アカイヒカリ 11







 背に乗り、軽く足で腹をけると、黒い馬は走りだす。
 あたりは草原、ここで狙われては隠れる場所などない。だが、襲ってくることもないだろうと思いつつも、警戒は怠らない。
『ん?』
「どうした?」
、走れ!』
「え?」
『いいから走れ!!』
 光炎剣の言葉に疑問符を浮かべながらも馬を走らせる。途端に大きな光が現れ、は思わず手綱を引いた。
『巻き込まれるぞ!』
「え!?」
 光炎剣は少し焦っているようだ。
 光の中から現れたのは杖を持った黒髪の少女で、彼女は「え?」という顔をしてあたりを見渡した。
「また・・・やっちゃった?」
 少女は呟き困った顔をする。どうやら彼女はここへ来たかったわけではないらしい。
「えっと・・・戻るにはどうしたらいいのかなぁ?」
 呟きながら杖を掲げて――少女は小さく「くしゅん!」とくしゃみをした。
「えぇ!? うわ・・・っ!」
 のまわりに光が現れて――そして、は草原から姿を消した。










「イテテテテ・・・」
 突然の移動に着地を失敗したは、尻もちをついてしまった。
「ここはどこだ?」
『――ここはマズイ。・・・・・・この気配は――』
 光炎剣は言って、瞬時に気配を断った。
 ――ハルモニアだ。
 光炎剣の言葉が脳に響く。
 ハルモニア・・・。
 の生まれた地かもしれない場所。だが、追われている身であるにとっては脅威の国。
 ――ここから移動できるか?
 ――ここは無理だ。そういう魔法はできなくなっている。空間移動するなら、この建物から出なくては。
「仕方ない・・・か」
 は意識を集中して気配を探る。
 兵だろうか、この建物内にいるのは五人。剣を使用する兵ならばどうにかなるだろうが、魔法を使う神官なら分が悪い。
「札の使用は?」
 ――空間移動以外は可能だが、私の力は半減するかもしれん。
 と、いうことは、魔法増幅は期待できないということ。できるだけ札を使用して、魔力は温存しておいた方がいいだろうと判断する。
「しかし・・・今のはなんだったんだ?」
 ――少女の名前はビッキー。空間移動のエキスパートになる予定なのだが、まだ修行中でな・・・私も一度巻き込まれたことがある。これで二度目だ。彼女はよくくしゃみをして、側にいる人や物を余所へ飛ばしてしまうらしい。
 ――ビッキーって・・・・・・あの?
 先の戦争に彼女も参加していて、よくテレポートしてもらっていた。だが、前にこんなことは一度もなかったのだ。
 ――は運が良かっただけだ。
 どこへ飛ばすかもわからないので、そのくしゃみに罪はないのだろうが・・・。
「くしゃみでハルモニアか。悪運だけはよかったんだけどなァ」
 ここでもし神官に捕まれば、ハルモニアの中央に連れていかれて、外へは出してもらえなくなるだろう。真の紋章である光炎剣と一緒に。
「さて、行くとするか」
 は光炎剣に手をかけ、腰をあげた。










「レックナート様!」
 珍しくルックが慌てたように彼女の元にやってきた。
「わかっています」
 レックナートはなぜルックがここへ来たのかを知っていた。
「あの子は本当に、トラブルメーカーのようですね」
 それはを指しているのか、ビッキーを指しているのか。
「ルック、ハルモニアへ入るのは無理でしょうから、この札を使いなさい」
 その札は特殊なものだ。前にも一度、レックナートから貰ったことがある。
 彼女は自分の生い立ちを探るために自ら、敵中であるハルモニアへ入り、それが中枢の人間にバレて身動きがとれなくなってしまったのだ。そのときは死に物狂いでハルモニアへ侵入し、彼女を攫うように連れ帰ってきた。
「それから、を迎えに行く前に、彼らと連絡を取っておきなさい。――できればここへ来てもらう方がいいでしょう」
 彼ら、という言葉に、ルックが嫌そうな顔をする。だが、嫌だからといって彼らと連絡をとらなければ、きっとを救うことはできないだろう。
