閃雷を抱えたまま、は船長室の前までやってきた。『あとで』がどのくらいの時間なのかはわからないが、自室で一人になりたくなかったのだ。だが、ノックをするのに勇気が必要だった。
船長室の扉をしばらく眺めて。
……無理だ、部屋に帰ろう。
は踵を返す。だが、それを引き留める腕があった。
「」
船長室から現れた彼は名前を呼ぶと、彼女の腕を持って部屋内へ引き入れた。
「キャプテン?」
扉が閉まった途端、ローはため息をついた。は彼に腕をひかれたままだ。そのまま両腕に抱き留められて。
「おまえが人殺しになる必要はねぇんだ」
ローはの頭に顎をおいて、そっと息を吐く。
「俺がどれだけ心配したか、気付いていないだろう?」
「心配……?」
彼はゆるりと抱き留めたままだ。
「他のやつらもそうだ。……一緒ってぇのが気にくわねぇが」
言葉尻は、に聞こえるか聞こえないかの、小さな呟きだった。
「あいつにしたら、オレの島なんてどうでもよかったのかもしれないけど……オレはずっとコレだけを思ってたんだ」
あの海軍をいつか自分の手で。
それが理を逸するとわかっていても、割り切れない思いがあった。
「この船に乗って、みんなと一緒に笑ってても……あの男を見つけたときがオレの最期だって、ずっと思ってた」
「ずっと思ってただけだろう、思いつめる必要なんかない。『思い』なんてもんは、誰かに強制されるものでもねぇしな」
「それでも……!」
の左手にあった刀を取り上げベッドへおろすと、刀を持っていた手を握ってやる。
「お前はアイツを殺して……そのあとはどうするつもりだった? 最期だと思っていたなら、そこで自ら命を絶つつもりだったか?」
「オレは……っ!」
「そこでお前が死んだとして、誰が喜ぶ?」
「……っ」
「海軍は喜ばねぇだろう、『ONLY ALIVE』だからな。――俺たちは当然、喜ぶわけがねぇ。お前の故郷の人たちはどうだ? 故郷の島は壊滅したが、まだ生き残って生活している人もいるだろう、そいつらが喜ぶか?」
の右手が、ローのシャツの裾を握る。まるで縋るように。
「赤髪はどうだ? 救った命を自ら落とされて、黙っているようなヤツじゃねぇだろう。――死ぬのが『逃げ』だとは言わねぇ、そうしなきゃ救われない命もある」
「わかってるんだ、そんなこと何回も……何百回も考えたよ。でも、行きつくんだ、そこに」
堂々巡りとわかっている、わかっていても、そこへ思考がたどり着く。
「一人で考えてれば答えは同じだ」
いつも言葉少ない船長が、自分といるときだけはよく喋ると思ったことがある。彼は、に答えを導き出させるために、問いかけるのだ。
「お前はやらなきゃならねぇコトがあるだろう?」
そうだ、船長に服代を借りてる。……値段、知らないけど。
「もう一人じゃねぇ、そうだろう?」
そうだ、自分はハートの海賊団の一員だ。
「この船のコックはお前しかいねぇ、さっきシャチも言ってただろう?」
そうだ、コックは船長の次に偉いんだった。
「それでもまだ死にたいなら、俺が一瞬であの世に送ってやる」
言葉の凶悪さと声音が正反対だ。
はぁ、と深いため息をはいて、ローの胸にコツリと額をあてた。
「精神科医ですか……」
「専門外だが……。ま、お前専用だな」
喉の奥で笑うローを見上げようとするが、顎を頭の上に置かれているためにできなかった。
「しばらくは潜水して島から離れる。お前ははじめてだろう?」
こくり、と頷いた。ローは左手で自らのジーンズのポケットを探って。
チャラリ、と鎖の鳴る音。
「これを持っていろ」
はローのシャツの裾を握っていた手をはなして、それを受け取る。
「懐中時計?」
「時計持っていないだろ」
「今まで必要なかったから、持ってない」
深い眠りに入ったことがないからだろう、彼女は時間を太陽の位置で確認していたのを、ローは何度か目にしていた。
受け取った懐中時計には蓋がついていて、蓋を開けると文字盤の部分はスケルトンになっていた。
「それは手巻きの時計だ。毎日必ずゼンマイを巻かないと時間が狂うが、お前にはちょうどいい」
見た感じ、新しいものではなさそうだ。
