『トラ男から連絡なんて珍しいわね』
「用があるのは俺じゃない」
『じゃあ、ね』
はじめからわかっていたのだろう、ナミは驚く風もない。
ローはに、こっちへ来いと視線だけで言った。
「ナミ、悪いな。まわりは誰もいない?」
『あと少ししたらサンジくんが来ると思うわ。だから、手短にね』
「わかった。……あの、キャプテン?」
「あ?」
「あの、ですね……」
「今更だろう」
は1人で相談したいと思うが、ローはその場から離れようとしない。
『ほんと、今更ね。それで? トラ男とデートでもしたいの?』
「でっ……っ!」
ぱあっ、という音がつきそうなほど耳まで真っ赤にしたは、口を押さえて固まった。
『前にわたしがあげた服は着れないんでしょ? 服とウイッグが必要?』
「いや、服はある」
『スカートはないけど、レディースの服はあるのね。わかった、に合うものを送るわ』
そんな会話をしてから数日後、ハートの海賊団は春島に到着していた。この島のログは3日。その3日間、外へ出るときはローと一緒で、更にどこからどう見ても女性にしか見えない姿をしていた。
目の前で繰り広げられているローらしくない行動は、徐々にこの海賊団に浸透しつつある。
ハートの海賊団にいる数少ない同性の仲間たちは、を着飾ることができて嬉しそうだ。前々から彼女をいじって遊びたかったそうで、ローの許可がおりるわけがないと半ばあきらめていたようだ。
1日目は、スカートがないためにとりあえず一番女らしい恰好を目指し、デニムに白シャツのシンプルスタイルで、シャツはとろみ素材。明るい茶色の髪をふわりとさせて、もちろん、眼鏡などはかけさせない。鞄や閃雷やナイフも持たせない。ローが常に傍にいるので、襲われたとしても心配ないだろう。
甲板から降りる際に、ローはの手を握って引き寄せ、能力を発動させた。
それを眺めながら、ペンギンは苦笑する。まわりにいた、二人の動向が気になった仲間たちも、彼と同じような表情だった。
皆の思いはひとつ。
能力の無駄遣い……。
降り立った島は、比較的大きい。
の右手はローの左手と繋がれていて、いつもと違ってドキドキする。
「とりあえず、服だな」
「ホントに買うんですか?」
「買うのが嫌なら、ナミ屋に貰った服を着るか?」
「…………………買います」
ナミから随分前に貰った服があるが、彼女の趣味趣向が存分に発揮されている、彼女らしい服ばかりだ。のためを思って少しばかり大人しいものを選んでいるようだったが、それも本当に『少しばかり』だ。到底が平常で着れる服ではない。
ハートの海賊団の船に乗る際に持っていた服はすべて男物で、下着は女性物であっても適当に買ったものばかりだった。そして、量も少なかった。見かねたローがの服を、下着を含めてローが買った。それから半年以上経ったが、自分で買い足したりしていないようだ。
ブティックへ入ると、慣れない雰囲気に一歩下がってしまう。それを後ろから入ってきたローに止められた。
「お前の好みを取り入れると、この姿の意味がねぇな」
そうへ小声で言うと、ローはを引き連れて店の奥まで入っていく。目当てのものを発見したのか、ローはぐるりとあたりを見渡したあと、店員を呼んだ。
彼は店員に上から下までのコーディネートを2着分頼むと、その店員はへ試着室へ促した。
しばらくして、試着室から顔だけをのぞかせたは、困ったように眉を寄せた。
「これ、着ないとダメですか?」
店内を見渡していたローは、そういうへ大きな歩幅で近づき、試着室のカーテンを開けた。
「あぁ、思った通りだ」
彼は自分の思い通りであったことに満足気だ。
「お前は無駄な筋肉も脂肪もない。姿勢もちゃんとしてるからな、きっと似合うと思った」
デニムのショートパンツに、袖がシースルーになっている白いブラウス。足元は黒い短い靴下をはかされている。