 彼はロッドを手に取り、風を操り空間移動をする。
 彼らと連絡を取るためだ。
「ルック?」
 突然現れた風に、バンダナを巻いた少年が目を瞬かせた。
「僕のところに来るってことは――よほどのことなんだね。・・・・・・絡みってところかな?」
「不本意ながらね」
 忌々しげに呟くと、ルックは右手に持ったロッドを軽く振った。
 静かに風が巻きあがり、二人を包んで消える。
 次に向かったのは、傭兵の砦。そこへ向かう空間移動の小さな時間に、ルックは彼へと事情を語った。――いや、語ったというには、あまりにも端的な言葉だけではあったが。
「ぅおっ!?」
 突風に驚いたビクトールだったが、その傍らにいる星辰剣は冷静だ。
「私の力を求めるほどの状況か」
「どういうことだ?」
 ビクトールの隣にいたフリックが問いかけるが、星辰剣は答えない。かわりに、ルックが幾分か低い声ではき出すように言った。
がハルモニアに行った」
「ハルモニア?」
『行ったというのは的確ではないな?』
「ビッキー、覚えてる?」
 星辰剣の問いに答える前に、バンダナの彼はビクトールとフリックに問いかける。
「もちろんだ」
「あぁ・・・だが、それがどうした? 
 二人の答えの後、少し間があり――ビクトールの低い「まさか・・・」の呟き。
「思い当たる節があったようだね? ビクトール」
「あぁ・・・そうか・・・そうだったな」
 低い低い呟きは、フリックの唇からも落ちた。二人とも、ビッキーの災難にあっているのだ。
「ビッキーの失敗で飛ばされた国がハルモニアか!?」
 フリックの叫びに近い声は、ビクトールを頷かせる。
「悪運は最強だと思ってたんだけどなぁ、アイツは」
 ビクトールもふざけた口調ではあるが、表情は比例していない。眉を寄せた表情は、自分の体験を思い出しているようでもあった。
『ルック、急いだ方がよさそうです。――どうやらは、円の紋章に引き寄せられたようです』
「ッ!?」
 ルックの無表情が、驚きの次に焦りをにじませた。










 ルックの手の中にあるのは、レックナートが自らの紋章を札にしたものだ。普通、真の紋章は札にすることができないが、彼女は特別に作ってもらったのだ。先の戦争――門の紋章戦争のことだ――の際、解放軍として闘った一人である彼女は、あれから三年たった今も、その美しさは健在だ。妖艶な色を放ちながら、彼女はレックナートの突然の訪問に驚きもせず、ただ一言「大丈夫よ」と放ったのだ。レックナートの訪問の理由に気づいているらしい彼女は、レックナートを奥の部屋へと促しながら、誰にともなく呟いた。
「――・・・あの子なら、きっと大丈夫よ」
 この紋章からできた札を何に使うか理解したうえで、彼女は言っているのだろう。
「あなたの紋章は――・・・そうね・・・・・・あなたのお弟子さんが一番使えそうね」
 ルックへ薦めたのも、彼女の言葉があったからだ。
「ルック、その札はある条件を満たさなければ発動しません。その条件とは――」
 レックナートの言葉に、ルックは眉を寄せる。
 彼女が光炎剣を手に紋章を発動させていること。
 この間渡した指輪とイヤーカフを装備していること。
 そしてもう一つは――・・・。
の意識がこちらに向いていること、ですか」
 先の二つは条件を満たすことが可能だろう。ただし、彼女の装備が取られていなければ、の話だが。
 最後の一つは、戦闘の際、自分で何とかしてしまう彼女だから、こちらに意識が向いてくれるかどうか、甚だ疑問だ。
「彼女はどうやらハルモニアの中枢から離れているようですから、なんとかなるとは思いますが・・・」
「レックナート様、をあまり軽視されない方がいいと思いますよ」
「――・・・そうですね」
 レックナートは少し考えてから、ルックの言葉に同意した。
 力があるからこそ、自分でなんとかしてしまうのだ。前の時もそうだった。
