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パッチワーク・ガール/L.ニーヴン

The Patchwork Girl/L.Niven

1978年発表 冬川 亘訳 創元SF文庫668-03(東京創元社)

 狙撃地点の“密室”状況については、居住者がシティ・コンピュータを出し抜くことが可能だったという“抜け道”が用意されているのが少々もったいなく感じられます。ただ、どうしても鏡の設置を隠蔽する必要はあるでしょうし、“抜け道”が存在しない状態ではトリックが見えやすくなるかと思われるので、致し方ないところかもしれません。いずれにせよ、狙撃時には“抜け道”は使われなかったわけですし。

 氷の鏡を使ったトリックはまずまず。熱で溶けて消滅してしまうという現象にはもちろん目新しさはありませんが、夜間はかなり低温となる「月 - Wikipedia」によれば最低表面温度は40K、すなわち-233.15℃とのこと)環境であるために、製造や取り扱いが容易であるところがポイントでしょう。そして、狙撃地点を外部だと誤認させる効果はもちろんのこと、犯人が体格の異なる月人{ルーニー}であるために距離にも誤差が生じているのが面白いところです。

 また、その鏡を使ったトリックを見抜く手がかりにもなっている“NAKF”というダイイングメッセージがよくできています。ギルも指摘しているように、プレッシャー・スーツなしで月面に立っている人の姿が小惑星帯人{ベルター}のパンズラーにとって衝撃的だったことは間違いありませんし、最後に自分の命を奪った真犯人の名前を書くわけにはいかないということも十分に納得できます。

 半年間人工冬眠状態におかれるはずだったナオミが、“非常事態”のために(題名に暗示された)“つぎはぎ細工の娘{パッチワーク・ガール}(247頁)にされてしまうという、悪夢のような顛末はやはり強く印象に残ります。しかし、『不完全な死体』などをお読みになった方はおわかりの通り、月ではなく地球であれば(移植用臓器が比較的潤沢であるために)もう少し本来の容姿に合わせた選択の余地があった可能性が高いのですが、逆に地球で起きた事件であれば直ちに解体されていたはずなので、なかなか難しいところではあります。最後には小惑星帯へ移住してしまったため、再度移植手術を受ける機会はまずありません。

2006.12.07再読了

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