついでにチェスも。立派な淑女は乗馬ができねばな・・・ああ、アンジェリークも一緒にな」
「あ〜、アン・ディアナ。新しい絵本がはいったんですよ〜。
お姫様の出てくるお話でね〜、それがアン・ディアナにそっくりなんですよ〜。アンジェリークの好きそうな恋愛小説も入りましたから一緒にどうぞ〜」
・・・さすが、年長組。アン・ディアナだけではなくアンジェリークまで眼中にいれてます。
「わ〜あい。 じゃあ明日、お休みだから朝、くらびす様のお家に行って果物食べて、お昼はじゅりあす様にお馬にのせてもらう♪ アン、お馬、パパに教わって少し乗れるんだから」
『・・・アン・ディアナ』
可愛い娘の優しい一言にほろりとなるパパ。が。
「いいや。軍人の乗り方になってしまうぞ。貴婦人はもっと優雅に乗らなければな」
上司の言葉に打撃をうけます(笑)
「それで帰りにるば様のところでご本借りるの♪」
「よかったわね、アン・ディアナ」
妻の笑顔が今日はやけに胸に染みるオスカー様でした。
「おい、アンジェリーク・・・」
「はい?」
アンジェリークがデザートを出す為に引っ込んだのを幸いに旦那さまはトイレとかなんとか言って後を追います。ルヴァが『御招待』といった事が気になっていたからです。
『俺が招待する訳ない・・・ってことは』
愛する妻が家族団らんをぶちこわした元凶ってことになるじゃないか?!
どうしても今ここで聞かずにはいられませんでした。
・・・その答えは。
「ええ、私が御招待しましたけど」
それがどうしたの?と妻はにっこり旦那さまをみあげました。
「どうしたのって・・・」
オスカー様には信じられませんでした。
は! もしかしてアンジェリークは俺と二人きりになるのが嫌になったのか?! 家族三人だけでは息がつまってしまうのだろうか? 実は俺にもう飽きてしまったのだろうか? アン・ディアナを連れて違う奴のところへ行こうと物色してたのだろうか?
ここまで三秒(笑)
そんな旦那の妄想にきづかず(あたりまえですけど(笑))アンジェリークはさらに天使の微笑みを浮かべます。
「ジュリアス様やクラヴィス様、前々から我が家に来てみたかったらしいんです。でも家庭の邪魔をしてはいけないと思ってたらしくて・・・。ですから、こちらから御招待申し上げたんです」
「そ、そうだったのか・・・」
オスカー様の表情が一瞬で自信ありげないつもの顔に戻ります。
『そ、そうだよな。俺のお嬢ちゃんに限って、他の男の元に走ろうなんて考える訳ないよな』
そう思った途端、
「でも・・・」
アンジェの頬がほんのり赤らみます。
「実は私、ちょっと嬉しかったんです」
「え?」
「オスカー様ってば、ジュリアス様やクラヴィス様と並んでもちっとも見劣りしないんですもの。こ〜んな素敵な旦那様がいて、うふっ。私ってばすっごい幸せ者だなぁ〜って」
「お嬢ちゃん・・・」
「あ・・・いけませんっ・・・んん・・」
いままでの鬱屈の分、ついアンジェリークの唇を奪ってました。
さすがにその先はお客人のいることですし、出来ませんでした(笑)
とりあえず満足されたオスカー様は進んで妻のお手伝いをはじめました。
『とっととこれを食わせて、おっぱらってさっきの続きを・・・(爆)』な〜んて思ってたのもあったらしくて。
と。
ふと、思いました。
なぜアンジェリークがジュリアス様たちが来たがっていたことを知ったのかを。
「あ、それはリュミエール様やオリヴィエ様たちです」
疑問はとっとかない。さっきの妄想の教訓。
その答えは、これ。
「自分達がしょっちゅうお邪魔してるっていえばきっとジュリアス様もクラヴィス様も余計な気をつかわず、いらっしゃるに違いないって」
本当にいらっしゃってくれてよかったわ。
微笑んでる奥様とは別に旦那様の脳裏に高笑いしている同僚の顔が浮かびました。
『あ・い・つ・ら〜〜〜〜〜』
・・・どうやら、アン・ディアナとアンジェリークに近付かせまいとやつらの総ての陰謀を打破したのが、かえって変な方向に返ってきたらしいと気がついたときには後の祭り。
今までの敵に、今度は下手に断われない上司が加わり、しばらくオスカー様の休前日は夜中まで家族団らんの『か』の字もなかったそうです(合掌)
おしまい♪
おまけ
「父様、母様!」
夜も更けて、これからは大人の時間とばかりに主寝室にさがったヴィクトール様がアンジェリークに手を伸ばした瞬間、それはドアが乱暴に開かれる音と共にやってきました。
「ジュ、ジュッジュッジュニア!」
「まあ、どうしたの?」
ヴィクトール様譲りの癖っ毛を振り立てて、ガーテ家の長男、ジュニアはそのままの勢いで両親の横たわるベットにダイビングしました。
「なぁに? 一緒に寝たいの?」
優しい母様、アンジェリークがそっと尋ねます。
「もう、大きいんだからひとりで寝なさい」
・・・何が目当てか丸分かりのヴィク様(笑)
「・・・レオン君ところに弟が生まれたの」
両親の疑問には答えず、ぼそっと呟くジュニア君。
「え?」
「母様、僕も弟が欲しいっ!」
ぎゅっと抱きつくわが子をきょとんとした眼でみつめる母。が。
「そ〜ね。それじゃ父様とこうのとりさんに相談してみようかしらね」
にっこり笑ってジュニアの頭を撫でてくれました。
「うん。レオン君の母様も言ってた。『パパとママが仲良くしてるとこうのとりさんが連れてきてくれるのよ』って」
「なるほどな・・・」
それじゃこれからますます仲良く(爆)しなければ、なんて独りほくそ笑むヴィクぱぱ。
でも。
「だから、父様が母様を苛めないように僕これからここで寝る。僕がここで二人を仲良くさせたら、きっとこうのとりさん、すぐに弟連れてきてくれるよね♪」
・・・説得力のある反論をすぐには紡げないヴィクトール様でした。
頑張れ、ジュニア。負けるな、ジュニア。
でも、頑張ると弟は当分できないぞ(笑)
はい。と、言う訳で『晩さん会シリーズ』第二話目です。ちょっとのきっかけで素晴らしいものを頂き、そのお返しにとまた書いたもの。
オスカー様はアンジェリークの旦那様という幸福な権利を手にいれたからには、妨害を受ける義務ももれなくついてくるんですよ。
もう一回、『晩さん会』は続きます。
他にも『こんなシュチュエーションでの家族がみたい』などあったらお教え下さい♪