「彼女は本当に、皆さんに愛されているのですね」
 その場にいる面子は、前回の戦争で一緒に闘った者ばかりだ。はじめは意味もなくハルモニアに追われていたため心を閉ざしていた彼女に、一人ではないことを教えたのは彼らだ。
「ルック、前はどうだった?」
 の言葉に、ルックは無表情の中に、少しの不快感をにじませた。
「チラッと聞いた話じゃ、凄かったって話じゃねぇか」
「怪我もしていたらしいしな」
 ビクトールとフリックの言葉に、ルックは仕方なく口を開いた。
 本当は思い出したくない出来事だ。あのときはとにかく必死で、怪我をしたをあの場から引きはがすことしかできなかった。――自分にも遺恨のある場所だから、余計に。
「前の戦争が終わって僕がこの塔に戻って、二年近くたったころだったよ。何となく嫌な予感がして、レックナート様にお願いしてを捜してもらった。・・・がいたのはハルモニアの首都クリスタルバレーの中心に近いところだった」
 ルックは眉を寄せ、不快感を露わに、さらなる事実を口にする。
「ハルモニア神聖国の神官長であるヒクサクに捕らえられ幽閉されていたところを、ササライが見つけたところだった」
『ほお・・・あのササライか』
 星辰剣が『軍を率いてきたことがあるな』と口にする。それにビクトールもフリックも「そうだな」と肯定を示す。特にフリックは、と共にササライ率いる部隊と直接闘ったことがあるためよく知っている。
「ササライはがそこにいることを、僕に知らせた」
 ササライとルックはヒクサクのクローンで兄弟だ。だからこそ、の所在を知らせることができたのだろう。
「彼は元々、を追うようにヒクサクから指示を受けていた。けれど、何度か逃がしている。――ヒクサクの意図を知っているのにわざと逃がしている理由は、知らないけれどね」
 ルックは眉を寄せたまま、自分に注がれる視線を受け止める。
「ヒクサクに抵抗して深い傷を背中に受けても、はまだ、自分の足で・・・自分の意思を伴って立っていた。そこに僕は連れて行かれたんだ」
 忌々しい、とあからさまな表情に変わったルックに、皆が息を詰める。
 ――連れて行かれたんだ――
 誰に、とは聞かずともわかる。――ササライだ。
 ササライは自分がヒクサクのクローンで、紋章を宿すためだけに作られたことを知らない。もちろん、ルックと兄弟であることもだ。それなのに、彼は無意識にルックを呼び込んだ。――の元に。
「ヒクサクになんとか隙を作らせ逃げてきたけど、はテレポートの途中で意識をなくして、一週間、目を覚まさなかった」
 背中の傷よりも精神的ダメージが大きかったのだろう、そうレックナートは語る。
「アイツはいつも、無茶ばかりしやがって」
 フリックの諦めを含む声に、ビクトールが笑う。
「ありゃあ、自覚がねぇんだぜ? きっと」
 前に同じことを光炎剣と一緒にへ言ったが、効果がない。それを思い出しながら、ルックはを見やると視線がぶつかった。
「今はルックが一番、に近い。――不本意だけど」
「わかってる」
「僕が君をの近くへ送る」
「それぐらい自分で――」
「ダメだ」
 はルックの言葉をきっぱりと遮る。間違いなく、わざとだ。
 むっとするルックに、彼は冷静に言葉を続けた。
「君がを救うんだ。僕らは君の、足手まといにならないようにするだけ。その札はルックにしか発動できない。――少しの力でも、無駄にはできないからね」
 それに反対する者はいない。
『それに、あの場には戦力もあるな』
 が仲間をどこへ運ぼうとしているのか、星辰剣にはわかっているようだ。
「そうですね。ルックが札を発動できなければ、は救えません。私が発動させることは可能でしょうが、その前に、私自身の紋章が動いてしまう――それでは意味がありません」
 今回、を助けに行くのではなく、を札の力で『召喚』するのだ。札の発動がすべての鍵を握っている。
「オレたちは出る幕なしだな」
