見せるものと、魅せるもの 3





 
 ログがたまるまで、今日を含めてあと4日――。
 食材はできるだけ後半に買いたいと思うが、1人で20数名分の買い出しは正直キツイ。いつもは船員を数名借りていくが、今日は何故か船長。なにより、今回街へ出てきたのは『おごってもらう』ことなので、食材購入やコックをするのは目的ではないのだ。
 昼間なのに酒場が開いていて、そこに入る。
「さっきの兄ちゃんじゃねぇか」
 面識がないのにいきなり言われ、はきょとんとする。
「あぁ、面と向かって会ったのははじめてだ。俺ァあんたらの料理を広場で食ったモンだよ」
 店主は笑って席をすすめる。
「夜なら一杯おごってやれるんだが、昼間は嫁がやってるから勝手ができねぇんだ」
「いや、気にしないでくれ。それにオレは手伝っただけだし」
「いやぁ、金髪の兄ちゃんも凄かったが、それについてくアンタも凄かったよ。見てて惚れ惚れしたさ」
 店主は窓際の席に落ち着いたローとに、メニューを広げて見せた。
「俺は酒が好きでこの店をはじめたんだが、嫁は料理とかお菓子作りが好きでな、だから昼はカフェ、夜は酒場にしてるんだ」
 今は嫁が広場に言っているから、俺が留守番だと苦笑する。
「今なら酒も出せるぜ?」
「帰ってきたら怒られないか?」
「それは大丈夫だ。帰ってきてもあんたなら大歓迎だ。それに、あんたンとこの船長さんもな」
 昔はこれでも海賊と戦ったことがあるんだぜ?
 店主は海軍に所属していたが、海軍に違和感を感じて辞めたらしい。
「どうりで見た顔だと思った」
 青キジの部下だな、と低くローは言った。青キジの部下は変わり者が多い。
 今の海軍に青キジはいない。変わり者だったが人気のあった彼を追って海軍をやめた海兵もいるだろう。
「今も鍛えているから、兄ちゃんぐらいにゃ負けねぇぜ?」
「コイツを甘く見るなよ」
 ローは言ってから、好んで飲むものより少しアルコール度が低めのものを選び、はいつもより少しアルコール度が高いものをチョイスした。万が一酔ってしまったとしても、ローが必ず船まで連れ帰ってくれると信頼しているからだ。それに気づいたローは、満足そうな笑みを口元に浮かべた。
「珍しいな、外で飲まないおまえが」
「昨日、飲みましたよ?」
「あれは好きで飲んだ酒じゃねぇだろ」
 さすがは船長、のことは把握済みらしい。
 いつもより高いアルコールが、喉を通る際に独特の熱を発する。
「ここら辺の酒場はどこに入っても大丈夫だ、俺と似たような奴らがやってる店だからな。あと、八百屋が一軒ある」
「八百屋? あぁ、もしかしてさっきの広場にも居た人?」
「あぁ、そうだ。金髪兄ちゃんと一緒に居たやつだ。あいつも海軍辞めてここに来た」
 なるほど、だから気配を薄くしていたのに察することができたのか。
「この街は変わってるな」
「他の島がどうか知らねぇが、元海兵は確かに多いな。噂が流れてンのかね。ま、俺たちゃ、あんたらが海賊だからって通報したりしねぇ。あんたらみんな、手配者出てるけど……海賊とは思えねぇほど落ち着いてるな」
「キャプテンによるんじゃないかな。あっちは五月蠅いだろ?」
「はっはっはっ! 確かにな! 今夜は宴だってはしゃいでいたなァ」
「特別何かあるわけでもねぇのに宴?」
「麦わら屋に常識は通用しねぇ」
 あの男に理屈は通用しない。
 そうだった、とは両肩を竦めてみせた。










「どうしたんだい? ロビンちゃん」
 宴だと言い出したルフィに、何故か意気投合した村の面々が祭りを更に大きくしてしまい、完全なる宴と化した。料理を作る傍らつまみ食いをしつつ、サンジは酒の入った杯を少しずつ傾けながらその姿を見つけた。
 ロビンは杯の中身を少しずつ減らしつつ、宴の中心から少し離れたところで落ち着いていた。だが、その瞳には考えるような色が隠れている。
「少し考え事をしていただけよ」
 誤魔化すように微笑んだロビンは、杯の中身をそっと喉へ流し込む。
「それは聞いてもいい話かい?」
 いつもならば目をハートにして声をかけるサンジが、ロビンの意思を尊重するように、そっと話しかける。
「聞いても楽しい話じゃないわ。……それに」
 ロビンは視界の隅に入った姿に、言葉を止めた。静かに視線をそちらへ向ければ、サンジもそれを追って、そちらへ目を向けた。
「彼の話を少しだけ聞いたから」
 二人の視線の先にいるのは、トラファルガー・ローと。ロビンがどちらを『彼』と指しているのか、サンジはすぐにわかる。トラファルガー・ローは、海賊同盟を組んだ際にサニー号に乗っていたから、何となくわかる。だが『彼』は。
 はじめて顔合わせしたとき、『彼』は言ったのだ。

