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海を見る人/小林泰三 |
2002年発表 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション(早川書房) |
一部の作品のみ。
- 「時計の中のレンズ」
- 世界の形状などについては、「あとがき」でも名前が挙げられているいろもの物理学者さん(ホームページ」)による「勝手に科学解説『海を見る人』」をご覧下さい。
ただ、依然としてわからないことがあります。“崑崙の稜線は南の空に浮かぶ横三十度、縦十五度に及ぶ巨大な楕円を形成していた” (21頁)と書かれていることから、地球(楕円体世界)は平原から見て楕円形になっているものと考えられます。これはどうも今ひとつ納得できないのですが……。
- 「天獄と地国」
- 本来は内側に住むべき円筒形コロニーの、外側で生活していたという恐ろしい状況です。コロニー自体の引力によるマイナス分を差し引いても、遠心力はおそらく地球上の重力加速度とほぼ同等にはなっていることでしょう。世界観の逆転が鮮やかです。
(2004.02.13追記)
SFを読み慣れていない方にはわかりにくいようなので、もう少し説明しておきます。
まず、“両手で大地を掴んでぶら下がる” (114頁)、“地面の近くまで上昇” (115頁)、さらに“天獄は足元に広がる無限の真空に対する恐怖の象徴” (136頁)といった記述から、この世界では大地が上、天、すなわち宇宙空間が下と認識されていることがわかります。これは、大地から宇宙空間に向かって物が落ちていく、つまり、“重力”が大地から宇宙空間へと向かう方向に働いているからなのです。
地球上での重力は、巨大な質量によって生じる、いわゆる“引力”なのですが、現象としては一定方向に9.8m/s2の加速度が与えられているにすぎないのですから、他の手段で同じ効果を生み出すことは可能です。というわけで、手っ取り早い代用手段が、回転によって生じる遠心力です。結局この世界は、遠心力を重力として代用しているため、“重力が内より外へと向かう世界” (129頁)となっているのです。
ここでカムロギは、“足を外側に向けていては、大地を踏みしめられない” (129頁)と反論していますが、これは彼らが生活する大地の外側の世界を想定しているからであって、実際には大地の内側の世界に居住するよう設計されているのです。
というようなことを書こうとしていたら、こちらのページを発見して愕然。私自身は計算まではしなかったので、これほど大スケールだとは思いもしませんでした。
ただ、この方はなぜか世界を球殻と考えていらっしゃるようなのですが、私はあくまでも円筒形(スケールを考慮すれば“リングワールド”(→L.ニーヴン『リングワールド』)と表現するのが適切でしょうか)だと思います。球殻であれば、回転軸からの距離、すなわち回転半径が場所により異なるため、“重力”が不均一になってしまうという問題があります。また、“『飛び地』も球形だから、同じことが起きそうなもんだが” (132頁)というカムロギの台詞は、裏を返せば世界が球形でないことを示しているとも考えられますし、“北限”や“南限”の存在(135頁)は、世界が南北方向(一般に回転軸の方向です)において不連続な形状であることを示唆しているように思えます。
- 「母と子と渦を旋る冒険」
- 物理現象はさておき、“純一郎君”たちが『AΩ[アルファ・オメガ]』のアレとかなり似ているのが気になります(その割に“人間”という言葉が使われているのがまた悩ましいところですが)。
- 「海を見る人」
- カバーイラストはイメージかと思いきや、ラストシーンそのままなのが驚きです。
- 「門」
- 344頁の
“今度はわたしが苺ミルフィーユを奢ってあげる” という台詞を考えると、作品の合間で会話を交わす二人はやはり、異なる時間線で出会った“僕”と艦長なのでしょうか。
2002.05.29読了
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