「素足だと撫でたくなるな」
「セクハラ発言禁止!」
真っ赤なにくつりと喉の奥で笑い、カーテンを閉める。
次にが着せられたのは、オフホワイトのニットワンピース。膝丈のロングブーツをはかされている。
「何で短いのばっかり……」
「持ってるやつを買っても意味がない。それに、さっきのならショートパンツはツナギの下でも着れるし、今のそれも、下にデニムを穿けば外も普通に歩けるだろうが。上下のどっちかが普通に着られるんだ、文句ねぇだろ」
天気のいい今日は、試着しているニットワンピースでも問題ないだろう。
ローは値札を切るように店員に言い、残りを受け取り、そのまま船の自室まで能力で移動させてしまう。
ニットワンピースの裾とロングブーツとの間に見える肌を見て、ローは口元を緩める。素足を他の男たちに見せるのは癪で、ストッキングを履かせた。ラメ入りのそれが光に反射して、それもまたローの口元を緩める要因となっている。
店を出て歩き出すと、はローを見上げた。
「どうした?」
「あの……視線が痛いんですけど」
「放っておけ。お前の姿に見とれてるだけだ」
「えっ」
耳まで赤くしたに、彼は目を細める。
「どこまで俺を煽ったら気が済むんだ、てめぇは。このまま喰っちまうぞ?」
不機嫌なオーラを出して低く言われて、彼女はびくりと肩を震わせる。
「――あァ……悪かった」
「だ、大丈夫、です」
不機嫌なのはいつものことだからびっくりしたが気にしていない。だがすぐに謝られるのははじめてで、どちらかと言えば、そちらの方に驚いてしまった。
歩きなれないブーツに自然とゆっくりとした歩みになるに合わせながら、ローははじめて見る女性らしい姿を見下ろす。
――本気で喰っちまいたい……。
胸中で苦く呟きながらも視線を周囲へ向ける。自分が傍に居て手を繋いでいるからにちょっかいをかけることはないだろうが、それでも用心に越したことはない。
「次は本屋だな」
「はい。ローはやっぱり医術の本を?」
「まあ、他に気になるものがあったら買うが……今日はお前の本が目的だ。俺は別に急ぎやしねぇしな」
「部屋にあるのも、難しい本ばっかりですもんね」
「簡単なのもある」
「ローの簡単なものが、果たして常人にも簡単なものなのかわかりませんけどね」
「言うようになったな」
くくく、と楽しそうに笑ったローは目的地である本屋まで、手を繋いでいた指を解いて、の腰にその指を回していた。本屋に着くまでの間、はその指に、情けないほど真っ赤になっていたのだった。
本屋の中では、の腰にあった指はないが、片時も離れることはない。
「ローは何も買わないんですか?」
「あぁ、どうせ急ぐものでもないしな。それに、俺は本屋で自分のものを探すときに、まわりが見えなくなることがあるからな」
知識をつけることが自分の能力となるローは、時間があれば本を読む。医術だけではなく、自分が必要と感じたものは読むことにしているようだ。
小説を手に取ったはローに促されるまま、本屋の奥へと足を運ぶ。なぜこんな場所に、と彼女は思う。
「部屋に航海術の本がある。その次に読むのがこれだ」
彼の刺青の入った長い指が、上の方にあった本を取っての眼前におろす。無意識に手を出した彼女にそれを渡して、次に、それの向かいにある棚から一冊の本を手に取り、それをまたの手の乗せた。
表紙には、子供にもわかる薬の本、とタイトルがあった。
「ロー?」
「航海術を勉強したいんだろう? まぁ、完璧にするのは無理だが、基礎ぐらいは頭に入れておいた方がいい。医術については……仲間がある程度手伝いができるから、できれば薬学を覚えて欲しい。これは俺の希望だ、無理にとは言わないが」
「知ってたんですね」
「航海術は、おまえがベポと一緒に操舵室に入っているのを何度か見たからな。見てるだけでもと思ったんだろう?」
