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爆発的 七つの箱の死/鳥飼否宇

2008年発表 (双葉社)
「黒くぬれ! あるいは、ピクチャーズ・アバウト・ファッキング」

 犯人ではなく“トニー”の死体の損壊状況がポイントとなっていますが、男性器が切り取られたと見せて性転換手術が発覚するところからして、いきなり作者の術中にはまってしまう感があります。最終的には、須手部有美が“どこまで常人離れしているのか”が読めないために、結末が見えにくくなっているのが面白いところです。

「青い影 ないしは、ノーサイドインサイド」

 出口日多尊の落下だけならともかく、堀手蘭が持っていた剣が自らの体を貫いた点は、第三者によるトリックを想定する余地が見当たらないので、無理心中という真相はかなり見えやすくなっていると思います。

 蘭の立場からすれば、いかにして出口を天井から落下させるかがポイントになってくるわけですが、散々切れたロープをクローズアップした挙げ句に、ハイイロゴケグモという無茶な小道具を持ち出してくるあたりが何ともいえません。

「グレイとピンクの地 もしくは、ウィッシュ・ウィー・ワー・ヒア」

 男女の双子なので入れ替わりトリックは成立せず、となれば、志度場礼人ならずとも一人二役トリックを疑いたくなるのは必定でしょう。そして、その志度場の仮説、谷村警部補の仮説、さらに最後に明らかになる真相と、多少の違いはあるもののいずれも一人二役トリックの範疇を超えるものではないため、真相にさしたる衝撃はありません。

「白日夢 さもなくば、エレクトロニック・ストーム」

 秘密の抜け穴に加えて、スピーカーの中に隠れるという、何ともぬけぬけとしたトリックに思わず脱力。犯人や動機よりも、自分の声が聞こえないことで発言の記憶までがあいまいになるという不条理な状況が印象に残ります。

「赤い露光 でなければ、ソルジャー・ウォーク」

 当初は毒殺をめぐるハウダニットであるかのように思わせて、実は東風村のパフォーマンスの意味が最大の謎であるという、ひねくれたプロットが見事です。

 “自ら肉弾となって”(260頁)(←肉団子のダジャレか?)敵を討つパフォーマンスは壮絶ですが、さすがに東風村独りではなし得ないのは明らかで、真相に気づいたのが谷村警部補らであれば共犯者の追及は免れないところでしょう。というわけで、警察とは別の視点として星野万太郎が用意されているのが巧妙なところです。

 なお、浅野由奈が東風村のことを谷村警部補らに告げているのは、最後のエピソードで明らかになる真相のことを考えると危険すぎるようにも思われますが、パフォーマンスの意味を“観客”に気づかせるためには、必要不可欠の行為だったということでしょうか。

「紫の煙 または、マシン・ヘッズ」

 秘密の抜け道を持ち出しておきながら、それが行き止まりだったという人を食った展開が秀逸。眼球を摘出して義眼型カメラに置き換えるという時点ですでに狂気の域に踏み込んでいるために、谷村警部補が解き明かした“真相”にも説得力が出ている感があります。

「紅王の宮殿 またの名を、デス・イン・セブン・ボクシーズ」

 行き止まりと見えた秘密の抜け道が行き止まりでなかった時点で、そこで見つかった白骨死体の主が設計者の藍田彪でないことは明らかですし、〈逆転美術館〉の意味がここで明らかになるであろうことを考えれば、藍田彪が何らかの形で事件に関わっていることも予測可能です。一方、“紅王の宮殿”という題名から、深紅の部屋に住む日暮百人(を名乗る人物)が黒幕であることも見え見えなので、“日暮百人”=藍田彪という真相にはさほどの驚きはないでしょう。“紅の処刑室”の存在と、浅野茂雄という意外すぎる犯人に、意表を突かれたのは確かですが……。

 ちなみに、カーター・ディクスン『五つの箱の死』をお読みになった方はお分かりのように、(以下伏せ字)思わず「誰だよ!」と突っ込んでしまいたくなるような、あまりにも想定外のところから登場してくる犯人(本書の場合には浅野茂雄)(ここまで)が、元ネタへのオマージュだと考えていいでしょう。

2008.06.20読了