 ビクトールの言葉にレックナートは首を振る。
「そんなことはありません。力というのは思いの強さ。を助けたいと思う心が、札の発動に力を与えるのです」
 ――さあ、準備を。
 レックナートの声に、がルックをハルモニア神聖国の南部辺境の町カレリアに移す。
「まさかここへ移動するとは・・・」
 この街にはハルモニアの常設軍隊はなく、何かあれば兵が送られてくる。
「よくこの町を――」
「知っていたかって?」
 次にフリックとビクトールを連れてきたは、とある場所へと移動する。その場所はどう考えても倉庫だ。
「やはりお前か」
「少しだけ場所を借りるよ」
 そこにいたのは一人の男。右の眼には眼帯、低い声の主はルックを見やってから、を見る。
「厄介事か。――まさか、な」
 嫌な予感がしたのか、彼は眉を寄せる。
「その『まさか』だよ、ゲド。――がヒクサクの元にいる」
「それでか」
 眉を寄せたまま、彼は何やら納得している。
「先程から紋章がうずいていたから何事かと思っていたが、それで合点がいった」
「紋章・・・?」
「紋章っつーのは、真の・・・?」
 ビクトールとフリックの問いには頷きだけが返る。
「しかし・・・この狭い空間に、ソウルイーターと風と雷、星辰剣の夜の紋章か。クリスタルバレーに光炎剣、その手にあるのは門の紋章の力を封じているな?」
 ゲドの問いに頷いたは、ゲドは傭兵であると説明する。
「傭兵ではない。警備隊だ」
 ハルモニア神聖国地方軍南部辺境警備隊第十二小隊隊長。
が絡むとおしゃべりになるよね」
 寡黙な性格で状況判断も優れているが、謎の多い人物だ。
「まあな。アイツとは付き合いも古い。色々と世話もしたしな」
 アイツとは、のことではなく光炎剣の方だ。
「オレが結界を張る。何をやるのかは想像がつく。――今はまだの力を感じ取れるが弱い。力を使い果たして捕まる前に、発動させた方がいい」
 ゲドは言ってから部屋の隅へ移動し、胡坐をかいて座る。隅へ移動したのは、邪魔にならないようにするためだろう。意識を集中すると、すぐにそこが妙な空気に包まれた。
「外とこの部屋を遮断した。、札の力を通る間、この結界を力任せに開け」
「わかった」
 ルックは部屋の中央で札を右手に持ち、目を閉じる。左手にはロッド。ゲドの対角線上に、残りの二か所の隅にフリックとビクトール。星辰剣はルックのそばで浮いている。
 ――、気付いてくれ!
 祈るような気持ちでフリックとビクトールが胸中で呟く。
 ――、待っている人たちがいることを忘れないで。
 はソウルイーターの発動を促しながら、の気配を探っている。
 ルックは札の発動が出来るよう集中しながら、を思う。・・・・・・そして、空間が音色を奏でた。











 少し時間を遡る。

 は飛び出したと同時に光炎剣ではなく、短剣を握る。殺傷能力は低いが、素早く動くにはこちらの方が都合がいい。
 この建物内にいるのはほぼ全員と言っていいほど神官のはず。魔法は大技以外は思いのほか早く術が完成する。術が発動する前に集中力を途切れさせるのがの目的だ。
 目の前にいる神官の足を短剣で斬りつける。深く斬らなくても、集中力が切れれば魔法は消滅する。痛みに霧散した力が消えていくのを視界の隅に捉えながら、軽く飛んだ。小さな魔法はの飛ぶ前にいた場所へ向かっていた。
「あぶねーっ」
「魔法をかわした!?」
 魔法をかわすことの出来る人間は少ない。魔法を放った神官は驚きに目を見開いている。
 次から次へと神官がやってくる。一人を相手にしている間に、他の神官が魔法を発動させてしまう。多人数でこられると対処できない。
 はねむりの風の札を取り出し、発動させる。
 札の効力はそれほど期待していないが、これで何人かは足止めができるだろう。
 三分の一ぐらいは札の効力で眠っている。それらに触れないよう、は神官の懐へ飛び込み足を払い、拳を叩きこみ、短剣で斬る。札の効力がきれた頃には、そこにいた神官は半分以下になっていた。
