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忍法聖千姫/山田風太郎

2004年刊 山田風太郎忍法帖短篇全集9 ちくま文庫 や22-24(筑摩書房)

 一部の作品のみ。

「忍法聖千姫」
 三剣士に大便を食わせた“千姫”の正体は、忍法“女人幻滅”を使った夕波だと考えられます。そしてそれが三剣士の能力を高めたところをみると、その効果は純粋に外見(容貌)によるものなのでしょう。つまり、作中の夕波の問いかけを借りれば“心”よりも“顔”、ということなのですが(そして柳生童馬の選択もそれに通じるのですが)、それでいて美醜は紙一重とでもいわんばかりに三剣士の“幻滅”を描いているのが作者の食えないところです。

「忍法ガラシヤの棺」
 聖女と悪女の同居という現象は、傑作(以下伏せ字)『誰にも出来る殺人』(ここまで)を連想させます。が、それを忍法で二人に分離しておきながら、最後にそれぞれの“逆転”を示唆するというひねり具合が見事です。それぞれの特性はやはり、一体不可分だということなのではないでしょうか。

「忍法幻羅吊り」
 五人の侍に対する復讐譚(しかも似たような理由で)という意味では、「淫の忍法帖」『くノ一忍法勝負』収録)そのままといっても過言ではありません。また、最後のオチは(以下伏せ字)「逆艪試合」(ここまで)『くノ一死ににゆく』収録)に通じるものです。
 しかし、「淫の忍法帖」とは違ってただ一種類の忍法で様々な状況を生みだしているのが面白いところです。特に最後の、七塔寺一骨の皮肉な末路が印象的です。

「忍法瞳録」
 お千也の“瞳録の術”によって再現された光景が、干潟甲兵衛の報告と大きく食い違っているのが衝撃的です。これはおそらく、甲兵衛が半蔵に報告するにあたって体裁を取り繕ったのではないかと思いますが、いずれにしても、報告書という形態ならではのトリック(効果)といえるでしょう。

2004.12.13読了

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