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交換殺人には向かない夜/東川篤哉 |
2005年発表 カッパ・ノベルス(光文社) |
題名に堂々と“交換殺人”と謳われているこの作品ですが、蓋を開けてみると、善通寺春彦の依頼で権藤一雄が善通寺夫人を殺し、権藤一雄との約束で善通寺春彦が権藤源治郎を殺したということで、ある一点を除いてごく真っ当な交換殺人の構図になっています。しかしその一点、すなわち二つの殺人の間に三年という月日が流れていることが、叙述トリックにより巧妙に隠されているところがよくできています。
特にうまいと思ったのが、(鵜飼・朱美)のパートと(刑事たち)のパートが交錯しているかのように見える場面(171頁〜173頁)です。鵜飼からの連絡を受けた砂川警部の
過去と現在を混同させる叙述トリックは、人物の誤認を引き起こすための手段として用いられることが多く、本書でも殺された善通寺幸子(過去)を依頼人の善通寺咲子(現在)と誤認させる仕掛けになっています。が、本書ではそこに、直接的に人物を誤認させる叙述トリックがさらに組み合わされ、より大きなサプライズを生み出しているところが見事です。 唯一残念なのは、場所を誤認させるトリックが不発気味なところでしょうか。文章でさらりと書かれても位置関係が把握しづらいので、さくらのような驚きは体験できませんでした。が、位置関係をわかりやすくするために地図を掲載すると、その中で善通寺家とひまわり荘の位置を図示しないのはかえって不自然になってしまうので、難しいところです。 2005.10.28読了 |
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