『コックと言っても、そちらの方に比べるとヒヨコにも見えないぐらいの腕前ですが』

 それにサンジは内心、苛つきを覚えたのだ。自分を卑下するのならば、自分をコックと言わなければいいと。
「トラ猫くん、船に乗る前は酒場にいたの。何度か私も行ったことがあるわ。行くたびに違う船で行ったから、覚えていたと言っていた。給仕の仕事をしていたけれど――……。コックさんは、トラ男くんがはじめて彼をサニー号に連れてきたときのことを、覚えてる?」
「……眼鏡をかけて、大人しそうな、人とは一線を引いた感じかな」
 猫を被っていたとあとで知った。ゾロとの手合わせの際、仮面を脱ぎ捨てたは、ガラの悪い口調で喋っていたが。
「そう、その雰囲気のまま、酒場で給仕をしていたわ。自分の殻に閉じこもって外に見せる自分を偽って、自分をそうすることでしか守れなかった――昔の私と同じ」
「ロビンちゃん……」
「『故郷のほとんどを失った、――海賊と、海軍と……オレのせいで。目の前で赤く染まる大人、聞こえる声、音。あの頃のオレは、眠ることができなかった。眠ることが、怖かった』」
「あいつが言ったのか?」
 ロビンは「えぇ…」と頷くと、喉を潤すように杯を傾ける。
「彼は生まれたときから人とは違う力を持っていた。それを使うには体にかかる負担が大きい。そして、それを海軍が狙ってる」

 ――  『ONLY ALIVE』 5000万ベリー ――

「それが『ONLY ALIVE』の理由、か……」
「本人も言っていたけれど、手配書の金額は戦闘能力に比例しない。……どれだけ危険人物と捉えられるか、だから。トラ男くんが居るから今は随分、穏やかになったのでしょうけれど、それでも――私と少し昔話をしただけで顕著に表れるぐらいには、悪夢は続いている。彼が、トラ男くんに縋らなければならないほどには……」
 縋る、とロビンは言った。それほどまでに、の中でローという存在は大きいのだろうとサンジは思う。
「アイツも苦労してンだな……」
「そうね」
「トラ男も相当、入れこんでいるようだし」
「えぇ…、コックさんにもわかる?」
 あぁ、とサンジは頷きながらポケットから煙草を取り出す。
「コックとして、トラ男はあいつを認めてる。だが、あいつは自分で自分を拒否してた。……自分や仲間を信じて作れねぇコックは最低だ。――元々、料理は好きだっただんだろう、調味料だけで何をどうすればいいか判断できるし、手際もいい。鼻も正確だし、料理人としては一流に値すると俺は思う」
 煙草の煙を吐き出し、サンジはローとが去って行った先を眺めつつ、言葉を続ける。

 『お前は自分をもっと認めるべきだ。――お前は、ハートの海賊団の『コック』だ。黒足屋は確かに誰から見ても『凄い』コックかもしれないが、俺たちが望んでいるのは『それ』じゃない。お前が、お前らしく……偽りない姿で居てこそだ。うちの海賊団でのコックの位置を忘れたか?』

「一流、凄いコック――そういったものをトラ男は必要としていない。偽りない姿で……それがハートの海賊団の、コックの在り方のようだ。わかっていても、力には憧れる。クソ高い理想なんて必要ないのはわかってる、それでも上を見ちまう」
 俺だって同じさ、とサンジは胸中を吐き出し、苦く笑う。
「コックさんも、なのね」
「そうさ。その思いが大きいか、小さいかの違いだけだ」
 自分はルフィのために強くなりたいと願い、そして、更なる力を手に入れた。『強さ』の定義など、人それぞれだ。自分の思う『強さ』を身につければいい。
「なぁ! なぁ! アイツらも呼んでやろうぜ!!」
 ルフィがロビンとサンジに気付いて駆け寄ってくる。ルフィの言う『アイツら』とは誰か、考えるまでもない。
「それはいいわね。……彼らも陽気な人たちだから、楽しいかも」
「お前が言い出したんだ、責任もって呼んでこいよ」
 ルフィにサンジは言うと、銜え煙草のまま、宴の中心へ戻っていく。人数が増えれば料理も必要となる。それを確保するために、調理スペースへ足を向けた。