「毎日同じ時間に起きるお前なら、俺が使うより価値があるものになる」
はポケットにそれを入れると、俯き、その手で口を押えた。
「……っ……」
ふ、と覆った手の隙間から漏れる息。
「……っ……ありがとう」
漏れる嗚咽を何とか抑えての呟きに、ローは満足そうに彼女の髪を撫でた。
「ん?」
食堂にやってきたペンギンがの手の中にあるものに視線を向けた。何度も目にしたことのあるそれが、何故彼女の手元にあるのか。
キャプテンの時計がの手にあるってことは、それ相応の気持ちがあるってコトだよなー。
ペンギンは胸中で呟き、そこを彼女に突っこんでいいものかどうか悩む。船長とは長い付き合いだから、ある程度、動向を見ればわかる。ただ、時計を贈られた意味をが理解しているかどうかが問題だ。
のことだから、気付いてないだろうな……。
彼女は下準備が出来たのか、手を洗うと食堂の窓へと近づき、カーテンを開けると空を仰ぐ。
「そっか、潜水中は見えないんだ」
はじめての潜水を現在進行形で体験しているには、景色が違うようだ。
ペンギンは「何やってるんだ?」と問いながら、近づいてくる。
「太陽見る癖がついちゃってるんだよね。今までずっと、時間がわからなくなるほど寝たことがないから」
言っては海を眺める。
「10年前からずっと?」
「うん、そだね。だからこの間のがはじめてだよ、5日も眠ったのは」
「キャプテンはそのこと……」
「知ってるんじゃないかな。オレから言った記憶はないけど、そうじゃなきゃあんなこと……」
「あんなこと?」
「あ、いや……」
思わず出たのだろう、口を手で塞いだに視線を向けると、その視線から逃れるように彼女は明後日の方を向く。その耳が赤いことに気づいて、ペンギンはその言葉の先を聞くことを諦めた。
――この先を聞いたらキャプテンにバラされる……。それを覚悟の上で聞くのも面白そうだけど。
「今まで時計がわりに太陽見てたんだな」
「うん、そーなんだ。大体の時間感覚で動いてたんだ。一応、店にいるときは時計見てたけど」
料理だって目分量だしね。
「目分量で出来るってことは、それだけセンスがあるってことなんじゃないか。コックは天職かもな」
小さな窓から、2人並んで海の中を眺める。
「さて、俺はもうひと頑張りしてくるよ。ベポに休憩させてやらないと」
「後でコーヒー持って行こうか?」
「頼むよ、3人分」
3人分? ベポとペンギンと……あとは誰?
「キャプテンがもうすぐ来ると思うから」
「リョーカイしました」
は時間を確認するべく時計の蓋を開ける。
「30分ぐらいでいい?」
「あぁ、丁度いい時間だ」
ペンギンは時計にチラリと視線を向けてから、窓のカーテンを閉めた。
「その時計、シャチの前では出すなよ?」
「なんで?」
「俺はなんとなく事情がわかってるから問わないが、シャチは面白おかしく突っ込んでくるぞ」
「あ~~~~……」
やりそう……やってくれそうだよ。
首筋まで赤くしたを見て、ペンギンは「やっぱりな」と笑う。
「わかりやすいなー」
「揶揄うなよ!!」
「あははは」
目尻を釣りあげ怒るだが、その姿はまるで。
「キャプテンの前でも、今みたいに感情を出してやってよ」
さあて、キャプテン見つかる前に退散しないと。
に聞こえるように独り言を言いながら、ペンギンは食堂を出て行った。
もー! ペンギンのバカヤロー!! 今度絶対、ペンギンの嫌いなものばっかりだしてやる。
ふるふると握りこぶしを震わせ、は胸中で叫ぶのだった。
「ペンギン、なんだか上機嫌だね」
「そうか?」
深めにかぶった帽子のため表情は見えにくいが、ベポにはわかるのだろう。
「ベポ、交代だ」
ペンギンは言って操舵を交代する。
「少ししたらがコーヒー持ってくるから、それまでここで待機な」
「アイアイ」
そこへ、ローがやってきた。
「あ、キャプテン。今のところ、異常なしだよ」
ベポが言いながら、操舵室へやってきたローを振り返った。
「そうか」
短く返答したローは、ベポから海図を受け取る。これからの航路を確認しながら、ローへ背中を向けたままのペンギンを見やる。そこに、ノックの音。
