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くノ一死ににゆく/山田風太郎

2004年刊 山田風太郎忍法帖短篇全集4 ちくま文庫 や22-19(筑摩書房)

 一部の作品のみ。

「逆艪試合」
 あまりにも人を喰った物語であるために、忍法帖であることをうっかり忘れてしまっていたのですが、絵太夫右近の遺書という形で示される真相は非常に鮮やかです。

「膜試合」
 本文130頁あたりでは“忍法膜封印”は八方斎のでまかせとも思えるのですが、その後の展開からはどうやら本当らしくも思えます。最後にはやはり八方斎のはったりにすぎなかったことが明かされるのですが、それならば瓦半九郎と神坂外記の体に生じた異変はどういうことなのか。真相は定かでないまま、ただ奇妙な味だけが残ります。

「麺棒試合」
 最初の婚礼で、嫁もしくは婿を迎える側が為す術もなくやられてしまったのは、やはり油断のゆえか。二度目の婚礼では、銅七郎も霞も勝手がわかっているだけに、“肉だわら”と“肉蝋燭”の全面対決となることまでは予想できるのですが、それが具体的にどのような結果につながるのかはまったく見当がつきません。最後に示されているのは、“肉蝋燭”で溶かされると同時に“肉だわら”でその体積を増した結果、“麺”のように細長く引き延ばされた銅七郎の“棒”の姿。それを腹に巻きつけて隠していた銅七郎にとって、勃起は命取りだったということでしょう。

「つばくろ試合」
 由比正雪の口から使者が偽者であることが(読者に対して)明かされているので、あとは柳生兵助らがどのような形でそれを知るかがメインになると思っていたのですが、兵助らを差し置いて月心坊が鮮やかに主役をかっさらう展開には、脱帽せざるを得ません。

「摸牌試合」
 浮き彫りの刺青、しかも鏡文字という手の込んだ設定が、実にうまく生かされています(余談ですが、この浮き彫りの転写は『信玄忍法帖』に登場する(以下伏せ字)六字花麿の忍法(ここまで)を思い起こさせます)。最後のオチは、“甲斐で見るより駿河一番”。秀康が駿河を所望したことに引っかけたのでしょうか。

2004.07.08読了

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