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鬼女の鱗/泡坂妻夫

1988年発表 文春文庫 あ13-6(文藝春秋)
「目吉の死人形」
 死亡時刻を誤認させるトリックは面白いと思いますが、犯人がそのトリックを得意にしていたことまで調べがついているのであれば、もっと早い段階で捕まっているのが筋でしょう。

「柾木心中」
 水死体を完全に“もの”として扱った動機は面白いと思います。それにしても、長右衛門も意気地がないというか、中途半端というか。

「鬼女の鱗」
 “木の葉は森に隠せ”のパターンで、ありがちといえばありがちですが、「女道成寺」の彫物のイメージがやはり見事です。そして、比翼紋の彫物を隠しながらも堀田六郎の紋自体はそのまま残した白蘭の心境には胸を打たれます。

「辰巳菩薩」
 紅山に関する辰の推理はいただけません。まあ、そのために真相が一層際立っているともいえるのですが。

「伊万里の杯」
 辰がまったく謎解きに関わっていませんが、間違いなく真相は見抜いているでしょう。当人たちの思いを尊重して、表面的には別々の事件として扱ったのではないでしょうか。

「江戸桜小紋」
 冒頭で語られる窓香の足袋のエピソードがうまい伏線となっています。ここから“咲かず桜”や“六福神”へとつながる展開は、〈亜愛一郎シリーズ〉そのままといってもいいでしょう。

「改三分定銀」
 菊山の廓抜けと横浜の強盗という二つの事件が、掏摸によってつなげられたというところでしょうか。切られた髪の毛という手がかりを見逃さない辰の慧眼は、さすがというべきでしょう。

2001.05.31再読了

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