- 「朱房の鷹」
- 鷹の得意にしていた餌の受け渡しの芸が、辰の“解決”の伏線になっています。血のついた小石と鷹の羽がこの“解決”を直接裏付けるものとはいえませんが、鷹匠としてもそれなりの説明がつけば面子が保たれるということでしょう。
- 「笠秋草」
- “煙{けぶ}なし線香”と“希有{けぶ}な”を掛けた叙述トリックですが、辰には真相を隠す理由がないだけに、作者の企みがややあざとく感じられます。
- 「角平市松」
- 首切り殺人に関する辰の推理は考えすぎですが、面白い動機ではあると思います。特に辰としては、かつてあの事件((以下伏せ字)『鬼女の鱗』収録の「江戸桜小紋」(ここまで))があっただけに、ここまで考えてしまうのもやむを得ないでしょう。
- 「この手かさね」
- 辰が犯人を見逃した例はいくつかありますが、それらと比べてこの犯人に同情すべき点が少ないとはとても思えません。違いがあるとすれば被害者とのつながりの深さで、いずれ疑われることは必至であるため、かばいきれなかったということなのでしょうか。
- 「墓磨きの怪」
- 李朝の壷の行方には驚かされましたが、それを奪うための“墓磨き”という発想は秀逸です。しかも、犯人のアリバイも確保されていますし。
- 「天狗飛び」
- 〈亜愛一郎シリーズ〉にも通じるユニークな作品ですが、ここで描かれている動機は、現代よりもはるかに縁起を担ぐ江戸時代ならではのもので、捕者帳というジャンルをうまく生かしたものとなっています。
- 「にっころ河岸」
- 自殺するために鎧を重しとして使うというのは見事な発想です。
「鎧兜は無論、身を守るための具足だ。その反面、自分を殺す道具にもなる」 (241頁)という辰の台詞が鮮やかです。
- 「面影蛍」
- 淡々と思い出を語ってきた弥平ですが、終盤になると、突如としてその語りが破綻しています。茂吉に指摘されてもお由が死んだのを頑として認めない一方で、
「お由さんがなくなった後、あのころは飲んで飲んで、毎日を飲み暮らしたものです」 (262頁)と口を滑らせています。この突然の破綻は現実と願望の相克によるものですが、錯乱ともよべるほどのこの突然の変化が、弥平のお由に寄せる思いの強さをうかがわせます。
2001.06.06再読了
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