「さすがにヤバイな・・・」
 の声に焦りが滲む。一人で数十人を相手にするには限界だった。相手がだとわかっているため、ヒクサクが多人数を差し向けたのだろう。
「アイツが出てくる前に、ここから出ないと」
 今、ヒクサクに出てこられたら、勝ち目はない。もしかすればこのまま、ここから出られなくなるかもしれない。――それは勘弁してほしい。
 とりあえず、この場にいるのはマズイ。
 は走る。とにかく走ることにする。
 後ろから神官の放った魔法がくるが、小さいものはできるだけ避け、大きいものが発動されそうになったら集中力をきらすために攻撃する。それを何度か繰り返し、ようやく出口が見えたころ――・・・。
「待っていたよ、
 聞きたくもない声。
「ようやく帰ってきたね」
「ここに帰ってくるつもりなどない! 事故でここに飛ばされただけだ」
 こんなことを言っても無駄だろうが、一応訂正しておく。
「君をここから出すと、思っているのかい?」
「思っていないが・・・出る。僕は仕事の途中なんでね」
 ヒクサクは無表情のまま、指先をへ向けた。それだけでは拘束される。
 凄い力だ。は何もできないまま、魔法によって身動きできなくなってしまった。
「君を捜していた。――光炎剣と君の力で、『光の紋章』が生まれる」
『私はまだ、発動する気はない』
「久しぶりだな、光炎剣。その喋りも相変わらずか」
では力が足りない。火の紋章の力をもっと引き出せる者でなければな』
 ――、静かにしていろ。私の言葉に反応するな。
 脳裏に直接響いた光炎剣の声に、頷くこともできずに、ただ成り行きを見る。
「そうは思わないが? 相性は良いのだろう?」
『相性だけはな。私の真の力が知りたいなら、では役不足』
 は悟る。
 自分の身を危険にさらす前に、光炎剣自身をヒクサクの元へと――つまり、自分を犠牲にしようとしているのだ。
「悪いが――・・・光炎剣を渡すことはできないな」
 は左手と額に力を集中する。
 何をするのか気付いた神官たちは、守りのてんがいを唱え、自分の安全を確保しはじめる。ヒクサクはわかっているが動じない。
 は、体は動かないが意識が働くことに気付いたのだ。
 ――!!
 意識を集中すると同時に聞こえた――いや、直接脳に響く、聞きなれた声。
 これはルックだ。
 この建物は外からの魔法を遮断するはずだ。それなのになぜ、聞こえるのだろう。
 どうやら光炎剣やヒクサクには聞こえていないようだ。
 光炎剣につけた組紐。耳にはイヤーカフ、右手の指には金色のリング。
 ――、帰るよ。
 何事もないように言ってくるルックが、とても頼もしい。
 ――ルック、迎えにきてくれてありがとう。
 は目の前のヒクサクが魔法を発動させようとしていることに気付いたが、それを気にする風もない。そしてただ、意識をルックへと向ける。
 何の証拠もないが、帰れると確信できた。
 に何かの力が及んでいることに気付いたヒクサクがを拘束する魔法の力を強めたが、は息苦しそうな表情に小さな笑みを浮かべた。
「悪いが、僕はあんたと一緒にいるのはゴメンだ」
 意識に力をこめ、火と土の魔法を発動させようとすると、それに感じ慣れた気配を見つける。
 ――ああ・・・。
 帰れるな、やっと――・・・あの場所へ。
 フリック、ビクトール、、レックナート。――そして。
 の火と土の魔法にルックの風が入って渦を巻く。その渦の中心にいるを蒼い光が包み込んだ。
「――クソッ!」
 ヒクサクの魔法を超える力では拘束を逃れその場から消えてしまった。
「あれはルックの力か・・・」
 ヒクサクは真の紋章である風の力を感じ取っていた。そして、それ以外の力にも。
 ――門の紋章を蒼き門の紋章に変化させてを召喚したか・・・。
 ヒクサクは忌々しげに、のいなくなった空間を睨んだ。