 ハートの海賊団の面々が次々と姿を現わす中、ローとだけは姿を見せなかった。一緒に酒を酌み交わす中ゾロがペンギンに聞けば、今は手が離せないからと言うだけだった。
「時間が出来れば来ると思うけど、どうかなぁ」
 船長が離すかどうか……。
 ペンギンは胸中で呟くだけに留め、表情に出すことはしない。





 はこの島に来てから随分と心が乱れていた。そんな雰囲気のを、キャプテンが見逃すはずがない。自分の胸を泣き場所に指定したのは自ら望んだことで、ましてや、キャプテンはに恋愛感情を抱いている。仲間に嫉妬するほどに、のことが好きなのだから。
 昼間からアルコールを飲むは珍しく、隣にキャプテンがいたから彼女はきっと躊躇いなく飲むことができたのだろう。それに、ニコ・ロビンと過去が似ているらしく、それで情緒不安定なのだとさっきキャプテンから聞いた。
 キャプテンに呼ばれて船長室に行けば、は泣き疲れたのか、キャプテンの腕の中で眠っていた。眠るの姿を視界に入れたまま、キャプテンから事の次第を聞いた。はまだ悪夢に囚われている。キャプテンやハートのクルーたちと一緒に居て随分と解放されてきているとはいえ、それでも悪夢を完全に払拭するには時間がかかるはず。
『麦わらたちが宴に誘ってきてますが、どうしますか?』
『お前らだけで行って来い。が起きたあと、様子をみて大丈夫そうだったら後で行く』
『わかりました。ただ、は兎も角、キャプテンは顔ぐらいは見せにきてください。麦わらがここに乗り込んでくる可能性もありますから』
 自分の気持ちに忠実な麦わらは、その行動力が半端ない。考えなしにこの船に乗って引っ掻きまわされた挙句、今のこの状況を見られたら大変なことになる。そのことがわかっているのか、面倒そうな表情をして、キャプテンは「わかった」とだけ言った。





 ペンギンはローとの会話を思い出しながら、ゾロと杯を酌み交わす。
は来ないのか?」
「今は手が離せないから……来れるようなら来ると思う。俺たちは先に来たから、後のことはわからない」
 曖昧な言い方をして、ペンギンは答えを濁した。実際、が来るかどうか、それは本人次第。
「あいつ、また強くなっていそうだな」
「強くはなってるだろうが、あんたには敵わねえと思うぞ?」
に体力があればなぁ……」
「そればかりは限界があるだろう?」
 なんせ、は女だ。根本的に違うのだから、ゾロのような体力を得るのは難しいだろう。
「まぁ、ナミやロビンよりか体力はある方だが」
 ゾロが酒を手酌しながらそう言う。比較対象が女性2人ということは、が女であると知っているのだろうか。
「言っておくが、が女だって知ってるのは、ロビンとナミ、チョッパーと俺ぐらいだ」
「ありがとう、すまないな」
 ペンギンがそう言えば、おまえら変わってるなと笑われた。多分、ありがとうと言ったからだろう。
「ルフィやサンジにはバラさない方がいい。ルフィはアレだし、アホコックは女とわかれば態度でバレちまうからなァ」
 確かに、とペンギンは頷く。
「デキてるってぇのは、チョッパーは知らないがな」
 そこまでバレているのか、とペンギンは嘆息する。外でべたべたしない2人なんだけどなぁと胸中で呟けば、それがわかったのか、ゾロが苦笑いした。
「他の奴らは気づかねぇと思うぜ。ロビンだから気づいた。あとはまあ、ロビンが口の堅いクルーにだけ話したってコトだな」
「それなら、俺がここで喋ったことも……酔っ払いの世迷言として片付けてもらえそうだな」
「あァ、酔っ払いの喋りなんか気にしてたら酒が不味くなる」
 言質は取ったとペンギンは言い、酒を煽る。
がここにくるかどうか、正直なところわからない。自分の過去を昇華できてないからな。ずっと自分を責め続けて、自分1人で立つことばかり考えて、仲間に甘えることが出来ないんだ。……アレでもマシになった方さ。自分の全てをさらけ出して甘えられるのは、今のところキャプテンだけだ」
 寂しいけどな。
 最後にぽつりと呟けば、ゾロが自分の後ろにあった酒を手に取り開けると、空っぽになっていたペンギンのジョッキに注いだ。
「飲めよ。俺から見りゃ、あんたにも充分甘えてる。一緒に笑って戦って。背中預けるなんて、信頼がなきゃ出来ねぇだろ?」
 ペンギンはジョッキの中身を煽ると、そうか、と帽子に隠れた目を嬉しそうに細めた。