入室の許可を出すと、入ってきたのは。
「もしかして取り込み中? もうちょっと後がよかったかな」
手にはコーヒーと小さなカップケーキの乗ったトレイ。
「あ! の手作りおやつがある~」
ベポの嬉しそうな声に、が笑う。
「おやつ系はあんまり作ったことないから、今日はお試し」
「美味しそうな匂いがしてるから、おいしいよきっと!」
それを聞いて「ありがとう」と笑みを深くしたは、入口付近にあったテーブルにトレイごと置いた。
「そっちのテーブルは邪魔そうだから、こっち置いておきますね」
広いテーブルにはベポとローがいて、海図が広がっている。
「ベポ、あとで感想、聞かせて」
は言ってテーブルから視線をローたちへ向ける。すると、ローもこちらを見ていて、ばっちりと目が合ってしまった。
「……っ! じゃ、トレイはまた回収にくるんで」
「回収はいいよ。あとで俺が持っていくから」
操舵中のペンギンはを振り返ることなく言って、右手を小さく振った。それに彼女は「リョーカイです」と言って、ローから視線を外して部屋を出て行った。
その会話を聞いたローの機嫌が一気に下降したのをペンギンは感じ取る。
たったコレだけの会話が気にくわないと? 俺に突き刺すような目を向ける前に、に単刀直入に言えばいいのに。……男として生きてきたから、恋愛感情なんてわかってないんですよ。
いまだキツイ目線を背中に受けているペンギンは、さらに胸中で愚痴る。
だいたい、船員は感じ取ってますよ……貴方のことは。わかってないのは、ベポと当事者二人だけですって。まあ、こんな視線に俺が晒される羽目になるのは目に見えてたし、そうなるようにしたもの自分ですけどね。
ペンギンは小さく苦笑を浮かべる。
トレイの回収を自分で持っていくと言ったのは、へ気があるように見せるためだ。これがペンギンではなく他の船員との会話なら、ローの態度は変わらないだろう。
キャプテンが酔いつぶれた人間を運ぶのも、自分のベッドに寝かせた人間も今までに一人しかいないのに、なんでこんなに時間がかかるんだ。他のクルーにそんなことしないでしょう、貴方。まさかへの感情を自覚できてないとか言わないでくださいよ……。
「ペンギン、代わるよ」
「おまえが飲んでからでいい。ベポの休憩終わったらゆっくり飲むよ」
それに、今の船長の隣でゆっくりコーヒータイムなんて出来やしないし。
操舵に集中するよう心掛けながら、ローの意識が自分に向いていないことに気付いてようやく胸をなでおろすのだった。
操舵室でローと目が合って、なぜかすぐにそらせてしまった。目が合うなんて日常茶飯事なのに、さっきは何故かそのまま流せなかった。
「なんでだろう……」
思わず息を詰めてしまって、変に思われていないかと心配になってしまう。
食堂に行こうかと思ったが、潜水中は甲板にいることができないために食堂へ皆が集まってくる。そんな場所で、今は平静でいられる自信がない。食堂から海の中を眺めていたかったが、諦めて自室へ引っ込む。
船長室にあったソファベッドが何気に心地よかったために、ベッドやハンモックではなくソファベッドを購入した。小さなランタンを小さなテーブルに置いて、はその光を眺めながらそれへ座って、はじめて会った、あの店でのことを思い出す。
『、今夜は出れるか?』
ハートの海賊団がきたあの店での、4日目の昼過ぎ。
マスターは、ハートの海賊団のクルー数名に昼食を提供し終わったころにやってきて、に申し訳なさそうに聞いてきた。
『2日寝たから何とか大丈夫ですけど……どうしたんです?』
マスターは少し困ったような顔をする。
『昨日、一昨日と夜にいなかっただろう? どうも不機嫌なんだよ』
『誰がですか?』
『船長』
『はあ?! なんかの間違いじゃないんですか? 食事はコックが作ってるし、オレは給仕だけだから必要ない気がするんですけど。酒だって気に入ってるんでしょ?』
オレが食事を提供しているならいざ知らず、味は保証済みのコックが作ってるんだから、オレがいないだけで不機嫌とかありえなくね?
