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切り裂かれたミンクコート事件/J.アンダースン

The Affair of the Mutilated Mink Coat/J.Anderson

1981年発表 山本俊子訳 扶桑社文庫ア8-2(扶桑社)

 話を始めてから二分とたたないうちに犯人を見抜いたというウィルキンズ主任警部の、“死体のそばに凶器を持って立っていた、という状況からわたしが直感的に感じるのは、その男が犯人だ、ということです。(中略)そういうことはミステリー小説なら出てくるかもしれませんが、実際には起こりにくいことですよ。”(503頁〜504頁)という、“ミステリー小説”にはあるまじき逆説的なロジックが見事です。

 もちろん、まず最初に自分に疑惑を向けて逮捕させるというカーターの計画も逆説的ですが、それを見越してカーターが犯人と知りながら放免してしまうウィルキンズの逆説的な作戦の方が一枚上でした。そしてもう一つ、前作『血のついたエッグ・コージイ』の“アレ”をどうしても連想してしまう最後の愉快な告白もまた、実に抜け目がなく見事といわざるを得ません(笑)。

 雪の中、ガス欠で立ち往生した状況から走って戻ってくるというアリバイトリックは、やはりバカトリックというべきでしょうか。インパクトに欠けるきらいはあるものの、シンプルかつ大胆すぎる発想のトリックは、本書の雰囲気に見事にはまっています。

 驚くほど大ボリュームの解決場面、さらにエピローグ的な最終章では、ほとんどの滞在客の隠された真の姿が次々と明らかになっていきます(大きな変化がないのはアーリントン・ギルバートぐらいか?)。ついでにいえば、ロンドン警視庁の“スリー・グレートA”の一人であるオールグッド主任警視までも、完全にメッキがはがれてしまうという徹底ぶり。“多重解決”というにはややお粗末な感もありますが、どんでん返しと笑いに満ちた、実に楽しい結末です。

2006.12.05読了

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