ミステリ&SF感想vol.15

2000.09.10
『わが兄弟、ユダ』 『99%の誘拐』 『銀河の間隙より』


わが兄弟、ユダ Frere Judas  ボアロー/ナルスジャック
 1974年発表 (佐々木善郎訳 ハヤカワ・ミステリ1330・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 平日は銀行の出納係として単調な生活を送りながら、週末になると、ビュキュジアン教授率いる、ミトラ神を崇拝する教団・アシュラムで活躍するアンデューズ。教授に心酔している彼は、しかし今、ひとり苦悩していた。4人の教団員を殺してしまわなければならない。さもなければ、教団は破滅を迎えてしまう。すべては数ヶ月前に起こった事故が原因だった……。
 教団の洗礼を受けて力を手に入れたと確信したアンデューズは、教団の救い主となるべく、連続殺人を企てるが……。

[感想]

 この作品で解かれるべき謎はただ一つ、“アンデューズが4人を殺そうとするのはなぜか?”、だけです。ところがこれが一筋縄ではいきません。ボアロー/ナルスジャックが仕掛けた罠はなかなか巧妙です。

 物語はアンデューズの視点で進行し、その心理が緻密に描写されているために、サスペンス性が高まっています。特に、犯行の機会を作るために殺すべき相手と親しくなり、それによって彼らがよい人間であることを知ってしまったため、アンデューズの抱える苦悩がいっそう深いものとなっていくところが印象的です。

2000.08.30読了  [ボアロー/ナルスジャック]



宇宙犬ビーグル号の冒険  山田正紀
 1990年発表 (早川書房・入手困難

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99%の誘拐  岡嶋二人
 1988年発表 (徳間文庫 お3-4)

[紹介]
 昭和51年、カメラ・OA機器メーカーのリカードに勤務する生駒洋一郎が、8年前に起きた息子・慎吾の誘拐事件に関する手記を残して病死した。当時イコマ電子工業の社長だった洋一郎は、5000万円分の金塊を奪われてしまったのだ。
 そして昭和63年、リカード社長の孫・葛原謙介が、パソコン通信を利用して誘拐されてしまった。犯人からの要求は、10億円のダイヤの原石。そしてその運搬役に指定されたのは、リカードに入社した生駒慎吾その人だった……。

[感想]

 誘拐という、ミステリでは比較的特殊な犯罪を好んで扱った岡嶋二人が、十二分にその本領を発揮した傑作
 当時のハイテクを駆使した犯人の計画は、見応え十分です。1988年の作品であるため、作中で使用されているテクノロジーがやや古びている感は否めませんが、この作品では最新のテクノロジーを描くことが目的ではなく、それをどう使うのかが重要なポイントとなっているため、作品自体はまったく古びてはいません。誘拐事件としては前代未聞の設定は、ミステリ史上に輝く金字塔といえるかもしれません。
 また、20年前の誘拐事件と対比されることで、作品に奥行きが出ているところも見逃せません。

2000.09.05再読了  [岡嶋二人]



ブラックスワン  山田正紀
 1989年発表 (講談社文庫 や8-8)

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銀河の間隙より Anything You Can Do...  ランドル・ギャレット
 1963年発表 (風見 潤訳 ハヤカワ文庫SF373・入手困難

[紹介]
 4対の手足を持つムカデに似た異星人・ナイプは、宇宙船の故障によって地球に不時着することを余儀なくされた。だが、地球の知的生命体は、ナイプにとって理解不能なものだった。自身の倫理観に基づき、ためらくことなく人間を殺害しながら必要なものを手に入れていくナイプに、人々は脅威をおぼえながら、どうすることもできなかった……。
 そして10年後、地球人はようやくナイプに比肩し得る戦士、バート・スタントンを作り上げた。潜伏したナイプと対決する時が、ついにやってきたのだ!

[感想]

 〈ダーシー卿シリーズ〉で知られるランドル・ギャレットが、“ダレル・T・ランガート”(ランドル・ギャレットのアナグラム)名義で発表した、異星人の侵略をテーマとするSFですが、いくつかの点でユニークな作品に仕上がっています。

 まず、ナイプ自身にはまったく地球を侵略しようとする意図はないにもかかわらず、結果として侵略になってしまっているところがポイントです。そのため、ナイプは正面切って戦いを挑んでくるわけではなく、地球人の側が潜伏しているナイプを見つけ出し、襲撃するというパターンになっています。
 また、ナイプはその形態以上に精神が人間と異なっており、その意図が人類にとって不明であるため、それを理解する必要があります。物語の中盤でナイプの文化に関する推測が行われていますが、その過程・結果ともに、非常に興味深いものとなっています。
 そして、ナイプ以上に物語の主役となっているのが、バート・スタントンです。彼は“超戦士”に仕立て上げられる過程で、記憶の一部を失っており、ナイプと対決する準備と並行して、失われた記憶を捜し求めます。この作品は、異星人ナイプの侵略を描いた物語であると同時に、バートが“自分”を見出す物語でもあるのです。

2000.09.08読了  [ランドル・ギャレット]


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