『元々表情が薄いから表には出てないが、あきらかに1日目とは雰囲気が違う。クルーたちも察してるみたいだし、ちょっと騒ぎ方が足りない気もするし』
不機嫌な船長を刺激しない程度の騒ぎ方、ということだろうか。
『もし大丈夫そうなら、今夜、顔を出すだけだけでも頼めないか?』
『1日目ほど戦力にはなりませんよ、それでも?』
『顔を出すだけでもいい……頼むよ』
オレの仕事を増やすな、トラファルガー・ロー。あんたらのせいでオレは一人、昼に仕事してんだよ……。
『本当に、顔出すだけっすからね?』
その日の夜、八時過ぎ――。
『おはようございます、マスター』
『あぁ、おはよう』
白いパーカーと青いジーンズ、黒く細いフレームの眼鏡をかけたは、挨拶しながら店に入ってきた。やはり時計と挨拶がかみ合っていないが、いつものことだ。
『無理言って悪いな』
『悪いと思ってるなら無理言わないでくださいよ』
マスターの横を通りすぎながら、は小声で『今日は仕事しませんからね』とさらに言うと『わかってるよ』と、こちらも小さな声で返答する。
少し席をはずしますね。
ローへと断りを入れてからと一緒に奥へと入ってきたマスターは、更衣室に入って扉を閉めたのを確認してから口を開いた。
『様子を見たか?』
『見てないよ。横を通ったぐらいでわかんねぇって、オレには』
『そうか? 店に戻ったら確認してみな?』
『えー……ヤだよ、オレは。今夜は当り障りのない場所で静かにいるつもりだから。要するに、オレが店にいればいいんだろ?』
『さあ、そこまではわからんが……。とりあえず、着替えたら店にな?』
『はいはい、リョーカイです』
扉を隔てた向こう側から呆れたような声音で返答するを確認して、マスターは店へと戻っていく。
『なんでオレ? 億越えルーキーに気に入られるようなコト、ないと思うんだけどなー』
呟きが、小さく落ちた。
着替えて店に戻る。戻ったことをアピールするべく、マスターに声をかける。
『今日も閉店まで?』
自分が喋る人間だと、ローにはバレている。今更だとは思うが、言葉は少な目に問いかける。
『そうだろうな』
『リョーカイです。オレ、今日は奥にいるんで』
マスターに言いながらちらりとローへ視線を向ける。深めに被った白い帽子で表情は見えない。刺青のある長い指がグラスを持ち上げる様を見て、そういう仕草が妙に似合っていると思う。
自然な仕草で視線を外しては奥へ入っていこうとするが、低い声に呼び止められた。
『』
それも、名前で。
『知っていたんですね』
マスター、そこは突っ込まなくていいって!
『あぁ、山賊に絡まれているのを助けたときにな』
『絡まれた? ――あぁ、いつもの場所か……』
『いつもの場所? よく絡まれるのか』
マスターの言葉にローが問いかける。呼び止められたままのはその会話をスルーしてキッチンへ入っていこうとするが、ローの鋭い視線で阻まれた。
視界から消えるなってコトか……?