「行くんですか?」
 はソファに腰掛けたまま、腰をあげたローを見やる。
「麦わら屋に船まで来られちゃ迷惑だから、顔だけは出せと言われた」
 ローにそう言ったのはペンギンだ。
「おまえはどうする? 強制はしない」
「行きます。ペンギンたちにもちゃんとした姿を見せないと」
「そうか。無理はするなよ」
「わかってます」
 ローの胸を借りて散々泣き、その腕の中で眠った。今はすっきりしている。だから、麦わら海賊団のメンバーに会っても大丈夫だ。
「キャプテン、ありがとうございます」
 こつり、と長刀の柄で軽くを叩くと、ローは船長室のドアに手をかけた。










 ローは広場に行くと、とりあえず麦わらのところへ顔を出しに行く。はそれを見送り、広場をぐるりと見渡した。
 探し人はすぐに見つかった。
「ペンギン、上機嫌だね」
 隣にはゾロがいて、酒瓶があちこちに転がっていた。
、大丈夫か?」
「ありがとう、もう大丈夫。キャプテンも来たから、あとで来ると思う」
「りょーかい」
「なんか食べたいもの、ある?」
「カレー食いたい」
 カレーは船に戻ったらね。
 は言って、中央付近にあるキッチン台を見る。食材は山のようにあるし、調味料もありそうだ。
「適当に作ってくるよ。……いくら強くても、酒ばっかりだと悪酔いするから」
 はキッチン台まで行くと、そこにいたサンジに声をかける。
「ここにある食材は勝手に使っていいのか?」
「あぁ、大丈夫だ」
 の視界に白米が入った。
「調理器具、借りるよ」
「それはこの島のモンだ、大事に使ってやってくれ」
「了解」










 は深皿に数個だけのせて、ローに声をかける。
「呑んでますね」
 ルフィはいなかったが、ウソップやチョッパーがそこにいた。
 ローは無言のままに視線を向け、その手にあった皿を受け取るべく手を出した。その手に乗せたものは、白米を甘辛く味付けた肉で巻いたものだ。
「わーっ! 美味そうだなぁ!!」
 ウソップが言えば、ローが持つ皿のまわりに麦わら海賊団のクルーが集まってくる。
「あっちにまだたくさんあるよ。たくさん作ったつもりだけど、足りなかったかなぁ」
 が指さし言った途端、ウソップたちは走って行ってしまった。その後ろ姿を眺めつつ、ゆっくりこちらにやってきたロビンにもう片手に持っていた皿を差し出した。
「あら、美味しそう」
「ウチでは出さないから自信はないけど、よかったら食べてくれ」
「ふふ…、ありがとう。いただくわ」
 はロビンへサンドイッチを手渡したあと、ローの食べ終わった皿を差し出されたまま受け取った。当たり前のように流れた行為に、ロビンは微笑ましく思う。
「もう少し食べといたほうが良さそうですね」
 ローのジョッキの中身を確認すると、はそう言って去っていく。しばらくして、は湯気のたつドリアを持ってきた。
「小さめにしてきたんで、ちゃんと全部食べてくださいね。貴女の分もあるから、よかったらどうぞ」
 熱いから気をつけて。
 前半はローに、後半はロビンに言うと、はすぐにペンギンのところへ向かう。
「熱々持ってきたよ」
 先ほど、ローに渡した肉巻きおにぎりと、少し小さめのドリア。ゾロが食べるかどうかはわからなかったが、念のため持ってきた。
「うまそっ!!」
 ペンギンの前に2つ並べて置くと、ゾロが覗き込む。
「どうぞ」
 ゾロの前にも同じものを置きながら、熱いから気をつけて、と注意してから次へ向かう。
 ベポやシャチ、他のハートのクルーたちにも食事を給仕しながら、ルフィにせがまれて肉巻きおにぎりを大量生産する。
「うんめー!!」
 口いっぱい頬張る姿を見ながら、は自然と笑っていた。










