「とりあえず、私の荷物をもってきてくれない? ついでに宿代を払っておいてくれるとありがたいんだけど」
左膝より下がない状態では動きようがない。ここから出られないのだからとローに言うと、彼は能力で荷物を移動させた。
「支払いは?」
「あとでペンギンにでも行かせる」
ローはから離れる気がないのか、ベッドの横に椅子を置いてそこに腰かけ本を広げた。
――暇だわ。
動きがとれないのがこんなに退屈だなんて。
はそっと、溜息をついた。
――寝てるだけも飽きたんですけど。
毎日、ローは医務室へ様子を見にくる。医務室に四六時中いることはなくなったが、それでも結構な頻度で来る。
「暇なの?」
一度そう聞いたことがあるが、「暇だな」と答えが返ってきただけだ。
「ログはたまったんでしょ?」
「お前が逃げないと約束するなら出航するが?」
「出航しなかったら逃げるかもね? 言っておくけど、仲間になるつもりはないわよ」
の言葉に、ローの目が細められる。
「そのベッドに縛り付けておくこともできるぞ?」
――私を仲間にしても、喧嘩ばかりすることになると思うんだけど。
はローから視線を外すと、医務室を見渡す。
「逃げ道はないぞ?」
「もう逃げる気も失せたわよ。こんなに毎日、傍にいられたんじゃね」
左膝から下がない状態では何もできない。食事もこの部屋で食べているのだ。
「食堂があるんでしょう? そこに居たいんだけど。この部屋は退屈なの」
はここで七日、過ごしている。随分、片足での壁伝いの歩行はできるようになったが、それでも長時間歩くのは不可能だ。
ローは少し考えた末、を抱き上げる。
「きゃっ……!」
急に抱き上げられ小さく叫んだ彼女は、浮遊感に思わず体を固くする。
「落としたりしねぇよ。首に手を回していろ」
大人しく言われたとおりにすると、頭の上でふ……と笑う声がする。
食堂へ連れて行かれてしばらくすると、ペンギンの手でコーヒーとラスクが出された。
「ありがとう」
「今日は特別です」
「あなた、パン嫌いじゃなかったの?」
「俺は嫌いだが、おまえは好きだろう」
「えぇ、好きよ。わざわざ私が好きなパンで作ってくれたの?」
少し甘味のあるパンだから、グラニュー糖をつけなくても十分甘くておいしい。
ローは視線をそらして答えない。ペンギンはそんな船長に苦笑いしている。
「俺としては、さんにずっと船に居てもらいたいですね。船長の機嫌がいいから」
「――ペンギン」
彼の言葉に、ローが咎める口調で言うと、ペンギンは苦笑いを深くして、両肩をすくめてみせた。
「俺は見張りに行きますから、何かあったらシャチを呼んでください」
ペンギンが食堂から消えると、ローの不機嫌なオーラが和らいだ。
「私をどうしたいの?」
まわりくどい腹の探り合いは苦手だ。
「どうもしねぇよ」
「このまま監禁され続けるのかと思ったのだけれど、違ったの?」
「監禁なんてしねぇよ。怪我がなおるまで大人しくしてもらうだけだ」
最後の1口を飲み終わるのを確認すると、ローはを来るときと同じように抱き上げた。
溜息まじりに彼女は同じように、ローの首へ手を回す。
「もうそろそろ返してくれない?」
「そのうちな」
医務室ではなく船長室に入ると、をベッドへおろす。
「結局、最後はベッドなのね」
つまり、足はまだそのままということだ。
「こんな調子じゃ、足がなまってしまうわ」
「そうしたら、おまえはここから出ていけなくなるな」
「あなたならそんな方法じゃなくても、囲うことは可能でしょう?」
囲う、の言葉にローが反応し、眉を寄せる。
「囲うなんて思っていない」
腰かけていたの肩を軽く押してベッドへ寝かせて足を持ち上げてやると、ベッドの端へ腰かけた。
「おまえを俺に、縛り付けたいだけだ」
|