は仕方なく、キッチンと店との間にある壁に寄りかかる。
マスターの嘘つき! オレが店に居ても不機嫌じゃねぇか。こんなことなら、マスターのお願いなんか聞くんじゃなかった。
『あそこだけ暗いですからね。まあ、あの場所に隠れているのは大したことない連中ばかりですけど』
あー……マスター、そう言ったら自分なら大丈夫と言っているようなもんだよ? つまり、自分はそれを回避できるってコトだ。自分の力量を相手に教えてるようなもんだと思うんだけどね。
欠伸を噛み殺しながら、胸中で呟く。今日は絶対に気持ちを声に出さないと決めた。こんなに近いところにこの男――トラファルガー・ローがいるのだ、自分の落ち度は見せないに限る。
ローと視線を合わせたくなくてその指に視線を向ければ、手にあるグラスの中身がほぼなくなっていた。
『マスター、やってもいいかな』
ふと、この男の違う目を見たくなった。
『珍しいな』
の主語のない問いかけに、マスターも同じような答えをする。
マスターはカウンターから一歩退くと、そこへが入る。
カウンターの中には色々な酒が所せましと並べられている。その中から2つの酒瓶を取り出し、カウンター下から取り出したカクテルグラスとシェイカーを置いた。
シェイカーにウォッカとライムジュースを入れてシェイクする。シェイカーからグラスへ注ぐと、そっとローの前に出す。
『スレッジ・ハンマー。ウォッカで35度あるけど、酒に強いあんたなら飲めるだろ?』
は瞳を細め、ニヤリと笑う。完全なる挑発だ。
『カクテルも作れるのか』
『難しいものは無理だけどな』
ローは受け取って一口飲んだ。
『美味いな。おまえも何か飲め』
『仕事中は飲まない主義なんだ。一緒に飲む仲間が欲しいなら他をあたってくれ』
はシェイカーを持ってキッチンへと消えていった。
深夜1時。
店主に言わせると、今夜は上機嫌だったらしい。もちろん、トラファルガー・ローのことだ。だが、キツイ視線を受けたとしては、どこが上機嫌だったか知りたいぐらいだ。
『疲れたぁ』
は大きな息を吐いて、更衣室から出てきた。
『お疲れ。昼はどうする? 俺が出ようか?』
『いいよ。マスター、昼の食事は苦手だろ?』
『、大丈夫か?』
『大丈夫じゃなくてもやるよ。そのかわり、明日の夜は奥に引っ込んでるからな?』
今夜は奥にいるつもりが、ローのせいで店に出ていた。欠伸を噛み殺すのに必死で、途中で何度、店の奥へ行こうとしたことか。そのたびにローからキツイ視線を浴びせられて、阻止された。
『オレはコックじゃねーんだけどなー……』
それに、オレを気に入る理由がいまだわからない。
【俺がおまえを気に入った。――それ以外の理由が必要か?】
【先に言っておくが、考える時間をやっても乗らないという選択肢は与えない。たとえ嫌だと言っても乗せるぞ】
なぜ、オレにこだわる? オレの力を知って、それを利用するわけでもない。ただ『気に入った』だけで『ONLY ALIVE』を乗せるリスクを背負うのか?
思考はそこで停止する。仲間にと言われた日から、ずっと考えている。だが、必ずここで思考が止まるのだ。
は店の扉を開けた。左右を確認するが、ローの姿は見えない。そのことに安堵して、自分の家へと足を向ける。
――またか。
前回、不本意ながらローに助けられたその場所。また同じようにガラの悪い男たちがたむろっている。
は男たちへ視線を向ける。今回は大男はいないが、剣が3人。
――オレに手ぇ出してきたら、剣を奪うか……。
家へと向かいながら、男たちの横を通り過ぎる。あと一歩で通り過ぎる、というところで、男が肩を掴んできた。
はチッ、と舌打ちすると、肩を掴んできた男に肘鉄を喰らわせ、その男の腰にあった剣を奪う。そのまま、襲い掛かってきた1人の腰に剣で切りつけ、もう一人の背後に回って、そちらは足に切りつける。
足を怪我すれば追いつくことができない。死ぬことはないにしろ、時間稼ぎができる。
肘鉄を喰らわせた男の腕を剣で切りつけ、痛みに呻く声を聞きながらは剣を遠くへ放り投げた。
――文句は、オレを不機嫌にさせたトラファルガー・ローに言ってくれ。
冷めた視線を男たちへ落とすと、は自分の家へと足を進めた。
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