「もう大丈夫そうね」
「あぁ……迷惑かけたな」
 ロビンがに近づき言った。
「迷惑だなんて思っていないわ。、と呼んでいいかしら」
「いいよ。じゃあ、オレもロビンって呼んでいいかな」
「もちろんよ」
 はキッチン台の横に、近くにあった椅子を持ってきてロビンに座るよう促す。
「ありがとう」
 そこへ座ったロビンを、は見やる。
「もうそろそろコーヒーが欲しいんじゃない? 酒ばっかり飲むの、苦手だろう?」
「うちのコックさんもだけれど、人の表情を読むのが得意なのね」
「得意ってわけじゃないけど、まぁ、職業柄ね。酒ばっかり飲んであまり食べない人が近くにいるから」
「ふふふ……誰のことかしらね?」
 ロビンは笑って、視線をから自分の隣へと移動させる。そこには、ローが立っていた。
 無表情のまま無言で立つローに、は近くから椅子を持ってきてロビンの横に座らせた。それからぐるりとあたりを見渡して。
「もうそろそろ限界なのがいるね。やっぱりコーヒーと紅茶と……ジュースかな」
 は呟いてから、コーヒー豆を取り出した。










 コーヒーの匂いに誘われたのか、の元へ少しずつ人数が集まってきていた。
 街の人だけではなく、その中に麦わら海賊団やハートの海賊団のクルーも混じっている。そこへ、サンジがロールケーキを沢山作って持ってきた。
、もう一杯貰えるかしら」
「ちょっと待ってて。ベポ、これお願い。ベポの分とチョッパーのな」
「アイアイ~!」
「シャチ~! ごめん、ちょっとコレ、お願い」
 コーヒーを幾つかトレイにのせて、シャチにウソップたちの方へ持っていってもらえるよう頼んでから、ようやくロビンの追加分を作り始める。
「キャプテン、どうします?」
「もらう」
「了解です」
 様子を見に来たペンギンはの隣に立つと、手伝うよと言ってコーヒーカップを並べ始める。
「ありがとう、助かる」
 コーヒーの上に泡立てたミルクをのせると、は爪楊枝を手に取りスルスルと何かを書いていく。
「器用ね。飲むのがもったいなくなるわ」
 ロビンに出されたコーヒーのミルクの上に、麦わら海賊団のマークが描かれていた。
 ローの出すコーヒーはブラックのため、普通のものだ。ペンギンに出したものは、ロビンと同じようにミルクのあるもので、ペンギンの絵。
 そして。
「俺にもくれ」
 煙草の煙を燻らせて、サンジが言った。
「わかった」
 の返事を聞いてから、サンジはそこにいたロビンやローにもロールケーキを配る。パン嫌いのローも、サンジから配られたロールケーキは食べるようだ。それがなんだか可笑しくて、は声を出さずに笑った。気配で察したローが睨んでくるが、怖くはない。
「お前も食えよ」
 サンジがの前にも同じロールケーキを置いた。
「そこに座ってろ」
 がローとロビンとサンジにコーヒーを淹れ終わったところで、今度はサンジがにコーヒーを入れてくれるようだ。
 言われたとおり腰をおろすと、サンジの指が動く様を眺める。コーヒーを入れるサンジの指を眺めながら、料理をする指を見るのがやっぱり好きだと思う。
 は一口分をフォークで切り分け、掬い上げて口の中に入れる。その様子を、サンジはコーヒーを入れながら眺めやる。ローは自分の向かいに座ったを、コーヒーを飲みながら見つめた。
 咀嚼して飲み込んだは、嬉しそうに灰色の瞳を細めて笑った。
 サンジから出されたコーヒーを受け取りミルクだけを入れて一口飲むと、彼女は見られていることに気づいて明後日の方を向いた。
「美味いね。オレ、デザート類は得意じゃなくてさ」
 クッキーのような焼き菓子は何度か作ったことがあるが、スポンジ生地を作る工程を見たことがないのだ。
「ここにいる間なら教えるぜ?」
「キャプテン、いいですか?」
「あぁ、ウチを優先するならな」
「ハートの海賊団が優先なのは当たり前ですよ。一回、最初から最後まで工程をみたら大丈夫だから」
 前半はローに、後半はサンジに向けて。
「好きにしろ」
 ローの言葉の裏に嫉妬が混じっているのかもしれなかったが、はそれに気づいた風もない。
 ロビンはそれに気づきローへと視線を投げかけたが、彼は素知らぬ顔でコーヒーを飲んだ。