万が一、というわけではなく、コック以外に、何か役にたてないかと思ったからだ。航海術ならば、みんなの休憩中だけでも交代できるだろうと。
薬学は少し気になってはいたが、素人が手出しをするのは嫌なのではないかと思っていた。
「俺のそばで、俺のためにいてくれ」
の手にある本をローは片手で持つと、彼女の左手を持って自分の唇へと近づける。
「あっ、あのっ、何を……っ!」
戸惑う彼女の手のひらに唇を落とす。
「俺がこんなに欲しいと思うのはお前だけだ」
「こういうことは帰ってからにしてください……っ!」
ここが本屋の中だということを思い出したが、小さく訴える。それにローはしてやったりと笑う。その笑みに、人に見られることまで計算の上だったことに気づく。
「もうっ! これ以上どうするつもりですか!?」
「俺から逃げられないようにするだけだが?」
「逃げないですよ!? っていうか、逃す気もないでしょ!?」
はまたも小声で訴える。それにニヤリと笑ったローは、真っ赤になったままのの腰に指をまわし逃げられないようにしてから、本屋の出入り口へ向かい、支払いを済ませる。
「船に戻るか」
「はい。……今夜はどうするんです?」
「そのままで酒場だな」
「え!? このまま?」
「お前の足を他の奴らに見せるのは嫌だが、俺に近寄る女の牽制になるだろう」
自分がいなければ、女が寄ってくると自慢したいのか。
「引く手数多でいいじゃないですか」
少しムカついて吐き捨てるように言えば、彼は嬉しそうに目を細めた。
「お前がいないんじゃ意味がねぇ」
それにな、と彼は言葉を続ける。
「俺の女だと認識させるために、わざわざ目立つようなことやってんだ。本当は、このまま船の中で独占してぇ」
「え? そうだったんですか?」
――だから、いつもしない甘々具合だったんですね……。
そう言いながら恋人繋ぎをしたローは、ここまで言うつもりはなかったのにとため息をついた。
「恋愛ごとに関しては本当に苦手だな、お前は」
「恋愛する余裕なんてなかったし……」
「まぁ、そのお陰で俺は随分楽しい思いをさせてもらっているがな」
「楽しい……?」
「あぁ。お前は誰の色にも染まっていなかったからな、一から全部、俺が育てることが出来ると思ったら楽しくて仕方ない」
その言葉に、は耳まで真っ赤にして、俯いてしまった。
「覚悟しろよ?」
くくく、とローは楽しそうに笑い、彼女の繋いだ指に視線を落とした。
その格好のまま、は街の酒場まで行くことになった。彼女の両脇には、ローとベポがいる。
酒場は仲間が全員入ってもまだ余裕がある。広い酒場を好まないローだったが、この街では狭い方だ。
カウンターに座ったローを見やり、は自分はどうしたらいいのかと店内を見渡す。いや、ローの隣に座るのがいいのだろうが、当たり前のように座るのもどうかと思ったのだ。
彼を見れば視線で左隣に座るように促される。
座れば短いニットのワンピースとロングブーツの隙間から、素足が更に出てしまう。それが恥ずかしくて浅めに腰をかければ、それを見たローがニヤリと笑ってその腰に腕を回した。
「わっ……!」
回された腕で深く座らされる。
「この方が俺の好みだ」
「もうっ!」
「、持ってきたよーっ!」
ベポが嬉しそうな声音で皿をカウンターに置いた。
「ありがとう」
皿の上にある料理はどれも味が濃い目の、まさしくお酒に合いそうなものばかりだ。テーブルにある料理を少しずつ乗せられた皿を用意したのはペンギンで、それをベポが運んできたのたろう。
その皿の上からチーズをつまんだローは、そのまま自分の口に入れた。
文句を言わずに食べていることをみると、美味しいのだろう。もうひとつ指でつまむと、それをローはの口の前にかざした。
――食べろってこと!? 嫌がらせ!?
「口開けろ」
じとりと睨めば、ローは楽しそうな色を瞳に乗せたまま、ちらりと視線を横に向けた。と反対側であるローの右側に、いつの間にいたのかきらびやかな女性の姿。
諦めて口を開けば、そこに放り込まれる。
「ん! 美味し!」
ふんわりと口内に広がるチーズの味と香り。強すぎないそれは、好みだ。
「おまえの好きそうな味だと思った」
ローはコトリと小さな音をたてて置かれた店主に頼んでいた酒を、の前に置いた。
「いいんですか?」
ふ、とローは目を細めて笑う。それには目元を赤くする。
「ありがとうござい」
「ねぇ、船長さん」
の言葉尻を消すように被せた台詞に、ローがチラリと冷ややかな視線を向ける。ローの許可なく勝手に座ったその女性は、艶やかな口紅のひかれた唇を開いた。
「ここは貸切のはずだが?」
その言葉は、酒場の店主に向けられている。
「ですが、女性も必要でしょう?」
「頼んだ覚えはない」
「これも何かの縁でしょう?」
店主のかわりに女性が口を開く。
「そんな小娘より、私の方がよほどいい思いをさせてあげられるわ」
「こいつは特別だ、誰もかわりにならねぇ」
――オレはどうすればいいわけ?
困ったは仲間たちに視線を向けたが、仲間たち全員が首を横に振った。
――キャプテンに任せろってことか。
「お酒も強いわけでもなさそうだし」
胸の奥がちくりと痛む。どれだけ強くなりたいと願っても、これだけは体質で無理なのだ。
「関係ない奴は出て行け」
感情のない声音が、ローの唇から発せられた。
「その小娘も関係ない人間でしょ? 私だけなんて不公平だわ」
彼の言葉に負けない根性は素晴らしいと思うが、を小娘と言うのはマズイ。ローは自分の気に入らない人間には容赦しない。
「こいつは仲間だ、おまえとは違う」
「仲間? こんなに弱そうなのに?」
女性は立ち上がり、の前に立った。見下ろす視線を受け取り、は思案する。
――ここで殺気でも出せばいいのだろうか。
チラリとローを見れば、ひとり酒を煽っている。
――好きにしろ、でいいのかな。
「そういう貴女は当然、強いんですよね? 手合わせでもします? それとも……」
女性の方を見上げ口角を引き上げる。見上げた瞳には殺気をチラつかせた。びくりと女性が体を震わせ、一歩足を退く。
「殺し合いがいいですか?」
いままでの温和な雰囲気をがらりと変化させて、は女性を冷ややかな目で見上げた。
――守られることが当たり前だと思うことは出来ない。……ローを、守りたいんだ。
「野蛮な……!」
「今更ですね。キャプテンが何者か理解して隣に座ったんでしょう?」
の言葉に、女性は蒼白になる。ローとの今までの会話で、ここまで攻撃的な言葉が出てくるとは想像できなかったのだろう。
「去れ。俺の前に姿を見せるな」
ローは背中を向けたまま吐き捨てる。それから、彼は女性と同じように蒼白な顔を晒している店主へ視線を向けた。
腰を上げたローは、店主に投げていた視線をへ向け、その腰を抱き上げた。
「わっ、ロー、ちょっと待って!」
先ほどまで射殺せそうな雰囲気は霧散して、突然抱き上げられたことに、恥ずかしそうに文句を言っている。
「自分で歩けます! もう! いい加減にしてくださ……っ、んっ!」
文句を言う唇を塞がれて、は彼の胸を両手で押して唇を剥がそうとするが、そうすればするほど、ローの手と唇は彼女を離そうとはしなかった。
「っ、も、駄目! ん、みんな、いる、のに」
するりとストッキング越しの素足を撫でられて、の声が途切れてしまう。
「去れ、と言わなかったか? ――それとも、こいつと殺し合いでもしてみるか? ……こいつの戦闘は俺が教えたからな、エモノがなくても吹き飛ばされるぞ」
、小さく覇気を放ってやれ。
ローはの集中力を削ぐように、素足を撫でまわす。
「んっ、駄目ですって。……手、動かさないで」
「集中したらお前、仲間まで動けなくさせちまうだろうが」
「っ、どうなっても、知りませんからね」
目の前にいる女性とカウンターにいる店主に向けて覇気を放つ。
「見た目じゃねぇんだ、力は」
覇気は威圧を増して、歯が噛み合わなくなった2人の息づかいだけが響く。
「声も出せねぇか。……これに懲りたら、海賊相手に喧嘩を売らねえことだ。それがたとえ、自分より弱そうに見えてもな」
ローは言いつつ、の首に唇を押し付けた。
「……っ! んっ、も、やり過ぎっ」
大人しくされるがままなのは、見せつけるためだとわかっているからだ。
「ペンギン、あとは任せる」
「了解です」
ペンギンへそう言って、ローは片腕に抱き上げたまま、右手にあった長刀をへ預けた。
「歩けます!」
「俺の好きにさせろ」
もう! とは諦めたように吐き捨て、預かった長刀を大事に抱えて、ローの腕に抱き上げられたまま店をあとにする。
店内に残された仲間たちは、覇気にあてられた2人を呆れたように見やっている。
「出港は予定通り、それまでは各自、自由だ。船番も変更なし。――解散!」
ペンギンの声に、仲間たちはわらわらと外へ出て行く。残ったのは、あとを任されたペンギンと、それを補佐しようと自ら残ったシャチ。
「さてと。呆けてないで、会計を頼むよ」
「え?」
「え? じゃねえよ。俺ら、この店で食ったんだから払うの、当たり前だろ?」
ペンギンの言葉に店主が声をあげれば、それにシャチが返す。
「あんたらが海賊をどう思ってるかは知らないが、俺たちは、俺たちに被害がなけりゃ喧嘩も略奪もしない。あんたらが善人の殻を被った悪人だったら対処も変わるが、そこまでじゃなさそうだしな」
「さっきのは、どう考えてもあんたらが悪い。貸し切りにしてもらってるけどその分の上乗せもしてんのに、店主はその女を無断で店に入れて、キャプテンの大事なあの娘にちょっかい出したんだから」
ペンギン、シャチの言葉に、店主はようやく理解したのだろう、ノロノロとではあるが会計準備をはじめた。
「ちゃんと、はじめに決めた通り支払うから、値引きとかするなよ?」
「そうそう、あとでキャプテンに怒られるのは俺らなんだから。……それから」
10人中9人は綺麗だと評価するだろう彼女へ、シャチは言葉を続ける。
「綺麗だって言われてきただろうけど、それが誰にでも通用すると思わない方がいいよ。あんたの背景は興味ないけど、キャプテンは優しい方だ。もっと残虐で、もっと卑劣な奴もたくさんいる。同じ方法が誰にでも通用するわけじゃない。相手をちゃんと見て、相手の情報を得てから近寄るか決めた方がいい。……もちろん、店主もな」
支払いの終わったペンギンと一緒に店を出ると、シャチは宿屋へと足を向ける。
「あれ? 出掛けないのか?」
「今日は気分じゃないから、帰って寝る」
「じゃあ、俺に付き合うか? 昼間に美味そうな酒を買ってるんだ。こんなことになるだろうとは予想してたからな」
「あぁ、いいな。俺も船から持ってきた酒、あるんだ。ついでに、ツマミもある」
2人で顔を見合わせて、苦く笑う。
「そのツマミ、のだろ?」
「あぁ、やっぱりお前もか」
船が着く前に、はペンギンとシャチに酒のツマミになるような料理を作り置きしていた。その保管場所を、2人にだけ言っていたのだ。
「明日もあの調子でキャプテンは見せびらかせに街を歩くだろうし、は災難だな」
「目的は、キャプテンが大事にしている『女』がいるってコトを『見せる』ことだからなぁ」
あたりに誰もいないのはわかっているが、それでも小声でシャチが言えば、同じように小声で、ペンギンの返答。
「それをやってる間、キャプテンはそれに乗じて手ぇ出しまくってるし」
「あのキャプテンをあそこまでさせるあいつはスゲェよ、マジで」
再度、2人は顔を見合わせ、笑いあう。
「明日の夜まであの調子だろ、今のうちに気ィ抜いておこうぜ」
2人は星空を見上げて、目を細めた。
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